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118:気づかれた、誘われた②

「殿下と一緒に夜会に赴かれる前に、有力な貴族の方々と直に会う機会を得れたのはとても良いことです」

「良いこと……ですか」

「ええ。元気に挨拶されて、にこにこしていれば通じる立場で参加できると思えば、運のいいことこの上ないです。もしかすると、これはマージェリー様の計らいかもしれませんよ」

「そうかしら」


 不安げなクリスティンに、ベリンダは微笑みかける。


「明日の十時に稽古場の門前に待ち合わせなら、準備の時間も十分にあります。クレス様の衣装もこちらには揃っていますから、ご安心ください」


 ベリンダの力強い言葉に勇気づけられたクリスティンは両目をウルウルさせる。


「ありがとう。ベリンダさん。私、少し楽になりました。真っ直ぐ帰らなくて良かったわ。ベリンダさんに相談して本当に良かったです」







 時は少しさかのぼる。

 クリスティンがとぼとぼとメイン通りを下っていた頃、ライアンは特別な演武場を使った報告のためにネイサンの執務室に向かっていた。

 

 廊下を歩いているとマージェリーの背が見えた。

 ライアンが「マージェリー」と呼び掛けると振り向いたマージェリーが足を止めた。


「あら、ライアン。ごきげんよう」

「今日はわざわざどうしたんだ。学院のいざこざも収まっているだろう。それとも、まだなにか心配事でもあったか」

「あの件は一件落着していますもの。今日訪ねたのはそれとは別件よ」

「別件?」


 マージェリーの前でライアンが足を止め、二人は壁際に寄った。


「ええ、クレス様を明日のお茶会にお呼びするために来たのよ」

「クレスを? あいつは平民だぞ、貴族が集まる会に呼んで大丈夫なのか」

「問題ありませんわ。クレス様は私を()()()()()()()()()ですもの。お兄様も実力を認めるオーランド殿下の直弟子なら、お呼びするのに身分なんて関係ありませんわ」

「だからって、子どもだぞ」

「子どもだから、いいのですわ」

「それは粗相をしても、許してもらえるってことか」

「ええ。愛らしい少年なら、ご婦人たちも悦んで愛でるものです。ですので、ご心配なさらずに。

 ライアンこそ、クレス様を随分と気に掛けるのね」

「そりゃあ、どこぞの夫人の不興を買わないか心配なだけさ。あの年で、あの実力だからな。瘴気が濃くなっている今、彼は貴重な存在だ」

「随分と認めているのね」

「子どもなのにあの実力は舌を巻くしかない。しかも、俺は男爵領で彼が見事な手際で魔物をとらえた様を見ている。実力は間違いない。

 オーランド殿下も旅すがらよくあんな逸材を見出したものだよ」


 感心するライアンに、マージェリーはくすりと笑ってしまう。すかさず、「なにがおかしい」とライアンが訝しがる。


「ふふっ。誰かを掛け値なしで褒めるライアンなんて珍しいと思っただけよ」

「そうか?」

「ええ、まるで聖騎士に任じられたら、相棒にでもするつもりみたいね」

「……、実のところ、それも真面目に考えようかと思っているよ」

「あらまあ」


 クレスの正体を知るマージェリーは面白そうに目を細める。

 方や、未だに気づいていないライアンは、腕を組み、真面目くさった顔で語りだす。


「あれだけの実力をあの年齢で有しているんだ。さすがにすぐにというわけにはいかないだろうが……。もう少し経験を積んで、技量を磨けば、俺の背中を預けられる気がするんだよ」

「本当に真面目に考えているのね」

「もちろんだ、真面目に考えると言っただろ。俺が聖騎士になることは確定している。となれば、自ずとオーランド殿下の役割だって聖騎士より王弟としての立場が重くなるのは間違いないはずだ」

「順当に行けば、そうですわね」

「次代の王家を支えるのがデヴィッド一人では心もとないからな。王家は、傍流にオーランド殿下の血筋だって欲しいところだろう。

 わざわざ男爵領からやってきたご令嬢の後見を名乗り出たってことは、そういう意味もあるぐらい、俺だって気づくよ」


 バカにするなと言わんばかりに、あっけらかんと答えるライアンに、マージェリーは驚く。(本当に、気づいてないのね)と呆れる気持ちを隠し、笑んだ。


「カスティル男爵領からの進学してくる方なんて初めてですものね」

「ああ、更にオーランドの殿下が自ら保護者となって庇護するとなったら、それがどういう意味を含むか、わかりすぎるぐらい分かるだろう」

「ええ、そうね。彼女も難儀な立場よね。ふふっ」

「なにが、おかしい。マージェリーだって、巻き込まれた側だろう」

「巻き込まれたって言いましても、すでに過去の出来事よ。()()()()()()()()とは意味が違うわ」


 話に違和感を感じ、ライアンが不可思議だと言いたげに眉間に皺を寄せる。

 マージェリーは意味深に目を細める。


「どちらにしろ、私は無事にクレス様を明日のお茶会にお誘いできて満足しているの」

「そうか、それは良かったな」

「なんなら、ライアンも来ます。来てくれたら、皆喜びますわ」

「やめてくれ。俺は遠慮する。誘うならデヴィッドに声をかけるのが先だろう」

「さすがに先週の件があるもの。私から呼ぶなんて、難しいわよ」

「確かに」

「他人事だから、忘れているのでしょう。普段の関係もありますもの。先週のことも重なれば、殿下を誘うなんてありえないわ」

「悪かった、軽々しい発言をしてさ」

「どちらにしろ、今日はクレス様を誘えて満足ですわ」

「まったく。クレスにデヴィッドの代わりでもさせる気か」

「さあ、どうでしょうね」


 呆れ顔のライアンに悪戯っぽい眼差しをマージェリーは向ける。

 もう二言三言、他愛無い話をしてから、二人は別れた。


 廊下を歩き始めたライアンは独り言ちる。


「あの出来事は、まだ先週なのか。もう何か月も前の様な気がしてしまうよ……」


(叔父上に挨拶してから、デヴィッドの様子でも見に行くかな。一週間しか経っていないなら、気にしているかもしれないしな)


 すっかり忘れていた従弟の存在を思い出し、いつものように城に顔を出してからライアンは家に帰ることにした。 




 学院のいざこざに振り回され、休日があってないように過ごしていたため、ライアンが城を訪ねるのは久しぶりであった。

 訪ねれば、慣れた女官がデヴィッドの自室まで、いつも通り案内してくれた。


 ノックし、入室した瞬間。

 走り寄るデヴィッドに抱き着かれ、ライアンは度肝を抜かれる。


「良いところに来てくれたライアン」

「なんですか、殿下。いきなり!」

「助けてくれ、ライアン。母上に、母上に、怒られて、怒られて……。

 明日、ウルフォード家のお茶会に行かなくてはいけなくなったんだ!」

「はぁ!」

「一生のお願いだ。

 私と一緒にウルフォード公爵邸まで一緒に来てくれ!

 どうか、私を見捨てないでくれ!!」

「一生のお願いって、あなたの一生は何百回あるんですか!!」



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