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108:学院生の水準④

(おいちゃんの名前、万能過ぎない。ねえ、万能すぎでしょう)


 すんなり納得する三人の会話が続く。


オーランド(叔父上)が用意されたものなら、それ相応の品だろう」

「学院で用意できる魔石の比ではないな」

「だからといって、高価な魔石を扱うのも大変でしょう。母は魔力量の多い高価な魔石は練習をしてからじゃないと触らせるわけにはいかないと、妹に言っていたわ」

「子どもが扱えば危ないからな」

「どちらにしろ、魔石に多量の魔力が備わっていたなら、きっかけさえ与えれば何が起きてもおかしくない!

 さすがオーランド(叔父上)だ。

 高純度な魔石を用意されたんだろう。

 そうでなければ、花吹雪や室内で花火を散らすような魔法を成しえるわけがない。

 違うか、ライアン」

 

 両目をキラキラさせ、興奮気味にデヴィッドは言いまくる。

 聞いているクリスティンは奇妙に感じた。

 三人の会話で、高価な魔石、高純度な魔石、と魔石を区別しており、パン屋の竈に添えられた魔石を修理した時も、おかみさんたちは魔石が高いと言っていた。

 平民だから手が出ない値段という意味だと思っていたが、どうも貴族間でも値段によって価値に違いがあるようだ。


 デヴィッドに呼びかけられたライアンが答える。


「そう考えるのが妥当だな」

「あの……」


 ライアンの返答と被る微かな問いかけだったにもかかわらず、三人の視線が一斉にクリスティンに向く。

 びくっと体を強張らせたクリスティンは息を呑んでから、話し始める。


「ドレスと一緒に扇子がありまして……そこに魔石がありました」


 元はただの赤い宝石であり、魔石ではない。

 クリスティンは魔力を結晶化し魔石にして埋め込んだのだ。嘘を吐くので心苦しいが、自分で作ったなどとはなお言えない。

 聞きたいことは、魔石の価値や値段についてだ。


「魔石は種類によって、価値や値段が変わるんですか」

 

 三人は不可思議な表情を浮かべ、顔を見合わせる。

 クリスティンには彼らが、そんなこともしらないの、と思っているように見えた。


「変わるな」

 

 そこは端的にライアンが代表して答えてくれた。


「魔力量が多い。大きさが小さい。輝きが多面的。

 この三点が備わっている魔石は高い。

 この中で一番値段を左右するのが魔力量だ」

「魔石ごとに魔力量に違いがあり、条件によって値段が違うんですね」


 王都の常識をクリスティンは噛みしめる。


「高価な魔石を手に入れるのは昔から財力がいるのよ。

 高価な魔石(それ)を購入できるかは貴族の甲斐性なのよ」


 トレイシーも補足してくれた。


「だいたい教科書にのっていることだ。本格的な授業が始まる前に、休み中にでも、復習がてら教科書に目を通しておく方がいいぞ」


 ライアンの忠告に対し、クリスティンは素直に頷いた。







 生徒会室を出たクリスティンは、大部屋のロッカーに教科書を仕舞い、帰路に就いた。

 歩きながら、ウィーラーの忠告を噛みしめる。


ウィーラー(先生)が魔石が作れることを秘密にしていなさいと言った理由がやっと分かった気がする)


 魔法を使うことや、剣を佩くことは注意しなくても、一番肝心かなめのところだけは注意してくれていたのだ。


 歓迎会で見せた魔法は、魔石に込めた魔力だけでなく体内の魔力も一緒に放散させている。

 その使い方も良くなかった。


 歩きながらクリスティンは反省する。


 とはいえ、結局見ている人には魔石の魔力かクリスティンの魔力かの区別はつかないのだ。気づけるのは、より高度な技術を持っているオーランド、ネイサン、ライアンぐらいだろう。


 クリスティンほどの技量があれば、ただ魔法を使うだけなら、人に気づかれにくい。

 目撃した人々は、知っている知識中で解釈し納得する。

 ただ風が吹いただけ、雨が降っただけ、雷が落ちただけという自然現象としてとらえるだろう。


 猫への憑依や木の育成を瞬時に見破れる人はいない。気づいたライアンが異常なのだ。

 精度が高い魔法とは、限りなく自然現象に似せることができる。


(忘れてはいけないわ。

 王都の人達は、自分の魔力をきっかけに魔石の魔力を引き出して魔法を使っている。

 体内の魔力を放出し、魔法にしてはいないのよ。

 魔力量の多い魔石は高価。

 貴族でも、高純度な魔石はなかなか買えない)


 王都で魔石を作れるということは錬金術にちかいのだろう。クリスティンが作った魔石もおそらく売れる。

 

(危険そう……)


 どことなく、そう直感した。

 なにがどうして、どうなるかまでは分からないとしても。

 男爵領の資金不足は補えるかもしれないが、両親が望むかはわからない。相談なしの独断はきっと一番悪い。

 

 ぶるっと身震いした。

 魔石を作ってはいけないとウィーラーが言っていた意味が骨身に染みる。


 ロッカーに教科書を納めた時、魔法魔石科の教科書だけ鞄に詰めた。今まで手元に無かったから読めなかったが、今日からは違う。


(基礎的なことが書かれているかもしれないわ。ライアンに言われた通り、休みのうちに読んでおこう)



  




 寝る前にクリスティンはベッドに仰向けになりながら、ランプの灯を頼りに教科書を開いた。


 目次をざっと目を通し、気になるページをめくる。


 小見出し『魔石の採掘』。文面をクリスティンは黙読する。


『魔石は神域山脈から採掘されている。

 神聖な地である神域山脈を荒らすことや、不当な採掘を防ぐため、採掘量の決定権および採掘場は王家に命じられ、スタージェス公爵が管理している。


 スタージェス公爵が王より特別に任じられ、賜る爵位である故に、魔石は王家の管理下にあると言える。


 魔石の流通は古くから王が統べる国家の管轄にあり、スタージェス公爵は最終決定権者として位置しているものの、近年は市場の動向を踏まえて、採掘量や流通量を数年単位で計算するようになっている。


 採掘される魔石の流通を把握することによって、市場の価格を安定させ、人々の暮らしに影響を与えないように配慮されている。


 ただし、武器に埋め込む高純度な魔石についてはその限りではない。』


 またクリスティンはペラペラとページをめくる。


 小見出し、『魔石の種類』。


 使いたい魔力を発現させそれを硬化しているクリスティンはあまり種類について考えたことはなかった。

 地方受験の時は、覚えていたといえど、これのどこが役に立つのと疑問に思っており、合格通知が届くと同時に、嫌々覚えた知識はすっかり忘れていた。

 

『魔石には種類がある。

 色彩により、魔石に込められた魔力の傾向が分かるようになっている。


 基礎四色(きそししょく)


 赤……火を象徴する。火の属性。

 黄……土を象徴する。土の属性。

 青……水を象徴する。水の属性。

 緑……風を象徴する。風の属性。

 ※土の黄色は、焦げ茶色。


 これら四色を基色とし、数色混ざり合っている魔石もある。


 単色の魔石から多色の魔石、混色の魔石まであり、魔石の色と効果の研究は未だ発展途上である。』


 またぺらぺらとめくる。


『詠唱例』という小見出しを見つけた。


 聖典の一部をもじる多様な詠唱例が載っていた。

 普段は詠唱を必要としないクリスティンだが、授業を受ける時は、みんなと同じようにする方が無難だろう。いくつか代表的な詠唱例は覚えておこうと思った。


 頭の中で数回読み返しているとむずがゆくなる。


(辛い……。ストレスたまるわ)


 能力を思いっきり出せないフラストレーション。

 神経をすり減らすまでに、極限まで放出する魔力を抑えなくてはいけない授業はしんどい。

 できることをできないふりをする。それは浮き上がらないため、意地悪をもう受けたくないという消極的な理由だが、十代のクリスティンには切実なことでもあった。


(もう、本当に、つらい。つらいわ)


 頭を抱えて身もだえる。

 右に左に体を揺すり、はたと気づいた。


(だから、おいちゃんは、授業が始まった方が騎士団の稽古場に行きたくなると言ったんだ!

 そうだ。稽古場、稽古場に行けばいい!!)


 クリスティンは初めて、三役をこなしていて良かったと思った。

 剣豪の直弟子クレスであれば、騎士団で魔力を放出させても問題ない。


(おいちゃんの威を借りれば、少々高度な魔法を使っても、だれも疑問に思わないはずよ)


 途端に嬉しくなったクリスティンは、(明日は絶対に騎士団の稽古場に行くんだ)と、るんるんした気持ちで眠りにつくことができた。



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