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104:魔法魔石科の授業開始④

 学院の正門でオーランドと別れたクリスティンは、まっすぐ大部屋にむかった。鞄をロッカーにおいて退室すると、廊下に出たところで、デヴィッドと鉢合わせした。


 同じ身長の二人はばっちり目が合い、両目を瞬かせる。

 顔を赤らめるデヴィッドが大きく息を吸いこんだ。


「おはよう」

「おはようございます」


 元気のよいデヴィッドの挨拶に、クリスティンも笑って答える。


 それだけで、二週間の空白が埋まってしまう。

 再び並んで、二人は教室へと歩き出した。


 話に相づちを打つクリスティンは、年相応の浅はかな面はあっても、デヴィッドは根に持たない明るい性格だと感じていた。人当たりも柔らかだし、身分も気にしていない。

 わがままな一面は兄貴分のライアンに甘えとして見せても、それ以外はわきまえている。

 他愛無い会話を楽しんでいれば、弟のようにクリスティンは感じてきた。


 廊下を歩く間、何人かの学院生とすれ違い、朝の挨拶を交わした。もう無視する人はいない。

 誰が悪かったと特定できない噂が発端とはいえ、先週までのことはなんだったのかと少し釈然としなかった。


 犯人を知らないクリスティンは、教室で会ったジェーンからシルビアが体調不良で一週間休みと聞き、大いに心配した。大事を取って休むだけだそうだから気にしなくていいと言われても、気にせずにはいられない。寮にいるため、お見舞いはできないと宥められ、渋々ひきさがった。


 午前の授業は問題なく終わった。例に漏れず、中等部の復習が行われ、質疑応答にドキドキしながら回答した。


 昼時になり、生徒会室に二人は行く。


 そこでクリスティンはライアンから真新しい教科書を受け取った。

 ライアンは「もう誰も悪さはしない」と言うが、念のため今週いっぱいは生徒会室で預かってもらうことにした。

 ライアンは承諾し、続いて書記の仕事内容を説明する。


 生徒会書記は行事の記録と管理を行う。教師や各委員会との連携の記録も残し、書庫室の整理も行うという。


「次の行事まではしばらくあるから仕事はおいおい覚えて行けばいい。まずは今週末の魔法魔石科の授業に参加してからだな。来週には科に準じた授業が本格的に始まる。楽しみだな」

 

 意外とライアンはゆったり構えており、戦々恐々として訪れた二人は拍子抜けした。


 三人連れ立って食堂へ行くと、マージェリーと会った。クリスティンと話したそうなそぶりを見せたが、またあとでと仲間のうちに戻っていく。


 ライアンとクリスティンの前では、年相応になるデヴィッドは、お皿いっぱいの料理を持ってきて、ぺろりと平らげる。

 

 クリスティンがいない間、周囲に気を使って大変だったそうだ。「お腹いっぱい食べれないのが苦しかった」と言って、笑った。

 王子様として気を使うのも気の毒な事だ。


 学院が終われば、歩いてパン屋に戻る。

 いつも通りの生活に戻れてクリスティンはほっとした。


 翌日からも日々、朝の店番に立つ。

 二日に一日はライアンが顔を出しパンを買っていった。

 頻度が多いと感じても、お客さんとして見れば、ただ買って帰るだけなので、悪いことはなにもしていない。よって無下にもできない。


 制服に着替えて学院に行く。

 そこでもまた生徒会室に行けば、ライアンと再会する。


 デヴィッドはくつろぐ生徒会室をいたく気に入り、クリスティンは毎日のように連れていかれた。


 ライアンは大抵、書類関係の仕事をしている。生徒会長でありながら、今までいなかった書記の仕事もこなしており、先日行われた歓迎会についてまとめた書類の最終チェックを行っていると、トレイシーが二人に説明した。

 今回は新人に任せず、最後までやり切るのだそうだ。


 書類を見つめる顔はいつも真顔。

 パン屋で見るようなはにかむ笑顔はない。


 週の中ほど、生徒会室に訪ねた時も、ライアンは書類を見ていた。お茶を淹れてもらい、デヴィッドとトレイシーの会話を聞きながら、クリスティンは密かに視線を横に流した。

 

(パン屋で会っていながら、学院でも会うなんて変な感じ)


 クリスティンの視線に気づいたライアンが、瞳を動かす。

 目が合うと予感したクリスティンは、ぱっと視界からライアンを外した。

 しばらくじっとしていても、声はかからなかった。

 なぜ見ていたなんて聞かれなくて良かったと、クリスティンは胸を撫でおろす。


 クリスティンとして知っている事、ティンとして知っていることは違う。それぞれの立場で墓穴を掘らないように気をつけないとと気を引き締めた。


 ルーティンの決まった日々はあっという間に過ぎる。

 明日は休日と言う週末。

 最後の授業は魔法魔石科の授業だった。

 教科担任はもちろん、バート教諭だ。


 一組からはデヴィッドとクリスティンの二人が参加している。

 全員で八人という少人数の授業だ。


 魔法魔石科の授業が行われるのは、たくさんの道具類に囲まれた実験室だった。

 ここで魔石を用いた実験でもするのだろうかとクリスティンはキョロキョロ見回す。

 

 教壇があり、黒板もある。

 背後の棚にはさまざまな道具や薬品などがならんでいる。見たこともない道具類に目を見張った。


 正方形の机には四席あり、四人づつ別れて向かい合って座った。

 隣の机に、手紙を渡しに来た女子学院生がいた。


 女子学院生はクリスティンを入れて三人。

 男子学院生はデヴィッドを入れて五人。

 全員一年生だ。今日は初回の授業のため顔合わせも兼ねている。通常は他学年と合同で三十人ほどで行うのだ。


 教壇に立ったバートが授業を始める。


 まずは概要の説明から。

 魔法魔石科では魔石を用いた魔法の扱い方を学ぶことになる。

 魔石を組み込んだ武器や道具を扱い、魔法を駆使する。武器や道具は大型の物から小型の物まで様々だ。

 自らの魔力を注ぎ入れ、魔石の魔力を引き出し、用途に合わせて自由自在に扱えるようになることが目標だ。

 魔石に魔力を通して、魔法を発動させる演習も行う。


 騎士科も魔石を組み込んだ武器を使うので、魔力を持っている者が多い。なくても、打ちつける魔石を持っていれば問題はない。

 魔石技術科は武器や農機具などといった魔石を組み込んだ道具作成を主体とする研究職だ。

 これらの科とは合同演習も行う。


 おおよその説明が終わると、バードが教壇の下から小箱を取り出した。


「今日は、各自の魔力を見せてもらおう」


 小箱を開きながら、教壇から降り、学院生に蓋を開いて、見せる。

 中には色とりどりの小粒な魔石が入っており、学院生はそれぞれ好みの色を手にした。


 魔石の色には種類ある。

 赤、紫、黄色、青、水色、緑、透明、白、黒など……。

 色によって特性が違い、その特性を生かす魔法が使いやすいとされている。

 赤系は炎、青系は水、黄色は雷や土、緑は風などである。

 自然現象になぞらえやすいのは、人の認識に馴染んでおり、イメージしやすいからだ。

 

(魔石を作るほど魔力を練ってはいけないのよね)


 バートの話を聞きながら、ウィーラーの言いつけをクリスティンは再認識する。


 クリスティンは紫を手にした。赤や青、黄色、緑といった色味が減っていたため、適当に手にしただけである。


「魔石に魔力を通し、その場で魔法に変換してみなさい。では、入り口側から順に立って、順番に自己紹介からたのむ。そして、現段階の実力を見せてほしい」


 バートに最初に指名されたのは、クリスティンに手紙を渡した女子学院生であった。


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