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91 サモンは止まらない

サモンはまずエルフ族長兼第2区長のマルティナの下を訪ねた。

ケイバンやギルドの連中に聞いてみても家畜に詳しいものがいなかったからだ。

そういったことに詳しそうな者で知り合いといえば、マルティナぐらいだ。


「“バヌー”と“ケイジュ”ねぇ……。どちらも飼っている家はあるけれど、複数も飼っているところなんてないわよ。“ケイジュ”は飼えないことはないけど、“バヌー”は餌がたいへんだから……。それに“ケイジュ”も毎日卵を産むわけじゃないから、どうかしら……」



やはりマルティナからみても“バヌー”と“ケイジュ”の飼育は難しいようだ。

ただ“ケイジュ”については、サモンも親戚に鶏舎に勤めていた知り合いもいたことから話を聞かされており、多少の知識はあったので、問題は入手が可能かどうかだけだった。

もちろん最初からうまくいくわけはないので、そこはトライ&エラーなわけなのだが。

“バヌー”は皆目見当がつかなかった。


「まあ、いろいろ試してみたいんだ。何とか手に入らないかな?」


サモンは今や甘味への思いだけではなくなりつつある。

料理の幅が広がるとなれば、あれこれと走馬灯のように浮かんでくる。

涎さえ出そうなくらいだった。

いつになく熱っぽいサモンを宥めるようにマルティナが諭す。


「そうねぇ、ここら辺で飼っているのは、元々が耕作用だからお乳を出す“バヌー”はいないの。だから別の街から買ってくるしかないと思うわ。商人に聞いた方が早いわよ。“ケイジュ”は増やすという手もあるけど、どうせ待てないんでしょ?」


「ああ、そうするよ。どうしてもやってみたくてね」


やるのは良いがサモンのことだ。

また大事になるのは目に見えていた。

それだと飼育するスペースは今のところ街中には見当たらない。


「ただ、どこで飼うの? 街中だと農地を潰す以外ないけど、そんなことしたらいくらあなたでも苦情がくるわよ」


一応、マルティナは釘を刺しておく。

だが一応サモンもそのあたりは考えていたようだ。


「まあ、匂いもあるから少し離れたところにでもって思っているんだけれどね」


匂いもそうだが鳴き声もある。

街に近い位置では迷惑が掛かることぐらいは承知であった。


「まあ、またどこか開拓するの? せっかくだからうちの子ども達もいけるくらいのところにしてくださらない?」


「ああ、恐らく君達か、獣人族に力を借りなければならないからな。そう離れたところじゃないさ。川向こうの少し離れたあたりにと思っている。今のところはね」


位置的にはどれくらい離すのか、サモンは決めかねている。

規模なども手に入る数で決まるので、確実に決まってから決定するつもりであった。


「そう、それなら歩いても行けそうね。でもそうすると魔獣除けが必要ね」


「そのあたりも考えていくさ。何ならここと同様に壁で囲んでもいいしね」


実際、サモンは“バヌー”を安心させるために堀と壁で囲うつもりではあったし、“ケイジュ”は鶏舎での飼育にするつもりであった。


「まあ、あなたなら容易いわね。人手がいるなら言ってね。こちらからも若いの出すから」


普段年齢のことを口にすると怒る本人から“若い”といった言葉が出たので、サモンは少し吹き出しそうになるが、そこは堪える。


「ああ、そうしてもらえると助かる。あとブロニカにも声を掛けておいてもらえないかな」


ブロニカはリザニアン(銀鱗族)であり、獣人族の族長兼街の自警団長だ。

ケイバンと同様に傭兵をやっていたこともあり、彼女はかなりの強者であった。

ただ冒険者をしたことがないためランクはないが、ケイバンによる見立てではモデナと同じくらい、もしくはやや劣るぐらいだとのことだった。

性格は傭兵をやっていたということも関係しているのか、おおむねミリスと同様寡黙ですぐに手が出るタイプだ。

ミリスも今ではだいぶ打ち解けてはいるが。

警備自体はシスターズ達が担当しているが、それでも住人側としての治安維持も必要なので自警団は組織化されている。

そのまとめ役がブロニカだった。


「わかった、声を掛けておくわ」


サモンはそんな会話をマルティナとやり取りして、ギルドのミリスのところへ向かった。

すぐにスティール商会副支配人のラッセル・ポルカを呼んでもらう。

ラッセルは丁度荷物の積み下ろしの立会い中だったらしくやや遅れてやってきた。

そして、かいつまんでサモンが説明すると、しばらく頭をひねりながら答える。


「確か“バヌー”なら帝国の西にある“モナンド”、“ケイジュ”ならば聖王国南の“セル・シキン”のあたりから入ってくるようですね」


「ということは、“モナンド”と“セル・シキン”で飼育されているということかい?」


「それは間違いないと思いますよ。辺鄙ですが、あのあたりは魔獣が少ない場所も多いので……。ただ魔獣の少ない地域だといる場合もあるので一概には言えませんが、それでも数は少ないでしょうね」


ラッセルの話によると、“モナンド”と“セル・シキン”は魔素の少ない平原が多く、魔獣も小型のものしかいないため、普通の獣などが多いらしい。

ただどちらも国の端であるため、辺鄙であるらしい。


「ならこの辺り(大森林)の近くにもいるのかい?」


「いえ、この辺りには……、昔はいたかもしれませんが、いたとしても昔から戦場でしたからみんな食べられてしまっているんじゃないでしょうか。見たことがありませんから」


「そうか、魔素も濃いしな。可能性は低いか」


「一番近くなら……。可能性があるとすれば“ロレンティア”の周りぐらいじゃないでしょうか」


「“ロレンティア”か……、確かにあそこのまわりは魔素が少ない平地が多いな」


ニケの調査でもそれは判明している。

そのような情報が、今“バヌー”と“ケイジュ”につながるとはサモンも思いもしなかったが。


「なるほどね、“ロレンティア”なら最悪“モナンド”まで足を伸ばそうと思えばその途中か」


サモンは頭の中に地図を広げ、そうつぶやく。

“ロレンティア”の周辺で探しながら進んでも最悪“ロレンティア”で購入すればいいだけだ。

“どのみち飼育方法も聞いてこないといけないしな“と、自分に言い聞かせる。


「そうですね。少なくとも“モナンド”で“バヌー”は手に入ると思いますよ。ひょっとすると市場には出回っていなくても“ケイジュ”もいるかもしれませんし。そもそもあちらからの品は、だいたい帝都か“ロレンティア”で消費されますから」


地理的にいえばラッセルのいう通りである。

抱える人口を考えれば市場として大きいのは、帝都か“ロレンティア”だ。

大きな港のある“ロレンティア”は、北の玄関口でもあり、北方交易の要だ。

それだけに帝都に次いで大きな街だ。

まだサモンは行ったことはないが、視察ついでにちょうどいいだろうと割り切って思い立つ。


「そうか、ありがとう」


そう言ってサモンはラッセルに礼を言い、その場を後にした。



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