8 “サモン”と“ニケ”
「ちょ……少し待ってもらえないか……お待ちください。もしや、その方は……」
「ああ、申し遅れましたね。“鋼の大森林”の一応主やっている“サモン”と言います。こっちは護衛の“ニケ”と言います。以後よろしく。今回はあくまでも趣味の範囲での相談なので大げさにしないように」
“鋼の大森林”の主と名乗った青年に促され、仮面の者がフードを後ろに下げた。
その姿は仮面と思われた顔ではあったが、露出した首までが鈍く暗い金属のような光沢のある質感で統一され、明らかに人ではないように思えた。
シュネーや傍にいたフォルダーは、“鋼の大森林”と“主の護衛”というワードですぐに一つの名前を思い起こした。
シュネーはごくりと生唾を飲み、体を硬直させ、一つの言葉を漏らした。
“ゴーレム……死天使……”
聞かされていた“死天使”は多くの兵をなぎ倒し、見たこともない兵器で殺戮のかぎりを尽くす“鋼の大森林”討伐戦の話に出てきたという魔物か悪魔だ。
ゴーレムのように剣や魔法を弾き、光の剣や強力な魔法で名のある傭兵や騎士、魔術師の多くを屠ったとされる恐怖の対象であった。
それがすぐ目の前にいるのだ。
それも帝国や聖王国の特使でさえも公式に会うことが叶わなかった“鋼の大森林”の主と一緒に。
ケイバン一行はそのまま部屋を出ていったが、しばらくの間シュネーは呆けたままであった。
しかしシュネーは気を取り直すと、同じく呆けていたフォルダーを叱咤し、急いで領主の所へと急ぎ面会の段取りをするように指示した。
そして、今回の“相談”のおかげで数日間、帝国では上から下まで大騒ぎとなった。