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77 大陸協会始動

大陸協会の発足式は大勢の観衆の中、盛大に執り行われた。

ただ、アレクサやシャニッサのように街中まで乱痴気騒ぎになっていない。

街の皆もこういったスポーツのイベントに慣れてきたせいか、少し大きなイベント程度の盛り上がりだ。

それでも大陸協会の旗(ドラゴンがボールを掴んだシンボルが描かれた)や色鮮やかな各チームの旗が競技場中に所狭しとはためき、壮大な景観を醸し出していた。

(もちろんスポンサーの旗もそれと同じくらいの数はあった)


式典は発起人としてサモンの挨拶で始まり、ケイバンだけでなく、帝国と聖王国の代表者が数十年ぶりに同じ場所に立ち、皆に挨拶をしていく。

それだけでもこの大陸では今までにお目にかかれない光景である。

やはり一番観客が反応したのは、ウォルケン皇帝とシュナイト第1王子が二人で終戦宣言をしたときであろう。

事前協議はすでに済ませており前日にはサモンの立会いの下、無条件による合意は結ばれていたが、これは皆がまちまち望んでいた光景なのであった。

領土問題も大森林からそれぞれも街までの中間点までということで決着させた。

ただ両者ともにサモンへの建国宣言を迫ったが、ケイバンのとりなしで断念した経緯はあった。


ケイバン曰く


「ドラゴンの縄張りを指して、ドラゴンに国を造れと言っているようなものではないのか」


これにはウォルケンも帝国内にドラゴンの神域を抱えているため言い返すことはできず、シュナイトも笑って理解を示した。

これで大森林周辺は不可侵領域、どちらの国も領有を主張しないことが両国間で交わされた。


式典は終戦宣言のあと両国での新リーグの設立の発表や役員の紹介、各チームの代表挨拶と続き、選抜選手によるエキビジョンマッチがおこなわれて閉幕となった。


終戦宣言もあったこともそうだが、なによりも大森林の立ち位置が一応明確になったことが観客のこれまでモヤモヤを払拭できたことが大きいのではあろう、騒ぎにはならず皆一様に満足げに頷いていた様子が印象的だった。


そんな式が終われば恒例の会談ならぬ“おねだり会”だ。

おねだり会とはいっても今回は、帝国・聖王国ともに高官達がそれぞれ数名ずつ参加しているため、大人数だ。

サモンとの対面も初めての者も多い。

自然にサモンやシュナイト・ウォルケンが中心となって話は進んでいった。


「さあ、これでとりあえず正式に動くことになるな。あとはそれぞれのリーグの立ち上げに専念することができるが、帝国のほうはポリーヌやイングリッドが準備を始めていることだし、当面は布製品組合の設立に向けて動くことになるなあ。聖王国のほうはどうする? キーマンは決ったかい?」


「ふむ、私でもいいのだが、私よりも“フィア“という者に任せたいと思っている。私の妹に当たるのだが交渉ごとに長けてもいるから、十分なまとめ役であろう。それに後ろにシー・ガル領主も控えている。いざとなれば抑えてはくれるだろう」


シュナイトの言葉に帝国側に小さなどよめきが起こる。

“フィア“とはシュナイトとは腹違いの妹になる” フィア・アテイト・シュタイン第1皇女“のことだ。

だがそのどよめきは、“フィア“という名前に対するものではなかった。

もちろん王族である” フィア・アテイト・シュタイン第1皇女“の名は才女として知られてはいるがこの場にいる高官達が感嘆するほどまで、その名は高まってはいない。

それはシー・ガル領主の名前が出たタイミングであったのだ。

同様にイングリッドの父、ナベンザ領主アルフォンソ大公も唸っていた。


「ほう、“鉄女ユーディー”殿が、……か。それは頼もしい」


アルフォンソが呟いた“鉄女ユーディー”。

“傑女ユーディー”としても帝国では知られ、聖王国内では亡き夫に代わり領主を務め、内政にも長け、武勇にも秀でている者の二つ名であった。

武勇については元々知られた騎士であったところに、夫であった公爵が求婚したのだから当然ではあった。

2人の間の息子が一人前になるまではと、公爵職を代理として引き継いでいるらしい。

聖王国では配偶者でも領主にはなれるのだが、あくまでも代理のようだ。

それでも帝国との戦いにおいては無双の働きをみせ、兜を被らず無表情で切り込んでくる様は、兵士に恐怖を与え、その様子に“鉄仮面女”が“鉄女”となり、いつしか“鉄女ユーディー”で知られるようになったのだ。

サモンとの先の大戦で多くの部下を失いはしたが、数少ない生き残りであった。

その後は内政に力を注いで入るようではあったが、戦場以外でその名を聞くとは思わなかったのであろう。


「正式に後ろ盾を名乗っているわけではないが、フィアはその“ユーディー”に師事しているようで公私ともに親しくしいる関係上、周りからはそのように捉えられている」


「まあ、それでは下手にちょっかいは掛けられぬな」


「そういった点を踏まえれば適任ではないかと思う。ある程度準備をさせてからサモンに合わせたいと思っている。それでよいだろうか」


「ああ、かまわないよ。時間はあるんだ。そっちのチーム編成とかもあるだろうし、こっちは競技場の建設だけだからね。後回しでもいいさ。それよりも製紙工房の件も任せるのかい?」


製紙工房とは以前シャニッサの会議で出た紙の増産の話である。

その後、紙に適した木材が聖王国の南の土地に生えた木々が利用できることがわかり、そちらに拠点を置くことまでは決まっていた。

その話の場は昨日の事前協議の場、両国が揃っている前で話は詰めていた。

布製品組合の設立の話も同様だ。

これは両国が揃っているタイミングで話をしておかないと、実際稼働した段階でそれぞれの国に不都合が出ては困るからだ。

具体的にはそれぞれの国の相場などがある。

そのためある程度それぞれの国で進行している事案を知っておく必要があったのだ。


「ああ、そのつもりだ。商会はエイワード商会を当てにしていたのだが、そっちに取られているしな。聖王国内には支店が少ない。なので別の者を当てにしている。その者と組ませる予定だ。また決まったら改めて引き合わせるよ。ついでにユーディーもね」


サモンとしても確かに今ミーア達エイワード商会引き抜かれるのは痛い。

ラテックスの増産に支障が出てしまう。

そんなところをシュナイトは気遣ったのだろう。

それにしても最後の含みは少し嫌味がかっていた。


「ああ、わかった。そのときはお手柔らかにね」


仕事が立て込んでいるため、今週はこの話だけとなります。

次話は来週となります。申し訳ないです。

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