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71 お一人様ご案内

「一体いつまでここに居ればいいんですかね? 今日で4日ですよ、前のほうの連中もさすがにもう限界のようですよ」


「私にだってわかるわけがないよ。いずれにせよレン・シャファルに荷を届けなければ大赤字だ、くそっ」


シャモンと呼ばれた男は城門のほうに向かって悪態をついた。

その悪態をついた先の向こうにはシャモン達と同様に数日前から通行許可待ちの商隊がテントを並べていた。

その数20張り以上はあるだろう。

ここまで数が多いと一つの村だ。

長い者だと1週間と聞く。

仕事を受けたときには教会の依頼だから何も心配はいらないようなことを聞き、大儲けだと喜んでいたがとんだ事故物件だ。

かといってこれを途中で投げ出せば信用問題になる。

泣く泣く通過できるようになるまで耐えてはいるのだが、皆そろそろ限界のようだ。

先に止められてた連中達が朝から騒がしい。


そんなイライラが募っていた時、不意にシャモンは声を掛けられた。


「よう、旦那、旦那。何日目だい?」


どこから来たのか、なんか冒険者風のいかつい男が声を掛けながら近寄ってきた。

女の冒険者も一緒だ。


「ん? 4日目だが、お前さんは?」


「いや、この付近の者ですよ。皆さんが困ってそうなので、お手伝いできるかなと思って声を掛けさせてもらいやした」


もみ手をしながら冒険者は話すが、どうも胡散臭い。


「お手伝い? ないよ、何も」


どうせ街の外に留め置かれている者達をからかいにでもきたのだろうと思い、追い払うかのように邪険にする。


「本当に? さすがにこれ以上足止めされたら商売にならないんじゃないかなぁ~」


胡散臭い男はシャモンの顔を覗き込むように挑発してきた。

「え~い、鬱陶しいわ! お前さんなんぞにかまってはおれないわ!」


男を振り払うかのように腕を振って追い払うシャモンであった。


そんな騒ぎに周りにいた警備に連れていた冒険者や近くの商隊の者も集まりだしてきた。


「まあまあ、イライラしないでくださいよ、旦那さん。そんなイライラを解消して差し上げますから、ね」


今度は胡散臭い男に変わりあんなの冒険者が話しかけてきた。

鬱陶しい男と違って連れとはいえ、相手が笑みを浮かべた女となればついシャモンも邪険にしにくくなる。


「ああ、わかったよ、話ぐらいなら……」


そう言ってシャモンは女の話に耳を傾けた。


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夕暮れ時、川岸に馬車から木箱を降ろす者達がいた。

プロイスはそれを苦々しく思いながら木陰から監視していた。

城門の前で商隊の者達を煽って騒ぎをおこしてやろうと考えてたところ、謎の冒険者風の2人に多くの商隊者達が引き抜かれてしまったのだ。


積み荷を街のレン・シャファル側に別ルートで運ぶ代わりに手間賃を寄越せというのだ。

そんな馬鹿な話はない。

人だけであれば道なき道を行けば抜けることは可能だろうが、プロイスが知る限り荷を運べるような道はない。

他の商人達も同様に思い男に噛みついているのに紛れて正体を探ろうとしたが、尻尾が掴めなかった。

しかもここで積み荷を一度買取るとまで言い出したのだ。

そのまま帰っても良いし、向こうで受け取ってもいいらしい。

これまでそんなは噂すら聞いたことがない、ずいぶんうまい話だ。

転移魔法でも使うのかとも思ったが、そのような者は国に1人いるかいないかだ。

このような場末にいるはずもない。

だが、商人達にとってみれば魔法だろうが何だろうがそんなことはかまわない。

一度売ることで多少は赤字になるが、元手はある程度保証され、もし本当ならば通行税より少し高めの手間賃を払うだけで、自分達の信用も守れるのだからそれに越したことはない。

このまま、何日もここで腐っているよりは利のある話なのだ。


結局、半分以上の商隊8組ほどは胡散臭い男の話に乗ったようだ。

そしてその胡散臭い男が指定した場所、街よりだいぶ手前の街道がから入った河原に話に乗った商隊は集まり荷を下ろしていった。


“おい、本当に明日の朝、受け渡してもらえるんだろうな?”


“ええ、もちろんですよ。それに代価はお支払いしたじゃないですか。品物には印もしてもらいましたし、そっくりそのままお渡しできますって”


“そ、それはそうだが……、少し高くないか渡し賃だとしても”


“いや、ここまできて値切るのは勘弁してくださいよ。通行税と運搬賃と思えば安いじゃないですか”


“ちっ、うまいこと言いやがる。ま、そっちも商売だろうし、きっちりやってくれよ。大事な荷物なんだからな”


そんなやり取りが聞こえ、最後の商隊が積み荷を降ろし、街へと引き換えしていく。

残った胡散臭い男と女の商隊を見極めようとプロイスは息を殺して潜んでいた。

するとその胡散臭い男がなぜかプロイスのいるほうへと向いて声を発してきた。


「よう、旦那。いつまでもそんな所にいると虫に刺されるだろ? 遠慮しないでこっちに来いよ。何か聞きたいんじゃないのか?」


“しまった!?”とプロイスは内心思い慌てた。

隠形のスキルを持つ自分を察知されているとは思わなかったのである。

それば同時に自分以上のスキルを持ち合わせる手練れだということにほかならない。

しかもそれを今の今まで自分にさえ悟らせないほどの者だということだ。

だが今はそれどころではない。

ここを引くか、意を決して直接対面するかの二択なのだ。

だが、それはすでに一択になったことを今気づいた。

前の光景に集中しすぎて後方に3つの気配が近づいてきていたのだ。


「ああ、すまないね。俺も抜け道を知りたくてね」


プロイスはこの場を凌ぐためにも、敢えて姿を晒した。

今の状況で後方に下がることはリスクが高いと判断したためだ。

なぜならば気配からして後方の3人もかなりの手練れだった。

逃げるチャンスがあるとすれば、もっと近寄った時が勝負であろうと考えた。


「いや、悪いんだが商売敵が増えるのは困るんだ。大人しく帰ってもらえないかね」


言葉通り受け取ればプロイスにとってはチャンスである。

正体まではわからないが、手練れの集団が何か仕掛けてきている確信は持てたのだ。

それだけでも十分だった。


「そうか、なら仕方がない。せめて仲間に入れてもらえないかとも思ったんだが、今日は一旦帰らせてもらうよ」


プロイスがそう言って立ち去ろうとしたとき、思いもよらない男の言葉がその足を止めた。


「なんだ、長いこと息を殺していた割に諦め良すぎだろ。せめてもう少し粘ってみせたらどうだい。プロイス殿?」


“向こうはこっちを知っている? 伯爵の手の者か?”などと一瞬そんな思いが廻ったが、このような者が近くにいた記憶はプロイスにはない。


「はて、どちらかでお会いしていましたかね?」


相手が名前を出している以上白を切っても仕方がない。

むしろ相手の情報を出してもらうよう仕向けるのが得策と判断した。


「そうだなあ、……ないね。それよりもおたくら銀や塩を運んで何がしたいの?」


“!”


ずいぶん直球な問いに逆に意表を突かれた。

こういうときは外堀を埋めるように聞きたいことに近づくものなのだが……。

“まさか、動揺を誘うためか“とも疑う。

なかなかこのような尋問にも慣れているようだ。

このような状況では相手の心に隙を作った方が有利だ。


「まあ、何でもいいや。とりあえずしばらく大人しくしててほしいのさ。そうしてくれないとうちの主が首突っ込みたがるから俺達もゆっくりできないだよ」


プロイスが返答に迷い黙っていると男は、矢継ぎ早に自分勝手な主張を繰り出した。


“主?”


そこにわずかながら伯爵の手の者ではないと思えるヒントを見つけた。

だからといってこの状況が変わるものではない。


「その“主”とは、一体どなたなんでしょうかねえ? ご挨拶も兼ねてお会いしてみたいですなあ」


このときプロイスは完全に読み間違えていた。

いや、実際にはプロイスがサモン達(正確にはニケだが)に捕捉された時点で詰んでいたのだが、ダルマシオ伯爵側に“鋼の大森林”勢力が協力していることなど知る由もなかったのだから仕方がない。

もしプロイスが“主”の意味を知っていたのならその後の展開は違うものとなっていたかもしれない。

しかし“主”なんて言葉は大森林に近しい者以外には、男衆や雇い主ぐらいに使われる一般的な名詞でしかない。

プロイスが勘違いするのも当然だった。

だからであろう、今のやり取りを聞いて横にいた女が一瞬笑いを堪えたように見えた。

それを見てプロイスは違和感を覚えた。

そしてその違和感は不安へと変わっていく。

男が続けた言葉に。


「ん? そうか。そりゃ好都合だ。なら、会ってもらおうか、“我が森の主”に」


プロイスはここに至って“主”と呼ばれる人物に思い当たった。


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