7 提案
“なるほど、一部だがうちの冒険者の要望を叶えるためにやってきたということか。しかし、そいつらは依頼をこなしているのだろうか?”
ケイバンの長い説明に、おおよその話の流れは理解できたし、ここにケイバン達が来た理由もシュネーにはわかった。
“まあ、そのサッカーとやらのためにわざわざギルドマスターがくることなのか?それに娯楽のためにサッカー場を作れだなんて、……仮にもここは他国の街なんだぞ。常識外れだし、あまりにも横暴ではないだろうか”
と、憤慨する気持ちも沸き起こった。
そんな気持ちを察したのかケイバンはすぐに言葉を繋ぐ。
「もちろん、サッカー場はこちらで作る。そちらは場所だけ提供してくれれば良い。そしてサッカー場ができた後はそちらで運営してかまわない」
これは施設の建設費は“鋼の大森林”で出すと言っているようなものである。
この申し出にシュネーの憤りも関心へと大きく変わる。
「建設はそちらで……あとはこちらの好きなようにということでいいのか?」
「ああ、それで良いとうちの主は言っている。もちろん利益は対戦チームの分を引いたものにはなるがな」
ケイバンの脇にいる青年もうなずいている。
大きな目を見開いてシュネーは前のめり気味にケイバンに詰め寄ろうとする。
「利益?…商売になるのか」
「そりゃそうだろ。試合を見に来たやつらから見物料が取れるしな。見物料を取らなくても周りに屋台でも出せば出店料が取れるだろ?何らかの収入は見込めるのさ」
「なるほど、確かに娯楽の少ないこの街なら多くの見物人があるだろうな。しかしどのくらいの土地が必要なんだ」
「200m四方の広さもあれば十分さ。だろ?」
ケイバンはそう言って横の青年に尋ねた。
「そうだな、それぐらいはあった方がいいな。おそらく街の中には無理だろうから外でかまわないよ。魔物対策もするから心配はしないでいい。……まあ、そういったことを話し合いたかったのだがどうだろうか。……すぐに返事が聞けるとも思ってはいないが」
今まで黙っていた青年が突然にこやかに話し、脇から一つの冊子のようなものを取り出す。
「それとこれが草案だ。この街のサッカーチームには一応打診はしてあるから、そいつらがこちらに来た時に渡してもらえれば良い。一応7日間この街の宿に泊まることにしている。宿木亭というところらしい。サッカー場の件はこちらに返事を寄越してもらえると嬉しい。……では、行こうかケイバン」
その言葉と同時に青年は頭を下げ、ケイバンもそれに倣う。
年齢に似合わない堂々とした物言いと、先ほどから態度から一つの仮説にシュネーは行き当たった。
それと同時に血の気が引いていくのを感じ、息をのむ。
特に威圧を感じたわけでもない。
終始、ケイバンの隣でにこやかに座っていただけであったが、その事実に思い当たると自然と体が震えてきたのだ。