67 ミーアとの合流
翌日の完成祝賀会も滞りなく済ませ、まだまだ話したりないというシュナイトを強引に説き伏せ、ザラタン司祭を含めたサモン達一向はダルマシオ伯爵のいるカルス・レークへ出立した。
ミーアの待つアン・ガミルに向かう。
ただ、このまま馬車で向かうには時間がかかりすぎるので、サモンはこの日のためにある物を開発していた。
いや、正確にはニケ達なのだが……。
その名も“エアワゴン”だ。
現代でいえば水陸両用空気浮揚艇となる。
船体外装は一部合成の関係で金属にはなるが、全体的にはこの世界に馴染むように木造となっている。
パワーユニットは“異階層性力場エンジン”と聞きなれない物だ。
どうも説明を聞いたところ、異なる次元間にある異階層性力場(異なる次元間に生じる力場の高低差を利用したエネルギーらしい)を利用してジェット推進機並みのパワーが出るらしい。
特に風を猛烈に噴出させるため音はうるさいが、船体を1メートルほど浮かせられるためある程度の障害物は気にすることはない。
また内燃型エンジンではないので振動もなく、その点は快適であった。
なお、アニソトロフィ・シールドもしっかりと装備されているので、人の目も乗り降り以外は気にせずに済んでいた。
別にレイナエターナ(ニケ達の母艦)にある輸送艇でもよいのだが、見た目がオーバーテクノロジー過ぎるので、見た目だけでもこの世界に合うものにしたわけだ。
まっ平な場所であれば時速100㎞ぐらいまでは平気なようだ。
ジェットエンジン並みの推力はあるので、マッハぐらいも可能かもしれないが、ただの人種であるサモンには限界があるため、そのぐらいまでにしてくれと頼み込んでいる。
このような“エアワゴン”だが、大きく目立つのでサモンは初め馬車で旅立ち、途中人気のないあたりで“エアワゴン”を転送してもらい、これに乗り換えた。
ケイバンやモデナ達にとっては慣れたものだが、こういったオーバーテクノロジーに不慣れなザラタンは顎を外すほど驚いた。
ちなみに今回馬車はイオの伝手で御者とともに借り受け、先に折り返してもらった。
御者は不審な顔をしていたが、雇い主の言葉なので素直に従っていた。
ザラタンはここで初めてフィライピ司教の言った、“サモン殿には絶対に手を出してはいけませんよ”という言葉の意味を思い知った。
それまでサモン達を観察していて、サモンを取り巻く一行の一人ひとりは並外れた冒険者のオーラを感じ取れてはいたが、サモンだけにはどうしても感じ取れず手出し無用の戒めを疑っていたが、ここにきて初めて信じる気になったのだった。
その後、一行はこれまで体験したことのない移動速度で過行く景色を楽しみながらアン・ミガルまでの旅路をくつろいだ。
ただアン・ミガルまでの道のりは人も多く、時折迂回するなど工夫も必要だった。
だがそんな気苦労の賜物か120kmほどの距離を4時間ほどで完走することができた。
これは優れた索敵能力や遠距離攻撃による障害物の排除など、ニケの能力によるところが大きい。
まともに街道を走れれば、2時間もかからずに着けただろう。
まあ、ともあれアン・ガミル付近までたどり着いた一行は、例のごとく人気のないところで“エアワゴン”を降り、アン・ガミルのエイワード商会の扉を開いた。
「まあ、随分早いおつきでしたね」
自分自身も長旅を済ませたばかりだというのに、相変わらず元気そうな表情で明るくサモンを迎えたミーアがそこにいた。
「ああ、うち(鋼の大森林)のほうでも式典が迫っているからね。急いだのさ」
「シャニッサの式典がずいぶん早く終わったかと思いましたわ」
「いや、予定通り今日の午前中だよ」
「えっ、そうなのですの?……。あっ、また何か作ったんですね」
それまでの明るい表情から一瞬にしてミーアの目が細くなる。
“また何か面白いものを作ったのならすぐにおっしゃいませ“と言わんばかりだ。
やや慣れてきたサモンは、“よく表情がころころ変わるものだ”と感心する。
そんな時“ムンズ”っとミーアの襟首を掴んで引き寄せる人物がいた。
「まあ、まあ、初めまして。いつも娘がお世話になっていますゥ。母のミレイアと申しますゥ。遠いところわざわざお越しいただいて……」
ズイッと顔を近づけてその胸と同じように圧迫感のある女性はミーアの母であった。
「いえ、お礼には及びません。“持ちつ持たれつ”、商人と商人の関係ですので……」
「まあっ!“くんずほぐれつの関係”って、まあ、どうしましょ……」
なぜか頬を染めてあでやかな表情を見せる母ミレイア。
そんな様子を見て、“いや、どう曲解したらそうなるんだ”とサモンは突っ込みを入れようとしたら、そのミレイアの襟首が掴まれて後方に引きずられていく。
その様子に圧倒されサモンは無言でいたが、しばらくミレイアとミーアは言い合いをしてやがてミーアが戻ってきた。
「うちの母親が失礼をしていしまってすいません。急いで出立いたしましょう。パルっ!いきますわよ」
脇に控えていた側仕えのパルを呼び、サモン達を紹介の外へといざなうミーア。
「おい、いいのか。ハンカチで涙拭ってたぞ」
「いいんですわ。端々の男性に色目を使って……」
「いや、別に色目を使ったわけじゃ……」
サモンはグイグイとミーアに押されながら言葉を掛けるが、鬼気迫る勢いに負けてなされるまま外まで移動させられた。
この感情表現の豊かさにサモンもそうだが、ミーアを知るケイバンなども“あの親にしてこの子あり”と内心納得していた。
そんな妙な流れもあったが何とかミーアとともに街を抜け出し、カルス・レークへとやっと向かうことができた。
だが、その途中ミーアが声をあげた。
「あら、カルス・レークへ向かうのではないんですの?」
そう、今一行が来た道、つまりはシャニッサに向かう道を戻っているのだ。
しかも徒歩だ。
「いや、向かうよ。こっちからのほうが早い」
「確かに川沿いに道はありますけれど崖や山道で、馬車は通れないはずじゃ……」
ミーアはこの時点では、また豪華な馬車でも作ったので街の外に馬車で止めているのかと思っていた。
「ああ、そう聞いている。……だから川を行くんだ」
シャニッサとカルス・レーク間にはソルたちが来た山道しかない。
確かに川が流れてはいるが、船が水の流れに逆らって進めるような流れではない。
船で下ることは可能だが、下ったとしても戻るための陸送が馬鹿にならない。
そのため日常的には利用はされていない。
“船で下るということも可能ですけど、戻れるのかしら?”
そんな疑問を抱えたままミーアは1Kmほど歩いていくと、例の“エアワゴン”の前に立たされることになる。
来た時同様に人気のない場所でその姿を現した“エアワゴン”は、一目でミーアに気にいられ、その巨体ごと浮遊感に包まれ疾走しだすとさらにその高ぶる気持ちは加速した。
そしてミーアは予想通り“エアワゴン”に歓喜し、いつものおねだり攻撃をサモンに仕掛けたが、さすがに売り物ではないため素気無く却下された。
その姿に内心パルは、“このような姿をされなければ……”と嘆いているのであった。
やがて“エアワゴン”はシャニッサの手前に流れる“リ・ニーザ川”へとたどり着く。
もうこの頃は日も落ちかけたこともあり、宿に泊まるかとの意見もあったがそのままカルス・レークへ向かうことになった。




