61 ソル合流
突然サモンに連絡を寄越してきたケイバンの腐れ縁。
「よう、久しぶり。皆は変わりないかな? こちらは妙なことに首を突っ込むはめになっちまった」
“巻き込まれた”みたいなセリフを吐くソルに、そういう本人がいつも自分達を変なことに巻き込むことを知っているケイバンには笑うしかない。
「久しぶりだね。丁度みんなここにいるよ。妙なことに首を突っ込むのはいつものことじゃないのかい?」
「やだなあ、やめてくれよ。まるで俺が皆を巻き込んでるみたいじゃないか」
ケイバンとクリスは苦笑いをし、ミリスやモデナは顔を引きつらせている。
「まあ、その辺でおふざけは終わりだ。緊急なんだろ、早く用件を言ってもらいたいな」
「ああ、すまん、なつかしくてついな。用件はなんだ、その、シャニッサの式典にサモン達も参加するんだろ?」
シュナイト王子もずっとシャニッサに滞在しており、もうずいぶん前から聖王国のあちこちで噂となっていた。
ソルが知らないはずはない。
「ああ、丁度そのシャニッサにいるよ。それが?」
「まあ、それはいいいんだ。確認だがこの国の王子が来ているのか?」
「ああ、来てるね。さっきその件で話し合いに参加してた」
手紙の元の持ち主は“王子“とだけしか言わなかったので、シャニッサに向かっていることからここにいる王子だと見当をつけただけだったが、当たったようだ。
「そうか、一つ仕事ができてその王子に手紙を届けなきゃならなくなった」
「はぁあ~、どうしてソルがそんなことに?」
「まあ、成り行きでな。だから王子のいる場所が知りたい。わかるだろ? パウリーネは“任務外“だって拒否しやがるんだ。心の狭い奴だ。……あいたっ!」
どうやらソルはパウリーネからお仕置きを受けたらしい。
「まあ、パウリーネの任務は連絡要員だからね。護衛でもないし、下手に扱うと反撃されるよ。……王子はシャニッサの領主館にいると思うよ。今日は来賓の挨拶で忙しいって聞いたよ」
「そうか、わかった。それとレン・シャファルでシスターズを連れた商人を見たぞ。あれはサモンの知り合いか?」
「ああ、おそらくミーアだな。最近知り合った商人の娘だよ。いろいろ協力してもらっている。ダルマシオ伯爵のところまで行っていたはずだ」
「ああ、そうみたいだな。気になったんでしばらく追っかけてみたよ。そしたらこんな羽目になった」
「おいおい、まさかミーア達が絡んでいるんじゃないだろうな?」
「いや、直接は関係ないと思う。おそらくダルマシオ伯爵のところでトラブルだ」
「そうか、一応スカーシャが付いているから万一のことはないと思うよ。どのみち式典が終われば合流してダルマシオ伯爵に会いに行く予定だしね」
「そうかい、ならこちらも合流しておくかな。積もる話もあるしな」
「ああ、かまわんよ。こちらも聞いておかなければならないことがありそうだ。……一応断っておくがミリスとモデナも一緒だからな」
「なっ!」
何やらソルが驚いたような声をあげたところで通信が切れた。
いや、サモンがニケに指示して強制的に切ったのだ。
ケイバンとクリスはついに噴き出して笑い、ミリスは眉間にしわを寄せ、モデナはすでに目が吊り上がっていた。
「あ、しまった。落ち合うところを知らせてなかったよ」
「なに大丈夫さ、向こうから見つけてくるさ。向こうにはシスターズもいることだしな」
ケイバンがニケを見ながら言う。
ソルのほうにスカーシャが付いているとなればいつでも連絡は取れるはずだ。
なのでソルのことは放っておくことにした。
一方のソルだが、連絡を絶った後、スカーシャに散々文句を言い、きっちりお仕置きをされて再度シャニッサへの道を急いだ。
日も暮れかけた頃には山道からアン・ガミルからシャニッサに向かう街道筋に出られた。
そしてリ・ニーザ川を越えてシャニッサへと向かう。
城門を抜け、領主の館に着いた頃にはすでに陽が落ちていた。
館の門番に“サモンの使者”ということを伝え、あっさりと館内に招き入れられる。
警備の兵も訝しんだが、“サモン”の名前を聞けば大森林の主であることはわかるため無碍にはできず、領主へと案内せざるを得ない。
「サモン殿はすでに街に入られたのか?」
王子のいない別室で出迎えたシャニッサ伯爵領主シャル・ヴィルト・シュヴァインが、念のため問いただす。
「ああ、今日入った。だが参上した趣は別の件だ」
ケイバンの話した通り、ソルはサモンと同様に媚びることはしない。
女に対しては別だが。
不敬な態度ではあるが、サモンとの繋がりもあるため伯爵はいちいち腹を立てたりはしない
「ん、どういうことかな?……」
伯爵が言いかけたときにソルが懐から手紙を差し出す。
目の前に貴族がいるのには不適切な物言いと行動にはさしもの伯爵も訝しんだが、差し出された手紙を受け取り、目を通す。
手紙自体はダルマシオ伯爵から王子に向けた相談事のようで、怪しいものではなかった。
ただし、内政と教会の絡みについての告発のようなものなので、自身が対応して正解だったと内心思った。
「ふむ、これは王子にお渡ししよう。ところでそなたは本当にサモン殿の供なのか?」
「いんや、供ではないな。サモンやケイバンの“朋”だよ。伯爵」
「ふむそなたを信じよう。これはそなたが託されたのか?」
「いや、たまたまそれを持っていた使者が倒された現場に居合わせてな。仕方がないから大森林に帰るついでにこちらへ寄っただけさ」
貴族の前だというのに特に媚びる様子もなく、怖気もせず普通に話しこちらの問いには簡潔に応える。
サモンとどこか似通った雰囲気のあるこの男は、どこか伯爵に信頼させる何かがあった。
「なるほど、わかった。しばし待て」
「いや、このあとサモンと会わなければならないから、このまま行くとするよ」
「なにかしら、褒美でも……」
そう言いかけて伯爵は言葉を切った。
この男やサモンといった人物には自分達とは違った価値観があるのだろうと思いなおし、これ以上引き留めることは無駄だと悟った。
“ここから一日ほど行った川沿いの裏道に、騎士が倒れているので弔ってほしい”
ソルは去り際に伯爵に一つだけ頼みごとをしてその場を後にした。




