60 懐かしの通りと男
シャニッサ競技場の落成式前日、サモン一行は予定通りシャニッサ砦へとたどり着いた。
サモンはアレクサの式典が終わり次第一度大森林に戻っている。
それからシャニッサに向けてケイバン達と出向いたが、こちらもアレクサと同じで前回来た時よりも賑わいを見せていた。
前回、ケイバンは来れなかったので同行していた。
今後も大陸協会として付き合っていくためにも早めの顔合わせは大切である。
またそのついでではあるが、冒険者ギルドマスターになったミリスや交渉役のクリスにも付き合ってもらっている。
式典後の予定は大陸協会の式典もあるためケイバンやミリスはとんぼ返りだが、サモンとクリスはそのままにダルマシオ伯爵の元へ行く予定だ。
またミーアにも連絡を取った結果、一度アン・ガミルの本店に戻るらしくアン・ガミルで合流することになった。
まだ日も高いのでサモン達は一度協会のほうへ挨拶をしに向かう。
やはり競技場の周りは前日祭ではないが屋台が出ていてアレクサのように人が多く繰り出していた。
中に入れるわけではないが、雰囲気を楽しみに来ているのだろう。
専用の門まで来ると衛兵が居たため、協会の職員を呼んでもらって中へと入る。
会議室に通されると全員ではないが数人が会議をしていたようだ。
冒険者ギルドマスター“イオ・クライネ”、魔術師ギルドマスター“イレーネ・バスコ”、
鍛冶師ギルドマスター“ロニー・クレッチマン”が明日の警備状況の確認をしていたようだ。
国王ではないが、シュナイト・エーデル・シュタイン第一皇子が出席することもあり、念には念を入れているらしい。
当の本人シュナイトは昨日から来だした貴族達の挨拶の相手だそうだ。
商業ギルドマスターのファン・マルティネスは街が賑わっていることもあり、こちらに顔が出せていないらしい。
サモン達が来た時でさえ、いつもより大森林からシャニッサに向かう馬車は倍ぐらいの数であった。
そんなこともあり交易の手続きなどで忙しいのだろう。
そのため、このメンバーで確認していたところだった。
突然現れたサモンに3人は驚愕と同時に泣いて喜んだ。
どうやらいろいろ困っているようだった。
今もその話で悩んでいたそうなのだが、どうやらあの能天気なシュナイトの警護の話らしい。
やはり聖王が病の床に伏していて、聖王国の情勢は不穏らしく、聖都の情報が時間とともにそこで誰と誰が争っているとか、誰がどこの派閥に鞍替えしたとかの話が多くなっているというのだ。
聖王国の王子は3人いるが、第1王子であるシュナイトと他の王子は母親が違うために、聖王をめぐって争いになるという噂も聞かれるところだという。
そのため今回のようなほぼ野外のような状況はシュナイトの身の危険は高くなるのだ。
しかし、騎士団が警護に付きはするものの、10人程度しかおらず、群衆の数を考えると不安らしい。
しかたなく結界魔術師の手配はしたもののそれでも不安だそうだ
だが、それを言ってもシュナイトは“そんな馬鹿な。
“我を排除してどうなる、継承者の指名もまだなのに”と言われ、騎士団からは根拠もなしに“大丈夫だ。心配には及ばん”と相手もされない始末。
もし何かあれば主催者である自分達が責任を取らされるのである。
そんな時やってきたサモンは、まるで天使のように見えたのかもしれない。
そんなことに時間を費やしてもしょうがないのでサモンが手を差し伸べることにした。
「式典中はこちらでも安全確保はしておくよ。だから式典のことだけに集中すればいい」
そのサモンも一言で3人は肩の荷が下りたようで脱力した。
サモンとしてはシスターズの2人ほど配置すれば済む話なので苦にはならず、ニケに指示してその話を終わらせた。
それ以外は順調なようで、広告もエイワード商会のおかげで、オニキス商会やフローシュ商会といった商会も参加してくることになったという。
また、アレクサでは見られなかったが、パン屋や雑貨店などの小さな小売店も小さいながらも看板や垂れ幕が掲げられ、それもシャニッサだけでなくアン・ガミルなどの近隣の街からも参加していたのだ。
よほどミーアが宣伝したのだろう。
実際3人に聞けば他の街の店についてはエイワード商会に勧められたと聞いたらしい。
おかげで広告については弾みが出たと感謝していた。
ミーアがどうしてそこまで頑張ったのかはサモンの知るところではないが、その見返りが恐ろしいなと寒気を覚えた。
しばらくサモン達は話し込んで、去り際にイオから明日の件を伝えられた。
「まあ、予想はしているだろうが、明日は式典の後、王子が話したいとさ。それとファンの奴がオニキスとエイワード、それとフローシュに会ってくれとよ」
「ああ、そうなるだろうね。何をねだられるんだろうかね?」
「さあな、ただ聖王国でも教育に力を入れたいってこの前話していたぞ。お前さんとこは子どもでも計算ができるんだろ? こっちでもそうしたいって話じゃないか?」
「ふうん。そういったことなら協力できなくはないけど、まずは話してからだな」
「ああ、そうだな。ところで宿はどうする。もう街中の宿はいっぱいだぞ。協会にでも泊まるか?」
そう、サモンは着いたときに一抹の不安はあった。
競技場の周りの人の多さに、“ひょっとして街の宿泊キャパを越えてる?”と感じていたのだ。
ただ別に泊るところがなければ野宿でもいいと思っていたので、その場では後回しにしていただけだ。
実際、危険もあるが街の外にテントが建ち並んでもいたりした。
「そうか一杯か。ならそうするか。連れはみんな冒険者上がりだから野宿でも大丈夫だけどな。……ああ、こういうときが困るか。じゃあ、協会の横に増築してもいいか? まだスペースはあっただろ?」
確かにこういうイベント時の宿泊能力を考慮していなかったのは反省点だ。
アレクサの場合、もともとそれなりの規模の街であり、冒険者も多く抱えていることもありそれなりに宿泊能力は持ち合わせていたのだ。
なのでシャニッサの場合、もともと砦の機能しかなかったところに街ができただけなので、宿泊能力はそれほど余裕があるものではない。
そのためこういうイベントで人が集まると、その弱点が露呈してしまうわけだ。
協会としてもこれからの改善点だろう。
だがそれは横に置き、サモンらしい解決方法の提案だが一般的には簡単ではない。
だが提案者がサモンなのでイオは一瞬思考が止まったが、すぐに切り替える。
競技場が数日で建つくらいなので部屋の一つや二つぐらい問題ないのは理解できるが、イオは一応聞いてみた。
「ああ、スペースはあるが今からか?」
「ああ、すぐに済む。ニケ頼む」
ニケは頷くだけだったが、すでに行動に移っているのだろう。
行動とは言ってもタルサに伝達し、施設化連隊をここに呼び寄せるだけであとはタルサ達が建ててくれるはずだ。
寝るだけであればボックス型の部屋を転送して合体させるだけで済むので、陽が沈むまでには終わるだろうとのことなので、街に繰り出すことにした。
街の中はさすがにお祭り騒ぎということもありごった返していた。
人がひしめき合うほどではないが、気をつけないとぶつかってしまう程だ。
サモン一行は街の中をしばらく歩き街の雰囲気が確実に変わっているのを感じ取る。
なかには以前ドース達と知り合ったオイゲン通りのそばも通り懐かしんだ。
以前はシャッター街のようなオイゲン通りも集合住宅化が進められているようだった。
聞けば、低所得者層に対して貸し出すようになるとのことだ。
どうもシュナイト王子の一声で決まったらしい。
行動力のあるシュナイトらしい決断だとサモンは以前のオイゲン通りを思い出しながら思う。
それは傍にいる笑みを浮かべながら眺めていたシスレィの面々も同様のようであった。
そしてサモンがなつかしさに浸っている時に頭にニケの声が伝わった。
“ソル様に付けていたパウリーネから通信。至急連絡乞う”
ケイバンがサモンの気配が変わったのを察知した。
「うん? ソルからの連絡要請だ」
その名にケイバンだけでなくモデナ達も驚いて、サモンに注目した。
「ほう、珍しいな」
ソルはケイバン達の古いなじみだが、落ち着きがなくいつもどこか行ってはいつの間にかに帰ってきているといった放浪癖のある武人だった。
今回も3か月ほど前にいなくなって以来だ。
もちろんそんなときのためにシスターズのパウリーネを付けていたのだが、これまでに連絡はなかったのだが、そんな男からの連絡路あっては皆が色めき立つのももっともだ。
しかも至急ということであればなおさらのことだ。
サモンは街中の小さな路地に移るとニケに回線を開くように伝えた。
すると懐かしい声が聞こえてきた。
「よう、久しぶり。皆は変わりないかな? こちらは妙なことに首を突っ込むはめになっちまった」




