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51 わがまま皇帝

「だからそこを何とかしてもらえぬかといっておるのだ」


「だから、遠いんだっていってるだろ」


今、サモン達は教会の会議室にいた。

落成式自体はサモンやウォルケン・ブルフ皇帝、イングリッドらが挨拶を述べ短時間で終わった。

今はウォルケンがサモンを捕まえ、先日のカイエン競技場建設のおねだり中だ。

すでに二人の会話は飲屋の会話レベルになっていた。

もちろんこの場にはイングリッドら協会役員や皇帝の側近にあのドンナー近衛騎士団長も一緒だ。

相変わらずドンナー近衛騎士団長は仏頂面だが、どんな会話になっても口を挟んではこない。


「ならばこれはどうだ。カイエンでもチームを作る」


「いや、この前も言ったようにカイエンまで試合に行けないだろ」


「だからアルフォンソに言ってナベンザでも作らせる。それならこちらでも試合はできる。そしてこっちとそっちで強いチーム同士で年に一回、この国の一番を決めるのだ。どうだ、面白そうだろ」


サモンが恐れていた流れをドヤ顔で披露したウォルケン。

父親の名前が出てイングリッドが驚いている。

その表情を見てウォルケンの暴走だと悟り、サモンはうなだれた。


“かぁ~、そこにたどり着いちゃったかぁ~”


協会役員一同は賛成していいのやら悪いのやら、皆が困惑した表情を浮かべていた。

先日の話の落としどころとしては、ウォルケンの言ったようなリーグ制だろうということは薄々サモンも予想はしていた。

ただこれからシャニッサや大陸協会の式典もあるので、話を先に延ばしたかった。

今は面倒くさかったのである。


そんな時一人だけいなかったイザークが入ってきた。

そしてその後ろに3人ほどの連れを連れて来た。

ベイヤード商会のサバス会頭、クルト商会の会頭クルト、グラント商会のアレクサ支店長ポリーヌだ。

ポリーヌは、グラント商会会頭のブレアが来ていないため連れて来られたようだ。


3人は部屋に入ってウォルケンに気づいて驚き、膝をついて頭を下げた。

2人の会頭はもちろん顔を知っていたのですぐに膝をついたが、ポリーヌは2人をまねて遅れて膝をついた。


「そんな礼など今日はよい。ここにいるのは協会の役員がいるだけだ。立つがよい」


そう促され、イザークの勧めもあって立ち上がり席に着いた。


「今日は陛下のお招きと会って参上しましたが、一体いかなる趣向でございましょうや」


代表して年長のサバス会頭が伺いを立てた。


「よい。先ほども言ったがここにいるのは役員だけだ。普段通りに話せばよい。普段通りな。そうでないとここにいる友の機嫌が悪くなる」


「友とおっしゃい……友というと?」


「お前たちも会いたがっておったであろう。この者だ」


ウォルケンが隣の男を指さして言った。


「ああ、俺? 俺はサモンだ。ここを作った者だ。よろしく」


“ここを作ったってことは……大森林の主!”


3人の商人は心の中でハモッた。

これまで会おうにも会えなかった人物で、この先進的な建築物を無償で提供した人物だ。

それが目の前にいるのだ。

しかも軽そうなひょろい男だ。

3者3様で多少違うが、大森林のイメージからもっとがっちりした冒険者風をイメージしていた。

だがその後ろを見ればフードを被った怪しい人影が控えていた。


サモンとウォルケン皇帝達の私的な談笑会に引きずり出された3人。

ベイヤード商会のサバス会頭、クルト商会の会頭クルト、グラント商会のアレクサ支店長ポリー達は皇帝だけではなく、大森林の主までいる部屋に通され驚きとイメージのギャップに言葉も出なかった。


そんな3人を見かねてか、ウォルケンが彼らを紹介する


「サモンよ。彼らが帝国内に本拠を構える大商会の者達だ。ベイヤード商会のサバス会頭、クルト商会の会頭クルトにグラント商会の……ブレアではないな?」


「グ、グラント商会のア、アレクサ支店長ポリーヌと申します。陛下」


“なんで自分がこんなところへ”と思いながら震える声で、何とか返事をしたポリーヌだった。

ブレア会頭がこの場にいないのが悔やまれる。


「へえ、3大商会ってところか。で、どうしてこの3人を?」

「まあ、サモンよ、聞いてくれ。先ほどのカイエスとナベンザに競技場を建設し、こちらはこちらで試合を行うにあたってはやはりここと同じような組織を作る必要があるだろう?」


サモンは、“えっ、まだ続いてたの”という驚いた表情を浮かべる。


「別に同じものという必要もないけどね」

「まあ、仮に作ったとしてもここの成功が知れ渡れば、貴族連中が黙っていないだろう」

「なるほど利権争いになると」


利権にうるさい連中のことだから貴族連中が結託して、彼ら以外の者を排除することになるだろう。

それは利益を優先した運営が行われることが予想され、こちらでのような利益の再分配が行われることはないということになりかねないのだ。


「話が早いのう、その通りだ。だから“仕方なく”参加させておこうと思うのだが、その一方でここと同じように冒険者や庶民のチームも参加させたいのだが、サモンは如何様に考える?」


恐らくウォルケンは貴族チームと庶民・冒険者チームを作り、競わせて盛り上げるのが目的なのだろう。

スマホのないこの世界でも炎上商法は有効なのであろう。

まあ、“やらせ”ともいえなくもないが、こういう筋書きを思いつくあたりはさすが為政者でもある。

もしくは、ある種の天才なのかもしれないなとサモンは思った。


「わざわざ悪役を作って、壮大な演出を描こうというのかい?」


「悪役に勝ってもらっては困るがな。そのためにはここにいる3大商会にも援助してもらう必要がある」


そう言われて顔を見合わせる3人。

仕方なくサバスの手が上がる。


「少々お待ちを。直言をお許しください、陛下」


「この場では身分は関係ない。ウォルケンでいいぞ、サバス」


「で、では、ウォルケン殿。援助という言葉が聞こえましたが、話の筋が今一つ見えないのですが、一体どういうことなのでしょうか?」


たしかに話の前段を知らず、急に話を振られても困る。


「ははっ、これはすまぬ。わしが早計であった。つまりはお主たち商会がスポンサーになってチームを作れということだ」


““いや、ますますわからんだろ”“


サモンも含めここにいる全員が思った。


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