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47 クリスとサモン

2日間の長旅を経てサモン達一向はアレクサに到着に到着した。

一行はそのまま街の正門で別れることになった。

これはシュネーが街のギルドへ、イングリッドはドンフライ司教を伴ってアレクサ領主ポラール・リヒト伯爵の元へ報告しに向かうためであった。

一方、サモンはニケと一緒にサッカー協会のある競技場に向かった。

シスレィが護衛でついてきていたのだが、2人のドワーフをシュネーと一緒新しい選手に引き合わされるだろう。


競技場の周りは建設後1か月近く経っているためか、整備が進んで公園のようになっていた。

そのためか今では観光名所にもなり、まばらだが見物客の姿もあった。

競技場は街の城壁と空中回廊で繋がっていたため、歩いて行き来ができる仕様である。

そのため城壁側にも詰め所が作られ、関所の役目も担い、こちら側からでも街に入ることができた。


事務所のほうへサモンが行くと2人の職員が向かい入れてくれる。

クリスのことを尋ねると競技場の様子を見に行ったようだった。

そのためサモンも競技場のほうへと向かう。

競技場自体は空中回廊を除けば、シャニッサとほぼ同じ様式であったので大きな感激はなかったが、やはりサモンとしても初めて着手した競技場なだけに感慨深いものがあった。


やがて廊下を進み、階段をあがって座席の並ぶ観客席に出ると、競技場全体を見渡せる開放的な光景が広がった。

辺りを見回すと反対側の芝生が敷き詰められた観客席に二人の人物が建っているのが見えた。

試しにサモンが呼んでみた。

二人は気づいたようでサモンのほうに振り向き、一人が手を上げ、歩き出す。

どうやらクリスは職員と一緒に観客席の芝の状態を確認していたようだ。

そしてサモンはクリスと合流して事務所に戻る。


事務所に戻りがてらクリスと最近の情報交換を行ったが、何やらアレクサでは大きな動きがあったようだ。


「へぇ~、3つも商会が広告依頼に?」


「ええ、宿屋の”黄金亭”とパン屋の”カリメロ”の実験の話を聞きつけたみたいだよ。依頼に来たのはベイヤード商会・クルト商会・オニキス商会の3商会になるんだけど、もう一つフローシュ商会っていうところからもあったんだ」


クリスの報告では一気に4つの商会より依頼が発生していた。

サモンは名前の挙がった3つの商会については聞いたことがあったが最後のフローシュ商会だけは聞いたことがなかった。

そのため少し気になったのでクリスに尋ねる。


「フローシュ商会は聞いたことがないな。どんなところなんだ?」


「フローシュ商会はそれほど大きな商会ではないみたい。ただこぢんまりとした支店があちこちにあるみたいだね。ただアレクサには支店はないみたい」


正直なところクリスも詳しい情報までは分からなかった。

商業ギルドのイザークにも尋ねたが、アレクサにも支店がないため、詳しいことまでは掴めなかった。


「ふ~ん、出店準備も兼ねた広告ってところかな。本店は何処なんだろ?」


「聖都のようだよ。ミリスはもう帰ってきちゃったんだよね」


ミリスは先日返ってきて冒険者ギルドマスターへの就任を伝えられたばかりであった。


「ああ、今は大陸協会の冒険者ギルド部門に移ってもらったよ。そのうちまた聖都のほうに行ってもらうつもりだがね」

「じゃあ、そのときにでも調べてもらえればいいか。となると、今は父さんにべったりだね」


ケイバンとミリスは正式に恋人でさえもないが、2人でいた時間は長い。

いや、クリスも含めて家族のような関係が長く続いている。


「ああ、仕事がなければニケのように張り付いているぞ」


すでにクリスは独り立ちして久しいが、ミリスは何もなければケイバンの秘書のように一緒にいることが多い。


「まあ、たまにはいいんじゃないかな。ミリスがお目付け役になるなら無茶もしないだろうし」


「そうだな。だがミリスがキレるっていうこともありうるぞ」


「そうだね。そっちのほうが怖そうだ。ははっ」


ケイバンも普段はある程度の常識は備えているが、時折我を通すときがあるためミリスがストッパー役なのだ。

しかしミリスがキレるときは前触れがなく実力行使をするために恐れられている。


「ま、それよりもエイワード商会のミーアってお嬢さんに聞いてもいいんだがね」


ふとサモンは先日会ったミーアを思い出す。

“聖王国”という括りで思い出したのだが、彼女なら商人らしく、そのあたりの情報を持っているのかもしれないと浮かんだのだった。


「へぇ、そんな商会とも知り合ったんだ。いろいろ搾り取られたんじゃない?」


「まあ、そうだな。ソロバンにガラスペンにそのほかいろいろだ」


クリスはいろいろと甘いサモンだと理解しているので、すぐに想像を働かせた。

“きっとそれ以外にも”ということは容易に想像できたので、対価として遠慮なく働いてもらおうと思えた。


「それならいろいろと聞けそうだね」

「ああ、シスターズもつけてあるしな。連絡はいつでも取れるさ」


さらにシスターズを付けたということにはクリスは驚いた。

片道の護衛などには付けることもあったようだが、まるっきりつけっぱなしということはこれまでなかったからだ。


「え、ずいぶん手回しがいいなあ。まさかここまで読み筋だったってこと?」


「そこまで千里眼でもないよ。ただ情報は命だっていつも言っているだろ? 生きた情報を手に入れられる機会だしな。得られるものが多いと思ったまでさ」


“ここぞ”というときに出し惜しみしないサモンの気前の良さはこれまでに見てきたが、さすがにシスターズまで動かすとは思わなかった。

しかもそれが都合の良い結果に繋がっている。

ほんとに思い切りが良いとクリスは感心した。

ケイバンやミリスといった者達もそういった点では共通していた。


「抜け目ないなあ。……あ、それと教会からも依頼が来てたよ」

「ん、こっちに来るときドンフライ司教ってのと一緒だったが、そんなことは言っていなかったぞ」


「そうだね。ドンフライ司教が行ってたはずなんだけど、さらにその上のウォルケン皇帝陛下からの一言で決まったみたい。その旨が帝都のセテファン大司教から通達があったみたいで、一昨日くらいに慌てて2人の司祭が来てたよ」


帝国の国教はエルサフォン教であり、そのトップは皇帝が教皇を兼任している。

これは財政の問題やこの地に伝わる伝説の関係などで昔からの慣習となっており、実際の運営は複数の大司教が合議制で取り仕切っているようだ。

ただ今回の話は皇帝が押し切ったらしい。


「でも教会が広告を使うって何か商売でも始めるのか?」


「ん~、違うみたい。エルサフォン教会の集会や催し物の告知に使うみたいだよ」


「ああ、なるほどね。そういう使い方もありだな」


「まあ、騎士団も募集広告出すからそうかもね」


この世界にはまだ新聞などもない。

目立つところに立て看板を置くぐらいである。

味気ない看板よりは、人の集まる競技場で大きな看板を掲げたほうが周知できるだろう。

そのぐらいの理由ではないかとサモンは思うことにした。


「ああ、それとナベンザに馬車の部品なんかの生産拠点を作ることをイングリッドに提案したよ」


クリスも初耳である。

また大騒ぎになりそうな予感がした。


「え、いいの? 帝国には外注になる形になるけど」


「ああ、ケイバンやマリオとも話したよ。マリオはそのほうが助かるって。うちもそろそろ手狭になってきたから量産するには場所がないからそのほうがいいって言ってたぞ。まあ、教える手間がかかるとは言ってたけどな」


「親方がそう言うならそれでいいと思うけど、可能なのかな?」


「組み立てはアレクサで行うから、もしもの時はここまで出張ればいいだけさ」


「でも大森林の技術は最先端になるんだよ。大丈夫なの?」


確かに大森林の技術はこの世界では最先端だと言い切れるほどの技術力だ。

だがクリスが心配しているのはその技術が戦に利用されることを心配しているのだ。

それはサモンも慎重にはなっていたことであった。

たとえば最も重要なものといえば、ラテックスの生成技術などがそれにあたる。

ラテックスの生成方法がわからなければ利用のしようもない。

そういったカギとなる技術は外に出すことはない。

ラテックスなど現代科学の知識が必要なものについては、物を手にして真似ようともこの世界ではおそらく100年はかかるだろう。

そういった意味でいえば、キーテクノロジーを握っているかぎり過度に慎重になる必要はない。

それに先端技術を出し惜しみするのは、やがて周りにヘイトを溜める結果になる。

それを和らげるためにもある程度の技術は流出させる必要があるのだ。

これについては世情の中での駆け引きであって正解などはない。

あくまでも実際に“見て、話して、聞いて”判断することであるとサモンは思っている。

そのため今回のような突発的な判断をすることもあるのだ。

まあ、悪く言えば“気まぐれ”というものかもしれない。


こういったことを前提にサモンはドヤ顔で言い放つ。


「大丈夫!」


「まあ、主がそういうなら気にすることはないのだろうけど、競技場ができてからというもの普通の人じゃないのも来てるみたいだから気をつけないとね」


競技場の周りは解放されているため、様々な人が来ている。

身なりから”住民か、冒険者か、商人か”ぐらいはわかるのだが、中には気配の違う人種もいた。


「ああ、そのへんもボチボチ把握していくつもりだよ。そのときはクリスにも動いてもらうことがあるだろう」


「はい、はい、お手柔らかにお願いしますね」


頼りにされるのはありがたいが、大抵軽く振ってくる仕事はしんどいものが多い。

いわゆる理不尽系の依頼だ。

いまはそんな予感がしてならない。

しかしそんな不安をよそにクリスは空腹を覚えた。

気がつけばすでに職員もいなかった。

そしてどうやらサモンも同じだったようだ。


「ああ、それよりもう飯の時間が過ぎてるな。腹が減った街に何か食いに行こう」


2人は連れ立って街に腹を満たしに向かった。


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