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40 ある日の練習試合

あれから数日後、ボールや靴なども調整し終え、チームに行き渡った頃、初の練習試合が行われる。

最終的にすべての選手にボールや靴が行き渡ったのは2日ほど前だったので、馴染むとまではいかないもののある程度の感触は得ているはずだ。

聞こえる声も最初は戸惑いがあったようだが、すぐに好感触を伝える声が聞こえてきている。

ただ“靴が黒一色なのはどうかと思う”と言ったのはサモンであった。

せめて〇〇〇ぐらいの簡単なデザインぐらいは欲しいところだ。


それと獣人のうち数人に関して靴は履かなくてもいいことになった。

やはり爪の問題である。

なのでそういう選手は踏まれてもいいように足の甲に靴と同じ材質でパッドを装着してもらうことになった。

パッドといってもソールの無い靴のようなものである。


そしてこの日の対戦は抽選の結果、フェヴィスキング(妖精の囁き)VSテッケンギリニー(明けの兆し)となった。


審判は“情け容赦のないジャッジ”と評判の“クライエス”

クライエスはシスターズの一人で、第4中隊第4班に所属している。

ぶっちゃけシスターズはほとんどの個体は能力が均一なので誰でもよかったのである。

ということでクライエスがたまたま選ばれ、サモンの知識をインプットし、大陸協会審判部トップとなっている。

なので、正式な審判は現在のところクライエスのみである。

今のルール上審判は一人でも可なのである。


ラインズマンはクライエスには必要はない。

数体のシスターズが見張っているので、クロスプレーやきわどいプレーは再現できるので、シスターズほどの処理能力をもってすれば余裕である。

文句をいう奴がいればクライエスの掌に再現ホログラムが浮かび上がり、グゥの音も出ないのであった。

それでも駄々をこねればクライエスが強制退場させるのだ。

それでも懲りない奴はいるのだが。


かくしてフィールドにおいてホイッスルが響き渡ることとなった。

ちなみに人種の審判は育成中である。


いよいよキックオフである。

双方のキャプテン“イマノル(フェヴィスキング)”と“ニカ(テッケンギリニー)”が握手をしてコイントス。

ニカがガッツポーズをして、イマノルがうなだれ皆に励まされながら列に戻っていった。


テッケンギリニーのボールから始まるニューボールを使った初の練習試合。

意外と観客が詰め寄せているのは驚きである。

そのほとんどがおそらく冒険者たちである。

この場にケイバンがいれば、“お前たち暇なのか“と突っ込んでいただろう。


さて試合のほうはというと、ほとんどの選手がセンターサークルの中に集まり、今か今かと待ち構えている。

一方、フェヴィスキングの選手はセンターサークルに沿って待機している。


“いや、いや、違うよね”なんて思ってはいけない。

これが今この世界のレベルだ。


“ピッ”


各チームの選手が配置に着いたのを確認して、クライエスがホイッスルを鳴らす。

キックオフをアルバロが優しく蹴りだす。

観客席にいる見学者たちも一気に盛り上がる。


するとすぐ近くにいたテッケンギリニーのニカがダッシュし、後方に足を振り上げた

その勢いのまま振り抜く。

いきなりキックオフシュートだ


ボールは矢のような勢いで、フェヴィスキングのウィリーの頭をかすめ、やや緩めの放物線を描く。


ゴールキーパーをやっていたバレロが語る。


「いやあ、センターサークルにみんな群がっているからわからないよ。壁があるようなものだから。見えないから見えるように前に出てたんだ。そしたら何か上に飛び出たなと思ったらボールだった」


そう、ボールはそのまま吸い込まれるようにバレロの上を通り過ぎ、ゴールネットを揺らした。


競技場は一瞬静まり返ったが、次の瞬間には割れんばかりの歓声だった。

これは公式試合ではなくとも記録に残るゴールとなった。


フィールドではテッケンギリニーのニカを中心に腕を上げ歓喜に満ちていた。

反対にフェヴィスキングは茫然として自軍のゴールを茫然と眺めている。

それでも一人の選手がクライエスに抗議しに行ったようだったが、敢えなく敗退している。


そして気を取り直してフェヴィスキングのキックオフとなる。

テッケンギリニーのゴールキーパー“ペドロ”は先ほどのこともあってかゴールライン上に陣取っている。

それでもフェヴィスキングのイマノルはロペスに指示を出し、キックオフシュートを敢行。

これは敢えなくペドロに補足された。


そしてペドロからのリスタート。

ボールはテッケンギリニーの選手へと渡るが、そこにはゴールキーパーを除いた選手がすべて集まっていた。


一人にボールが渡るとみんなで群がり奪い取る、もしくはボールがこぼれる。

そしてまた群がるの繰り返しである。

中にはポツンと集団から抜け出したところに待機している選手もいるが、たとえ自軍の選手がボールを持ってもなかなかパスはこない。

なぜかドリブルで突破しようとする。

そう、これがこの世界の“現在のスタンダード”なのである。


今の選手にはドリブルがほぼ全てなので、自身でゴールを決めたいという思考に支配され、仲間にパスを出してゴールに近づくという発想がないのである。

パスをする必要性が理解できないのだ。

あげくには味方が持っているボールを奪おうとする選手もいる。

まあ、ふた昔前の小学生のサッカーはこんなものであったことを考えると、観ていて別の意味で楽しめるのだが、現代のサッカーには程遠いものであった。


これまでにサモンも口を出して説明したが、元々ほとんどの選手が冒険者。

冒険者はやはり我が強く自分でゴールをしないと気が済まないのであろう。

今はサモンも思案中だ。


そういうこともあり、結局試合はフェヴィスキング1点、テッケンギリニー5点で終了した。

どうして団子サッカーなのにこれほど点差がつくかというと、チームの中にはうまい奴もいるわけで、その選手にたまたまボールが渡るとうまく得点に結びつくことがある。

いや、むしろそういったパターンが多い。

そのため今回もこのような結果になったわけだ。

要はエースがいかにボールを持てるかで試合が決まるのだ。


試合が終わり、双方の選手が握手を交わしたり、お互いを称え合ったりして帰ってきている。


「いやあ、ちょっと靴がさ~」


「まだ、あのボールになれなくてさ~」


中には点が取れなくて言い訳をしている者もいる。

それでも新しい道具の評判は良いようだ。

しかしキックオフゴールというイベントとしての盛り上がりを見せたが、試合の内容として相変わらずのグダグダだった。

これを良しとするかしないかは別の問題であって、この試合を観戦していた他のチームの選手はそれぞれの思いを持って公式試合に臨んでもらいたいものである。


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