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38 あらたな靴

サモン達の報告会から2日後、競技場地下の練習場に場面は移る。

ここは現代の体育館2面分ほどの広さを持つ練習場であった。

サッカーチームの練習はほぼここで行われる。

ゲーム形式の練習などがある場合は上の競技場でするようになっている。


「アジズさん、おつかれさんです~」


練習場にやってきたデリオ・サンチェスがアジズに声を掛ける。

デリオはパーティー”レアホリグ(赤毛の獣)”の一人だ。


「おう」


「あ~、それが新しい靴ですか」


マリオから預かった靴に履き替えているのを目聡くデリオが見つける。


「おう、最初のな。とりあえず履いてみてくれだとよ」


「いいなあ」


デリオは羨ましながら近寄って、まじまじと見入る。


「まあ、今の感触だとこれまでの靴よりは丈夫そうではあるがな。ボールとの感触や踏ん張り具合は試してみないとわからんな」


「靴の裏に突起がいっぱい付いているんですね」


「ああ、踏ん張りが効くようにだと」


「獣人の爪と同じようなもんですかね」


「そうらしい」


言われてみれば確かに同じようなものであるなと感心した。


「ただ、ふまないでくださいよ」


笑いながらそう言ってデリオも準備を始めた。


準備運動をしながらアジズは靴の感触を確かめる。

とんだり、軽くダッシュをしてみたりと。


”靴底が厚いから不安定になるかと思えば、しっかりと土に食いつくから大丈夫だな”


今のところ感触は良好に思える。


「アジズさん、どうですか?」


「ああ、良い感じだ。まあ、今までの足裏の感触に違和感はあるがな。足の裏が硬い感じだな」


「へえ~、足の裏が硬い感じか~」


たぶんうまく伝わらないだろうなと思いながらアジズは指示を出す。


「よし、パス練習に入るぞ、あそこに置いてあるボールを出してきてくれ。あの緑の袋だ」


アジズは自分の荷物が置いてるが辺りを指さす。

少し大きめの緑の袋がおいてあり、一番年下のルーベン・セサルが取りに行った。

ルーベンは袋を開けてボールを取り出す。

だが一つ目のボールを取り出したときに、なぜかルーベンはボールを手に取り、そのまま動かない。

しばらくして仲間が声を掛けるとルーベンは我に返ったように3つのボールを蹴って寄越した。

嬉しそうにひと蹴りずつその感触を確かめるように。

そして受け取ったアジズ達の仲間も受け取った瞬間に同じように嬉しそうな表情を見せるのだった。

とりあえずアジズは、組になってパス練習をするよう指示した。

ボールは3つしかないがそれぞれがパスをしあいながらその感触を確かめていた。

つま先で蹴ってみたり、足裏で転がしたりと。


”少し硬めだな。重さも少し重いか。……だが真っ直ぐ進む”


そんなことをアジズは感じながらボールを蹴り続けた。


”ん、そういえば。ボールを重く感じたが足には痛みもないな。つま先でも蹴ってみたが”


そう思い、他の者にも聞いてみることにした。

練習を一旦辞め、皆を集めてひとまず感想を聞いてみる。


「どうだ、ボールの感触は?」


アジズの質問にはそれぞれ違う感触を感じたようだ。


「少し硬めですね」


「このボール、少し重いです」


「反発力が弱いように感じますね」


でも皆が上げる声の中には共通しているものがあった。


「「真っ直ぐ進みます(いきます)」」


前のボールは魔獣の腸を膨らませて皮で包んで縫い合わせただけのものだった。

そのためボールごとにわずかだが形が違うのだ。

そのため同じように蹴っても同じ軌道はとらないし、転がっても真っ直ぐ転がらない。

まあ、それが面白いという者もいたが、ほとんどが不満を持っていた。

しかも3つのボールを並べると大きさもまったく一緒だったのには、皆が驚いた。


「おい、ところでボールを蹴っていて足は痛くないか?」


アジズの質問にそれぞれ口にする。


「ああ、蹴っているうちに痛みはありましたね。それほど気になりませんでしたが」


「俺はつま先で蹴ったときが痛いかな」


「受けたときの衝撃は重いかな」


「冒険に行くときも履いていいのかな?」


それぞれ個人差があるようだ。


「アジズさんは?」


反対にデリオからの質問が来た。


「気にするような痛みはないな。甲の部分が以前よりは厚いからな。その分この靴自体も重くなってはいるがな」


「そうなんですね。でもボールも靴も慣れれば気にならなくなるのかも」


「そうだな。いずれにせよボールはほぼこれで行くそうだから、慣れておかないといけないのは確かだ」


「じゃ、それに合わせて靴にも慣れておかないとですね」


「ああ、そうだな」


そこで一人手を上げる。


「あの……、俺に合う靴ってあるんですかね?」


その声の主は獣人のペル・レイグラーフだった。

その場に居た全員がペルの足元を見た。

そこにはがっしりした獣人の足があり、つま先からは爪が出ていた。


”すっかり忘れていた”


アジズは己の迂闊さを呪った。

大事な仲間のことを忘れ、自分のことしか考えていなかったことを。


「すまん、そこまで気が回っていなかった」


「いえ、いいですよ。まだ始まったばかりなんですから」


「いや、よくはない。明日必ず聞いてこよう」


アジズはペルの目を見て約束した。

だがペルはうつむきつぶやく。


「できなくなるってことはないですよね」


アジズは一瞬その言葉に言葉に詰まるが、力強く返す。


「大丈夫だ。確かに靴については約束できんが、何らかの方法で続けられるようにするさ」

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