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36 シャニッサでの説明会

さて、サモンはシャニッサの競技場建設開始日から7日目の朝、体を激しく揺さぶられて起こされた。


「ん~、なんだニケ?」


寝ぼけたままでニケに着替えをさせられる。

着替えが済むとニケは部屋のドアを開き、ある人物を招き入れた。


「おい、サモン! なんであんなのができていやがる。どういうことだ説明しろ」


入ってくるなり怒鳴るのはギルドマスターのイオだ。

サモンもおかげで目が覚めてきた。


「あ~ん、競技場のことか?」


怒鳴り込んでくる案件はそれぐらいしか思い当たらない。


「そうだ! 競技場だ。昨日まで影も形もなかったのに朝にはあんなものがあるなんて! 一体どういうことだ。砦の外は大騒ぎだぞ」


”最初から言ってあっただろう”と思いつつサモンは、イオをなだめながら宿を出た。

砦の外に着いたサモン達の目に飛び込んできたのは、人だかりの山だった。

その人だかりの山の先には例の競技場が見えていた。

確かに昨日までは防護シートで囲まれていた場所に3階建てほどの大きな建物とその両脇に2階建ての建物が並んでいた。

競技場からその手前の人だかりまでは手入れされた花壇や道が整備された公園のような作りとなっていた。

その境界には高さ2mほどの柵で囲まれていた。

この世界の者から見れば不思議な光景に映っているのだろう。

サモンから見ても違和感は拭えなかった。


”まあ、そりゃ、騒ぐわな”などと思いながら、サモンは人ごみをかき分けて柵のところまで進む。

そして簡易的な門を見つけて敷地内に入っていく。

それにニケやモデナ達が続く。

慌ててイオが追いかけていく。

集まった人達が何かを言っているようだが、気にも留めず競技場にたどり着く。

サモンはしげしげと建物も出来を確かめるように見まわした。

建物はコンクリートの打ちっぱなしのような質感ではあるが、しっかりした造りに見えた。


「へえ~、さすがにいい出来だね、ニケ」


「はい、計画はすべて完遂しました」


「ご苦労」


満足げにサモンはイオに向き直る。


「どうだい感想は? 立派なもんだろ。約束どおり1週間だ」


サモンの言葉をイオは周りを見渡しながら聞いていた。


「立派なんてもんじゃない。砦よりも砦らしい。一体どうやって……」


「そんな驚くものでもない。作ってあるものをここに運んで組み立てただけだ」


サモンは簡単に説明したが、イオにはさっぱり理解できない。

建物は大きいだけではない。

曲線や直線が精密に混ざりあい、単純に円や四角でできた街の建物とは次元が違っているのだ。

近いものといえば城ぐらいだろう。

魔法を使って建ててもこんな複雑な形をした建物は難しいだろう。

しかも短期間となると不可能だ。


「”運んで組み立てただけ”って、これがどれほどのものか分かって……。そ、そうだな。お前さんにとってはこれぐらい朝飯前ってことなんだな」


イオは言っていて考えることをあきらめた。


「ああ、そう思ってもらえれば、説明する手間が省ける。……ん、そう言えば朝食がまだだ。話はそれからだ。戻るぞ」


そう言って戻ろうとするサモンをイオは追いかけた。


「こんな時に朝飯なんて」


サモンはイオに改めて説明することを約束して宿に戻った。

もちろんその際には王子ら関係者もできるだけ集めてから呼びに来るようを指示した。


再びイオがやって来たのはそれから3時間ほど経ってからだ。

さすがに騒ぎがすぐに伝わったのだろう領主に呼ばれるわ、他のギルド長が押しかけてくるわで大変だったらしい。

最初、領主館でということだったが、サモンが実物を前にして話したほうがいいということで競技場まで来てもらうことにした。

イオは領主館まで知らせに走り、サモンは先に向かうことにした。


サモンが競技場に着いてから30分ほどで王子一行が馬に乗って到着した。

柵の向こうではまだ人だかりが出来ていたが先行した騎士団が押し分け入ってくる。

競技場入り口前までは馬車が通れるくらいには道幅があるので、馬でも十分な広さがある。

他の随員も馬や馬車で来ており、入り口前で止まってぞろぞろと降りてきた。


「サモン殿、驚いたよ。本当に作ってしまうなんて。しかもこのような大きなものを」


挨拶もなしにシュナイト第一皇子は興奮気味に捲し立てた。


「どうも久しぶり。やはり説明するためには実物を見ながらじゃないとわからないだろ?」


「ああ、確かに言葉だけでは理解できなかっただろう」


シュナイト第一王子はよほど興奮したのか、舞台俳優のように大きく手を広げて自分の感動をアピールした。

興奮しているのはシュナイト第一皇子だけではない、イオ以外の皆もキョロキョロしながら感嘆の言葉をつぶやいている。

サモンは皆が落ち着いたころを見計らい、メインスタンドから案内する。

競技場自体の構造はアレクサのものとほぼ変わりはない。

ただこちらは学校施設と寮を増築してあるので建物が多くなっていた。

一通り説明した後、協会用の建物へ移る。

建物の会議室に皆を招き入れ、用意してあった席に着いてもらう。


参加者は以下のとおりである。


聖王国代表:シュナイト第一皇子シュナイト・エーデル・シュタイン

領主:シャル・ヴィルト・シュヴァイン

冒険者ギルド:イオ・クライネ

商業ギルド:ファン・マルティネス

魔術師ギルド:イレーネ・バスコ

鍛冶師ギルド:ロニー・クレッチマン


「さて、一通り見てもらったが感想は?」


”どうだ”と言わんばかりにドヤ顔でサモンが口火を切った。


「ああ、素晴らしいよ。まあ、サッカーというもの自体、まだ私は理解していないのだがね。それでもここでイベントが行われるというのであれば、シャニッサがおおいに発展するだろう」


シュナイトにしてみれば、そもそも競技場自体の構造やデザインは聖王国の技術では成し得ないものばかりであり、外観だけでもシャニッサの砦を凌駕しているように思えた。


「気に入ってもらえたようでうれしいよ。それじゃ施設のほうは理解してもらえたということで、ここからは協会の運営についての話だ」


サモンはニケにいつもどおりのホログラム資料を投影させる。

一同ざわつくが、すぐにサモンがかまわず説明を始めた。

説明自体はアレクサでクリスが行った説明とほぼ一緒であった。

説明後は質問を受けたがやはり広告と勝敗札への質問が多かった。

しかし帝国の例を引き合いに出し、同じようなシステムで当面は運用していくということで話はついた。

ただこちらでは一つ懸案事項があった。

商業ギルドのファンが深刻そうな顔つきで吐露した。


「どうも教会が勝敗札のことを嗅ぎつけたようですぞ」


その一言に周りもざわつく。


「なに! ほんとか」


イオが腰を浮かせて話に食いつく。


「はい。先日ギルドの組合員が喜捨に行ったところ話を匂わされたそうです」


ファンはギルドの組合員が聞かされたという司教の言葉を語った。


”何やら競技場を建設して民に娯楽を広めようとしているようですな。それは民に余裕を持たせ、いずれは心の安寧につながるものと思います。私どもも常に神とともに民の安寧を願っております。そのための努力なら惜しみませんよ”


オブトレファー西方教会は原則として賭け事を禁止しているわけではない。


「目聡いな。早めに手を打ったほうが良いか? 教区の司祭は誰だ?」


シュナイトは舌打ちをしながらファンに視線を向けた。


「マヌエル司教になります」


「ではマヌエル司教にも教会代表者として会議に参加してもらうことにしよう。最初は協会員ではないが、アドバイザーという立ち位置ならばそれほど波は立ちますまい」


おそらく今後も何らかの形で圧力を掛けてくるに違いない。

それならば早いうちに引き込んだほうが良いとシュナイトは判断した。

すでに聖王都のほうへは報告はしてあるので問題はないが、気になるのはマヌエル司教から教会本部に報告されたときだ。

どんな反応が返ってくるかは想像がつかない。

そうシュナイトが苦悩しているときにサモンが声を上げた。


「どうせなら初めから寄付を含めておけばいいんじゃない? まあ、そのことを札にも書いておかないといけないけど」


現代でもいろいろな事業などへ助成をおこなっている。

この世界の教会も建前上慈善事業をおこなっているため問題はないはずだ。


「なるほどそうすれば教会も街に貢献しているという体裁が保たれるか」


シュナイトや他の面々は唸りながら、この提案をそのまま教会へ提案することにした。

その後細々とした話し合いが続けられ、協会の運営体制が整えられていった。

そしてサモンは去り際に1か月後に大森林で大陸協会の発足式と会議を行い、いよいよ各街での試合をしていくことを明言していった。

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