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35 ラテックス

ミリスがニヨン村を発った翌日、鋼の大森林ではギルドマスターのケイバンの部屋にシスターズのシフが訪れていた。


「ほう、ミリスの連絡も久しぶりだな。で、探し物は見つかったかな?」


「はい、こちらに一部をお持ちしました」


言葉と同時にシフが取り出したのは、木の枝といびつな白い塊であった。


「ほう、これがね~。枝は普通の枝だけど、こちらは意外と柔らかいな」


そう言って手で感触を試している白い塊は、ミリスが取ってきた樹液の塊だ。


「で、こちらで始めといていいんだな?」


「はい、予定どおりそちらで調整してもらって見通しをつけて欲しいとのことです」


「承知した。ところでこの枝は?」


「”フランの枝”だそうです。そちらは効能を調べてほしいとのことです。ニヨン村では魔獣が寄りつかないようなので、”フランの木”が関係しているのではないかとのことです」


「なるほど、魔獣の嫌忌剤を開発できればというところか。わかった、それぞれ手配しておくよ」


ケイバンがそう言うとシフは礼をして部屋から出ていった。


「まったく次から次へと……落ち着かないな。枝は薬師部門に投げればいいが、こっちは鍛冶師ギルドまでいかないといけないな」


ミリスによって見つけられた”フランの木”の報告が伝わってきた。

これは大森林にとって大きな発見となった。

それからというもの第6区にある鍛冶師ギルドが慌ただしくなった。

特にその一角である開発工房では数人の鍛冶師が集められ、せわしなく動いている。


「ほう、これが”ラテックス”か」


鍛冶師の一人、キコ・モンデーロが白い塊をその手で弄んでいる。

その白い塊は主によって”ラテックス”と名付けられた。


「なんか、硬めのスライムのようだな。キコ」


もう一人の鍛冶師、サージ・デュランが誰もが共通する感想を述べた。

それに同意しながら キコは用意した型枠に白い塊を挟み込んだ。


「確かにな。だがこれがうまくいけばいろいろ使い道がありそうだ」


「そうだな。防具の関節部やクッションなんかに使えるんじゃないかと思う」


サージは鍋の温度をみている。

木の棒を仲の油につけて、泡が付くまで温度を調整している。

ガスが完備された街ならではの芸当だ


「まったく。型にはめて油で揚げろなんて、俺はいつから食堂のおやじになったんだ」


ケイバンが言うには、ラテックスを適当な型枠にはめて油で揚げろとのことだった。

それもただ揚げるのではなく、木の棒を入れてそれに泡が付く温度を維持しろということだった。

なんとも不思議な作業であった。

サージが目標の温度になったのを見計らってキコに伝える。

それを聞いたキコは型枠を鍋の中に静かに沈めた。

鍋の中では特に変化は見られない。

そして5分ほどして引き上げてみる。


上げた型枠は湯気を上げ、かなりの熱を持っているのがわかる。

そのまま水の中につけて強制的に冷やす。

頃合いを見て取り出し、型枠を外してみる。

すると型枠からはみ出ていた部分はうっすらと膜となっていたが、形状自体は型枠どおりの出来であった。


「お、まあまあの出来だな。このはみ出た部分を取ればいいんじゃないか?」


キコはその出来に満足げだ。

サージも同様に笑みをこぼした。

だが、これで終わりではない。

この結果は初めてにしては良いというだけで、さらに工夫が必要なのだ。


「さて、とりあえずどうなるかはわかったな」


「ああ、あとはこの”腐石”の粉をどの程度混ぜるかだな」


二人はそう言って別の作業に入った。

そう問題はここからである。

このラテックスを自由に扱えるようになること。

それがケイバンからの注文の一つであった。

一応、”腐石”の粉を混ぜる割合で柔らかさの度合いが変わってくることを教えられた。

その配合をあらかた調べろとの指示であった。


そしてまた別のグループもせわしなく動いていた。


「コーク(コルク状の木片)に指すものは何がいい?」


コークと呼ばれた木片を摘み上げたのはアルバロ・アレロ。

普段は酒瓶ぐらいに使われることはないものだ。

これに応えたのはイマノル・ラゴだった。


「”アルミアビ(軍隊バチ)”なんかどうでしょうか?」


「いや、少し太すぎるな。コークには太すぎるんじゃないか?」


「では”スーガンドモル(吸血蛾)”の針では?」


別の提案をトミー・エスコバルがした。

”アルミアビ(軍隊バチ)”の針はかなり太い。

コークに刺したら穴は塞がれないだろう。

”スーガンドモル(吸血蛾)”であれば1mm程度なので漏れることはないだろう。


「そうだな。それで試してみるか」


「ポンプの用意はできてるか?」


「ええ、試作品ですができています」


「外皮は?」


「とりあえずこれまでどおり”フォスカヌーン(巨大ウサギ)”でいいですか?」


「上等だ。なら中身は今までどおりの腸でいいから作成しといてくれ。先にポンプを試験しておこう」


アルバロはポンプと呼んだ取手のついた筒を持ち上げ、試作を続けた。

結局作業は続けられ、次の日にまで完成は持ち越された。


また冒険者ギルドでも薬師部門の主任ドラ・ヒメネスも熱心に古文書をひも解いていた。


「そもそも”フランの木”なんてこれまで聞いたことがないのよ。そんな知られてもいない素材の効能を調べろなんて、私だけでできるわけないじゃない」


そうこの部門は、薬草などの一般的な薬の調合ぐらいしか行なっていないため、ドラ一人しかいない。

そのためギルドマスターのケイバンから急遽指示されたのだ。


”なにやらこの枝を調べてくれと主から頼まれたからよろしく”


そう言って手渡された”フランの枝”を最優先で調べ始めたのだった。

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