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33 マルティナへの相談

シャニッサの街でサモンが思いつきで学校を立てると決めた後、その情報はニケを通して共有された。

当然鋼の大森林の姉妹達にも情報は共有される。

夕方、冒険者ギルドマスターであるケイバンの部屋にノックの音が響く。

手元にある報告書を見ながら”開いてるぞ”とけだるそうに言う。

入ってきたのはニケと同じマントに身を包んだ者だった。

名札には”シフ”と書かれていた。

シフはニケの姉妹であり、警備隊長でもある。

ニケが大森林にいないときには代理として統括しているようだ。

なのでケイバンとはすでに顔なじみなのである。

まあ、シフたちはみんな同じ顔だが。

シフはそのまま胸に手を当て簡易的な礼をした。

そのままケイバンの前に立ち、数枚の紙を差し出す。


”ん、お前さんが来るっていうことは厄介ごとかい?”


ケイバンは差し出された紙を受け取り、目を通す。

読み終えた後、ケイバンはにやけながらシフの顔を見上げる。


「孤児たちをこっちに寄越して、向こうにも学校を作るか。人員送るから教師に鍛え上げろと。ずいぶん予定外のことしてくれるな。孤児が来るならまずは泊めるとこが必要になるな。大丈夫か?」


手紙には決定事項とケイバンへの依頼が記してあった。


以下が概要である。

1:孤児を大森林に30名ほど送る

2:孤児を学校で学ばせる

3:孤児用の寮を作る

4:シャニッサに学校を作る

5:シャニッサ用に教師を育成する

6:シャニッサの教師にするための人員を送る


依頼:

ギルマスには寮母と教師育成のための教師を用意してほしい。

学校については姉妹達が増築するし、寮についてもガッコに併設して作れば問題ないと思う。

教師育成については体力面の訓練も含めてほしい。

寮母については一人では無理だろうから、数名の手配を頼む。

日々の食事についてはシスターズに任せる。

そちらに着くのは3日後になる予定。 以上



「はい、特に問題はありません」


まあ、そうだろう競技場を作ることに比べればあっという間であろう。

おそらく一晩でやってしまうに違いない。

だが問題は増えた子どもの教師役と育成のための教師だ。

とりあえず区長に相談することに決め、ケイバンはエルフのマルティナ・ミッタークを呼んでもらうことにした。


「シフ殿、すまないが相談事があるので、エルフのマルティナ・ミッタークを呼んでもらえるか。この時間なら第2区の自宅だろう」


「了解」


ケイバンが願うとすぐにシフは了承した。

大森林は第1区から第7区まであり、第一区はサモンのいる鋼の砦だ。

そのほかの区画は以下のとおりだ。


第2区:エルフ族

第3区:ドワーフ族

第4区:獣人族

第5区:亜人族

第6区:共有区画

第7区:商業区画


特に区画ごとに仕切られているわけではないが、それぞれの種族がかたまって住みついたためこのように呼ばれるようになっただけである。

そのため少数となるエルフ族とドワーフ族の区画面積は相対的に狭い。

対して数種類に分かれる獣人族、亜人族は広くなっていた。


学校の教師の場合は知識や技術が求められるため、そのほとんどをエルフ族が担っていた。

そのため第2区長であるマルティナを呼んだのである。

マルティナは学校長でもある。


しばらくすると、しばらくしたらここに来る旨がシフからケイバンに伝えられた。

どうやらうまく伝わったらしい。

そのため任務の区切りがついた様子を察すると、シフは”警備があるので”と持ち場に戻っていった。


やがてマルティナが受付嬢に案内されてやってきた。


「ケイバン殿、また主殿からの難題?」


入るなりこの一言である。

いつもサモンに振り回されていることがよくわかる。


「いや、難題ということではないのだがね。急ぎ教師を都合せねばならなくなった。なので助力願えるか?」

「まあ、そんなこと。学校の教師でいいのよね」


マルティナは簡単に応える。

320歳ともなればそれだけ経験が豊富で、多少のことでは動揺しないのだろうか。


「ああ、2人ほど願えるか?」


「まあ、やりくりすれば問題ないでしょ。な~に、子どもでも増やすの?」


「なにやらシャニッサから孤児を連れてくるらしい」


ケイバンは先ほどシフからもらった紙を見せた。


「まあ、そうなの? 主様らしいわね。でも孤児を連れてくるなら住むところやお世話をする人は?」


「住むところはシスターズが取り掛かるらしい。その関係で学校を増築するらしい。事後報告になるが承知しておいてくれ。それとその世話係だが、そちらで無理なら亜人族でもと思っているのだが」


できることならマルティナに丸投げしたい気持でもあったが、エルフ族にばかり負担を負わせることには気が引けた。

元々こちらに来る種族が不明なため、できれば複数の種族から選出したほうが良いと思っていた。


「そうねえ、エルフ族だけが助力するのは区長会議で揉めることになるわ。皆主殿の助けになりたがってるわけだし。……じゃあ、明日緊急の区長会議でも開く?」


「そうだな。そのほうが無難か。では明日の夜に役所の会議室で決めるとするか。あとでシフ殿に伝えてもらおう」


区長会議は各区の代表の集まる会議だ。第6区・第7区は統括であるケイバンが代表となっているのでメンバーは5名となる。


「そうね、わかったわ。他には?」


「おっと、忘れるとこだった。教師候補の指導役を頼めるか?」


「教師候補の指導役?」


「どうもシャニッサにも学校を作る気らしい。それで向こうから教師候補を連れてくるらしいのだ」


これもどんな者かは不明であった。

なので対応が難しい。


「そうねえ、その人達がどんなレベルかにもよるわね。読書きや計算のね。それ以外のことは、私達自身も今まで試行錯誤してきているんだから何とも言えないけど。ま、何とかなるんじゃない。いいわよ、私でよければ」


マルティナは大森林で始めた学校の初期メンバーだ。

サモンの思いつきで始めた学校はマルティナ達にとって初めてのことだった。

そのため”ものを知る””ものを学ぶ”ことの大切さを説くことから始め、今に至っているのだ。

だから教師となる者の苦労も知っている。


「ああ、十分だ。こちらのほうでも体力面の訓練をすることになっているから相談しながらやっていこう」


そう言ってケイバンはマルティナへの相談を終えた。

ひとまずサモンからの注文はおおよそ対応ができそうな状況となってきた。

そう思い一息つき外を見るとすでに暗くなっていた。

そこで思い出したように口からこぼれた。


「そういえば、ミリスのほうは進んでいるのだろうか?」


ケイバンはふと相棒のことを思い出した。

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