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30 サモン撃沈

モデナ達が子どもの保護をあらかた終えた後、夜にはサウザンドクラウド(千雲)亭に戻り、サモンへの報告を終えていた。


「モデナ、悪かったね。冒険者にこんなことさせて」


サモンは、モデナ達に護衛の任務以外のことを指示したことに素直に詫びた。

詫びたついでに袋に入れた金貨を渡す。


「いえ、冒険者には似たような身の上も多いですし、力になれるのであれば喜んで協力します」


そう言ってモデナは固辞する。


「そうだよ。いくらでも言ってよ」


横からメルモが明るい声で言う。


「はは、そう興奮しないで。こういうことはじっくり進めるほうがいいんだ。あわてることはないよ」


「でも。一人でも……」


「まあ、気持ちはわかるけどね。でも二日も街に出ていたんだ。なにかしらの状況はつかめたんだろ?モデナ」


「はい、やはり子どもを連れていくことには街の人もあまりよく思っていないようでした」


「どうして? 皆、無関心だったんだろ?」


「はい、ですが進めているうちにだんだんと噂が立つようになって……」


モデナは頷くきながら正直な感想を述べた。

子どもに声を掛けるのは、その多くが路地裏の人目につかない場所ではあった。

しかし、エイワード商会に向かう途中にはどうしても人目につく道を行かねばならず、モデナ達が風体のみすぼらしい格好をした子どもを連れ歩く姿は人目を引いた。


「怪しいのは怪しいけどね。でも近くのお店に頼んではあるんだろ」


「はい、知り合いや親が探しに来たらエイワード商会に連絡してくれと」


変な噂が立たないよう、保険として近くの店などに託けを頼むようサモンが指示はしていた。


「なら気にすることはないよ。普段は無関心でも人が何か始めるとやっかみをいう輩は出てくるものさ。それよりも誰が噂を広めているのかね」


「それなんですが、今日は子どもの集団に絡まれまして……。おそらくその子どもの集団ではないかと。ある程度年齢がいった子どものようでした」


最終的には手を出してきそうだったため、モデナ達も威圧して引き下がらせたことも加えた。


「それは相手がかわいそうだったね。モデナ達相手じゃ。ところで、徒党は1つかい?」


「はい、聞いたところによると10人ほどのグループがあるそうです。今日会ったのはおそらくそれかと」


「どうやって生きてんだろ?子どもにできる仕事といえばたかが知れてるはずだ」


「荷運びとか日銭の入る軽い作業だそうです。ただ年長組は夜街などにも出入りしているそうです」


夜街はここでいう歓楽街だ。

飲屋に娼館などの大人の街である。


「それと保護をした子どもから妙なことも……」


「妙なこと?」


モデナがその聞いたという話を始めた。

どうも月のはじめになると子どもが消えるというのだ。

だから月のはじめは隠れているのだという。

始まったのはここ1年ほどだという。


「ふうん。定期的にとなると誰かが子ども狩りでもしているってことかな?」


「単純に考えれば……そうなのかもしれません」


「モデナはそのグループが関わっていると?」


「いえ、そこまでは考えていませんが、何かしら知っているかもしれません」


「そうか。なら行ってみるか」


「え、どこに?」


「もちろん、娼館さ」


サモンも成人の大人である。

娼館に行くことに迷いはない。

大森林にも商業区に行けば”スティジ・ハス”という名の娼館はあるので、時折サモンも利用する。

モデナ達とは別れ、ニケを店の外で待たせて今はベッドの上でのまったりタイムだ。

相手は少し自分より若めの娘を指定した。

まあ、離れていてもニケはモニターしているのだが。


「ねえ、お兄さん。もう少し体を鍛えたほうがいいんじゃない」


「いや、いつもは……。おかしい。標準的なはずだ、俺は……」


”スティジ・ハスの娘はいつも褒めてたじゃないか。まさか、あれは演技だったのか”


そんな思いが頭をよぎる。

なぜか落ち込んでいるサモンがいた。

気を取り直してサモンは聞いてみる。


「なあ、それよりもこの街は時々見かけるが、孤児って多いのか?」


「なあに、お兄さん奴隷商人か何かなの?」


「いや、ただの商人だよ。この街には奴隷商人も来るのか?」


サモンは”ララ(娘の名)”には商人と名乗っている。

当然ララもそれを真に受けたりはしないが、それに絡めての言葉だ。

どのみち”ララ”も本名ではないし、ここで本当の名前や姿など無意味である。


「ここじゃあまり見ないわよ。北のほうとか王都近辺にはいるけどね」


「北のほうと王都近辺ね。なんでこの街には少ないんだ?」


「この街は元々砦っていうのもあるかもしれないけど、中継地点だしね。需要が少ないってのが理由じゃない? 普通奴隷が必要なところは大きな農地だったり、貴族の屋敷や港があるようなところなんじゃないかしら。ま、あとは個人の趣向で必要とする人もいるけど」



ここでララが北のほうと言ったのは、砦より北にある”アン・ガミル””レン・シャファル”といった街のことらしい。

特にレン・シャファルは大きな平野部のため農業が盛んで、労働力を奴隷で賄っている場合があるらしい。


「ああ、なるほどね。ということは子どもも取引されるのか」


「そうね、ほとんどは労働力になるぐらいの年齢からだろうけど、それよりも小さい子も売買されているそうよ」


ララが珍しく吐き捨てるように言った。


「悪趣味な奴がいるんだな」


「まあ、人のことだからとやかくは言えないけど、私もそう思うわ。こんな仕事している私が言うのもなんだけど」


「そんなことないさ。人それぞれの理由があって仕事をしているんだ。自分を貶める必要はないさ。現に俺をいい気分にさせてくれるんだから」


サモンはそう言いながらララを抱き寄せ頭に手をやる。


「おかしい人。そういえばうちに来ている子が孤児じゃなかったかしら」


「へ~、女の子かい?」


「まさか。雑用をお願いしている子よ。男の子」


「そうか。そんな仕事もあるんだな。ここに住んでいるのかい?」


「住み込みではないわよ。ん~、たしかオイゲン通りあたりに数人で住んでいるって聞いたわよ。みんなで協力して生活しているって言ってたかな」


「オイゲン通りね。たくましいな」


「私も見習わなくちゃ」


そんな風に時間いっぱいまで過ごし、サモンは娼館を後にした。


「ニケ、どうせ聞いていたんだろ」


なぜかふてくされたような口調のサモン。


「はい、指令。指令の基礎体力はこの世界における同世代の成人男性と比較すると……」


「いや、それじゃない。オイゲン通りの話だ」


さらにサモンのふてくされ度合いが高まる。


「オイゲン通りについては呼称ですので、サーチできませんでした。そのため指令が成人女性とイチャイチャしていた館の15歳程度と思われる少年をマークし、追跡します」


「おい、確かにイチャイチャはしていたが、あそこはああいうことをする所でな。イチャイチャじゃなくて娼館”ブロムスター(花園)”だ。……追跡待ちということは明日だな」


だがその言葉にはなぜか力がない。

おそらくその理由はニケには理解できないだろう。

サモンにとってはいろいろ考えさせられる夜であった。

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