3 ケイバン
“ケイバン”・・・シュネーの記憶では聞いたことのある傭兵の名前であった。
その名は冒険者や傭兵の間でも囁かれ、1000人の兵を前にしても引かず、ドラゴンにさえ立ち向かうと言われるほど強者だ。
そんな剛の者が“鋼の大森林”の冒険者ギルドマスターとなったことは、最近伝え聞いたばかりであった。
そんな人物が訪ねてくるなんて驚きを隠さずに、さっきまで優雅なひと時を無駄に過ごしていた自分を呪い、目の前の人物にシュネーは目を向ける。
「突然忙しいところ、面会を申し出てあいすまん」
一番先に言葉を発したところ、この均整は取れているが偉丈夫な男がケイバンなのだろうと思いつつ後ろに目をやると、そこには全身をマントで包んだ仮面の者と自分よりも背の低い少年のような男がいた。
仮面の者はまるで気配がなく、これまでのどの人物とも比肩しがたい者であった。
シュネーとしては、人であるのかさえ分からない、言うなれば、影や物の様に感じたのである。
少年のような男は、見間違うことはない。
“人”そのもので、しかも普通の“人”であった。
唯一、シュネーが安心して目を向けられる存在がいることに安堵しながらも、ケイバンが差し出した握手に手を添える。
「いや、かまわない。丁度一区切りしたところだ」
シュネーは、ケイバンのオーラを感じながらも平静を装いギルドマスターらしく返す。
客人にソファーに座ることを促し、飲まれまいとしてケイバンへとしっかり目を向け、切り出す。
「今日はどういった用件だろうか?」
しっかりと見据えた、シュネーに対して、ケイバンは特に気負った気配もなく答える。
「此度、こちらで戦うことになった。ついては事前に話を通しておく必要があると思うが、どこに行けばいいか見当もつかんのでこちらに参った・・・」