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25  勝敗札

会議はお昼の昼食後も続けられた。

最初の議題は広告に関することだった。

これについてはすでに話はしてあったためここにいる者は皆理解をしていた。

しかし、その効果の不明さや看板の書き方などを知らないなどのこともあり出資者が集まっていないのが現状らしい。

やはり出足は鈍い。

仕方がないので皇帝陛下の似顔絵と帝国軍募集の広告、それと費用は協会の持ち出しで宿屋の”黄金亭”とパン屋の”カリメロ”を出すことだけが決まっていた。

皇帝陛下の似顔絵は不遜だという意見もあったが、国威掲揚のためとイングリッドの父、アルフォンソ・カルヴォ公爵にお願いして押し通したらしい。

”黄金亭”は街に10軒ある宿屋の中から選ばれ、”カリメロ”も8軒あるパン屋の中から選ばれている。

選考基準はそれぞれ協会役員とのつながりが薄いことらしい。

これで広告の実証実験を行うらしい。

何事も試行錯誤が重要だ。

ただこのような大きな看板に対する知識がないらしく、シュネーからクリスに質問が飛んだ。


「この街にはこんな大きな看板を作ったものがいないのだが、どんなものを書けばいいんだ?」


「まず看板広告というものをちゃんと理解しないといけないそうです」


「人を集めるためのものだと聞いているが」


「まあ、最終的な目的はそうですが。実際に商品を買ってもらうまでに段階があるんですよ」


そう言ってクリスは広告の役割を手短に説明した。

具体的に看板の役割は3つを想定している。

1:お店を知ってもらう 2:お店の魅力を知ってもらう 3:お店に入ってもらう

以上のことをサモンから聞いたことを話した。


「これらのことすべてを看板詰め込むことは難しいかもしれません。しかしたとえば宿屋であれば、地図と一緒に”毎日清潔なベッドシーツで安眠”や”宿泊者にはエールを一杯サービス”などと添えれば、目を引くんじゃないでしょうか」


クリス自身ノミがいるベッドにうんざりした経験を持っていた。

正直そんな看板があればその宿屋を探すだろう。

同じ思いをしていたのだろう協会役員の半分は頷いていた。


「なるほどそういうことか。俺ならエールを一杯サービスしてもらうだけで入ってしまうな。納得いった」


シュネーは頷きながら言った。

まわりで笑い声が起こるが、近くに座っていたイングリッドには経験がないらしく、シュネーに小声で”そのようものなのですか?”などと聞いていた。

生活自体が貴族と平民ではことなるから仕方のないことなのだろう。


そのような説明と質問を繰り返し、結果最初は書き手もいないため大森林側で製作することとなった。

この辺りはサモンとの話の中で想定されていたことなので、想定内の範疇であった。

そして次に”勝敗札”の話題に移る。

これに関しては、商業ギルドから出向しているイザーク・フェルナンデスより説明があった。

それによると、胴元となる協会の取り分以外を当選者に還元することは難しくはないが、偽造の札についての対策案がでていないとのことだった。

たしかに”勝敗札”の偽造が行なわれれば協会の打撃となる。

かといって高度な技術が発達していないこの世界では厳しいのかもしれない。

だが、この問題にもクリスは一つの案を用意していた。

「ここにサモンさんから預かってきたものがあります。まずはこれを見ていただきましょうか」


そう言ってクリスは懐から薄い木の板の束を取り出し、皆も前に並べる。

見たこともない文字が書いてあり、赤や緑のマークのようなものがいくつか散りばめられている。

これを見て”まったくわからない”といったジェスチャーをしている皆をよそに、イングリッドが代表するかのように質問をした。


「これはいったい何ですの? 文字のような気もしますが、シンボルにも見えますが」


「はい、どちらも正しいですね真ん中の大きな黒い線は文字です。私にも読めませんが。周りの赤や緑はハンコと呼ばれるものです」


イングリッドの言葉にクリスも未知の文字が描かれていることを認めた。

流れるように描かれたそれは言われてみれば文字にも見えるし、何かをデザインしたようにも見えた。

同様にシュネーも声を上げる。


「これが文字!……それにこれが”ハンコ”」


一方、魔術師ギルドのセルジ・カサスには職業柄呪符のように感じ取っていた。


「文字のほうはよく見ると美しいですね。曲線で描かれて呪文のようにも見えます」


見慣れない曲線を多用した”文字?”は、未知の魔法陣のようにも見えるのかもしれない。

しかし、商人でもあるイザークはさすがに的を射た言葉を発した。


「こちらの”ハンコ”と呼ばれるものは、我々が使う”割符”に使う”印”に似ていますが」


「はい、さすが商業ギルドの方ですね。そう思っていただいて結構です。これもサモンさんの受け売りですが」


「ええ、ただ私たちもこの案は上がっていたんですが、偽造も可能ですし、確認するのも手間がかかるということで取りやめになっていたんです」


「はい、たぶんそういう結論にたどり着くだろうとサモンさんも言っていました」


「ではなぜこれを、たしかに”印”、いや”ハンコ”でしたか……それが多数押してありますが」


イザークは手に取ったサンプルをさらに間近で見てみる。

指でなぞったり、角度を変えてみたりとしていた。


「ま、札をそれぞれ見比べてください。何か違いが見えませんか」


「おお、なるほど。すべて違う位置にありますね」


イザークは近くにあった数枚を並べてみて声を上げた。

同じくイングリッド達も近くにあったものを比較してみる。


「まあ、ほんと!」


「はい、ですからこれをその都度変えていけば、まず一つの偽造防止になります」


「たしかに!だがそれだけでは防ぎきれないのではないでしょうか」


短期間ならまだしも、継続的に行なっていくことを考えれば偽造されてしまうだろう。

おそらくこの”勝敗札”のシステムの成功は、偽造の防止がもっとも重要なポイントになるだろう。


「はい、そのとおりだと思います。なので、毎回異なった切り方をします」


「切り方?」


「ははぁ、なるほど。毎回切り口を変えた割符にするということですね。それならほぼ複製することは時間的に難しいでしょう」


切るぐらいなら魔法でも使って大量の札を処理することは容易い。

数のハンコや切り口を変化させれば、その日のうちに偽造されることも難しいだろう。

さらに皆同じ切り口であれば確認もしやすい。


「はい、おっしゃるとおりだと思います。払い戻し時間をその日に限定してしまえば、非常に難しいものになるとサモンさんも言っていました」


今の技術レベルでは難しいだろう。

だが、今後数十年、数百年の話だ。

しばらくは大丈夫であろう。


「ええ、そうです。これは商人にとっても大発見です」


イザークは非常に喜び、”勝敗札”の問題解決だけではなく、自身達も利用できるものと出会えたことも含んでいた。

さすがのクリスもそこまでは想像できず”オーバーに喜ぶなあ”ぐらいに思っていたのである。


「はは、気に入ってもらえて良かったです。サモンさんも喜ぶと思いますよ」


「ただこの文字のようなものは我々も再現が難しいように思われますが……」


「ああ、その点はこちらから複製できるよう器具をお送りしますよ」


「いや、何から何まであがとうざいます」


イザークはそういって大げさに感謝を示す。

クリスは笑顔でそういって締めくくり、”勝敗札”の販売への道が開けた。

だがこれもまたこの世界においての技術革命の出発点となるものであったため、騒動に発展するのだった。


その後しばらく清掃や施設管理の点などの議題が話し合われた。

作業に当たる者については、当面は街の貧困層の者を雇って維持していくことが報告され、無事に説明会を終えることになった。

また次の週末まで空きます。

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