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22 呼び水

「くそっ。これも防ぐのか」


イオの逆袈裟に切り上げられた剣は、激しい音と共にニケの腕で止められていた。


「ニケを越えなければ俺には届かないよ」


腕を組んで仁王立ちとなったサモンが言う。


「なんでできているんだこの体は!なめるなよ!」


そう吐き捨て、イオは後方へ飛ぶ。

同時に左手で印を素早く結び、その手をかざす。

手の先からは爆炎が弾け飛び、ニケの前に展開された。

だが、ニケはマントを翻し、迫りくる炎はまるでマントに吸い込まれるように消えた。

しかしイオの攻撃は、それだけでは終わらなかった。

炎がマントに吸い込まれたと同時に、渾身の突きを放ってきたのだ。

だがやはりニケの右手で剣はへし折られ、その流れで体当たりをされてイオの体は吹き飛ぶ。


「ぐふっ」


さすがのイオもなかなか立ち上がれないでいる。

見かねたサモンが、ニケに声を掛ける。


「ニケ、やりすぎじゃないか」


「肋骨の損傷と肩の脱臼だけです。生命に問題ありません」


「いや、もう少し手加減をだな……」


そう言ってサモンはイオに歩み寄る。


「どうする?まだやるかい?」


大の字になっっていたイオはやっとの思いで上半身を起こす。


「やりたいのは山々だが、切り札を返されちゃ、今ところ他の手が思いつかん。今日の所はこの辺にしといてやる」


そういってイオはまた大の字になった。


しばらくした後、サモン達はギルドマスターの部屋にいた。

今日はイオとの約束を果たすべく冒険者ギルドに寄ったのだが、早速約束どおり一戦交えることとなった。

それが先ほどのやり取りである。

今は、片腕を吊っているイオを前にサモンは座っている。


「ケガを負うなんて、ずいぶん久しぶりだぞ」


ケガを負わせた本人を前にしてイオがうそぶく。

それでもスッキリとした感じである。


「やりたければいつでも声を掛けてくれ」


「勘弁してくれ、俺も年だ。これ以上恥を晒すわけにはいかん。一応ギルドマスターなんでな」


サモンの嫌味にも素直に応え、言葉を続ける。


「で、ついでといっては何だが、伝えておくことが何点かある」


「ほう、王子達が何か言ってきたか?」


「ああ、街の様子を見てきたらしい。答えは”人が増えた”だそうだ」


「ほう、その答えに行きついた経過や展望も聞きたいねえ」


厳密にいえば”若い男が増えた”だ。

これは戦争というものがなくなったことにより、周辺地域の徴兵も少なくなり、中には結婚をして子どもを持つ者もいた。

これまで戦争という人を消費するものがなくなれば増加するのは当然である。

そしてそれは周辺地域においても起こり、あぶれた者はこの街に集中していくことになる。

恐らく今はその途中の段階だろうが、いずれそこには歪みも生じる。

格差の拡大や食糧問題などである。

果たしてシュナイト第一皇子は、そこまで見通せたのだろうか。


「それと人さらいの件だが、そっちの対処できる人数を連れ帰ってもらっていいとさ」


「人さらいはひどいが、それなら早速裏路地に行って交渉してくるとしよう」


サモンにとってもこれは思いつきであったが、子どもは無限の可能性を秘めている。

一人でも才能が開花すれば大きな収穫といえよう。

実際に何年か後には、鋼の大森林の孤児院から何人もの優秀な商人から冒険者、官吏や組織の長を輩出するになる。


「あと、他のギルド連中がお前さんに会わせろとしつこいんだがどうする?」


「会わねばならない義理もないよね。あっても約束はできんし、商売の話だったらうちのケイバンにでも相談してくれ。別に俺があの街を自由にできるわけでもないしね」


ケイバンに面倒事を丸投げしたサモンを横目にモデナ達は苦笑している。


「まあ、そうだろうな。ただお前さんは、あくまでも競技場を立てる交渉をしに来ただけだからな」


「まあね。そうだ、忘れていた。運営についてのことなんだが、広告主は見つかりそう?」


「ああ、それが今のところ、聖王国とうちの冒険者ギルドだけだ。商業ギルドなんかの商売に関わるところには打診してみたが、どうも効果のわからないものに金は出せないとかでな。もう少し説得はしてみるが」


実際、はたして競技場に名前を掲げただけで売り上げに影響があるのかは、イオでさえ懐疑的である。

しかしシュナイト第一皇子はなぜか乗り気なので、協会の一員であるイオが否定するわけにもいかなかった。


「まあ、そうだろうな。形のないものに金は出しにくいからな。そこで良い知らせだ。ここに来る途中、エイワード商会のミーアと知り合ったんだよ。俺のことも話してあるし、広告の話もしてある。なかなか鋭敏な感覚を持った女性だったよ。で、そのミーアが広告に興味を持ってくれたんで勧めておいたよ」


先日ミーアとの会食の際、取引以外にも競技場建設のことや広告のことを話していたのだ。

聡明なミーアは広告の件について非常に興味を持ったようで、すぐに食いついてきた。

人が集まり、商会の名前のある看板はインパクトもあり、名前と共に商品の絵でもあれば人々の目に焼き付く。

これは有名な貴族や皇族などの御用商人並みの効果を期待できることに気が付いたのだ。

まあ、もちろんサモンの説明があったからだが。



「おお、そうかすまないな。エイワード商会が広告を出してくれれば、きっと他の者も興味を持つに違いない。そうかそうか」


イオも思いがけぬ大物が釣れたことに喜ぶ。

エイワード商会ともなれば、これが呼び水となることは大いに期待できるのだ。


「まあ、最初なんだから吹っかけないでおいてくれ」


「ああ、そうするぞ」


結局、エイワード商会の広告の話が広がると他の商会などは競って参加することになる。

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