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20 第一皇子 その1

次の日、いつもどおりの時間にニケに揺さぶられて目が覚める。

昨夜の酒のせいでのどが渇いていた。

”クイーン オブ ザ ナイト”……名前のわりには上品さのかけらもなかった。

まあ、町中にある食堂ならそんなものだろう。

ミーア曰く、それでもギルドのそばの食堂よりはマシとのことらしい。


それでもミーアとの会食で、聖王国の情勢をいろいろ聞くことができた。

街の様子や国の情勢から物流事情などさすが商人といえるほど様々な情報に精通していた。

これは大きな収穫であった。

なぜ、そこまで話が及んだかというと、サモンの正体は伝えてはいなかったが、ミーアなりに推察し、”鋼の大森林”の高官、もしくは主であろうと考えていたようだ。

さすがに主だと明かすとそれまで以上に畏まったが、すぐに普段通りの応対をお願いした。

しだいに打ち解け、商人らしく取引の話へと移っていった。


たとえば大森林の商品は帝国分と聖王国分で配分や技術移転などの話である。

配分については帝国分と聖王国分でが決まっているらしく、配分が少ないものについては高額になるらしくどうにかしてほしいらしい。

まあ、これは作る量が決まっているので我慢してもらうしかない。

技術移転に関してもこれまでの両国との関係上、公式な関係を絶っていたことから仕方がない。


そうしたことを伝えるとミーアが意気消沈してしまうが、その姿が面白く、つい苦笑してしまうサモンであった。

詫びにそれらもじきに解消されるであろうことをミーアに伝えると、すぐに機嫌をよくしたのだが。

こうして後半の話題は、おもに取引から始まり経済の話にまでおよんだ。

後に大きな転換点だったとミーアは語る夜の出来事であった。



やがて宿での朝食が終わる頃、イオが迎えに来た。

イオと共に馬車で領主館へと向かう。

ほどなくしてシャニッサ伯爵領主館へと辿り着く。

館はものものしく兵士達に取り囲まれ、まるで要塞のようだ。

合図とともに館の扉が開かれ、その中に馬車は進んでいく。

両脇には騎士団が立ち並び、微動だに動きはしないがあきらかに殺気を籠めた視線を向けていた。

それでも相変わらずどこ吹く風の様子で堂々と館に入っていく。


中ではボイゲン聖騎士団長とシャニッサ伯爵領主シャル・ヴィルト・シュヴァインが出迎える。

ボイゲン聖騎士団長が身体検査を要請するがシュヴァイン伯爵が止めた。

友人に身体検査の必要はないとのことだった。

こちらの要望どおりこれは外交ではないという体裁のようだ。

二人に案内され、長い廊下を歩き、奥の部屋にたどり着く。

扉を開けると丸い大きなテーブルがあり、奥に座る人物が見えた。

すぐに立ち上がり、サモンのほうへと近づいてきた。


「ようこそ聖王国へ。私がシュナイト・エーデル・シュタイン。一応第一皇子だ。シュナイトで結構だ」


「よろしく、シュナイト殿。俺が提案者のサモンだ。一応森の主だ」


「ああ、光栄だ、サモン殿。興味深い提案をしてくれて今日は楽しみにしていたよ」


「そう言ってもらうとありがたいな」


そう挨拶を交わすと、サモンがニケやシスレィを紹介する。

シスレィの面々は相手が皇族ということもありどことなく緊張し、ニケは相変わらずのノーリアクションだった。

シュナイト第一王子はニケに興味深げな視線を向けるが、そのまま皆に席を勧めた。

そして早速、帝国と同様の手順で説明を始めた。


「以上で一通りの説明を終えたが、何か質問はあるかな」


サモンが説明を終え、相手方、シュナイト第一王子やシュヴァイン伯爵の面々の様子をうかがう。

しばし両者の間で小声の相談があった後にシュナイト第一王子が口を開く。


「まずは大前提なのだが、本当に建設費はそちら持ちということでいいのか?もし本当だとしたら、そちらのメリットはなんなのだい」


「ああ、本当だよ。大きな建物自体を価値でいえば大きな金額になるけれど、こちらの手持ちの材料とゴーレムを駆使して造るから建築費はただ同然となるんだよ。ペテンに思うかもしれないけどゴーレムの力は知っているよね。力もあるし、休まず働ける優秀な働き手だよ。そしてメリットはさっきの説明でいったとおり、サッカー好きの冒険者がうるさいんだよ。だから暴動を起こされる前にその要望に応えておくのが賢明だろ。それとこれも説明したけど、新しい商売への試金石になるのさ。これは十分にこちらとしても、聖王国や帝国にとっても大きなメリットになるんじゃないかな」


シュナイト第一王子の質問は当然の疑問である。

何しろただより怖いものはないのである。

しかし、サモンにとってみれば材料調達から加工、建設までゴーレムが行うため出費は無いに等しい。

自分が動くだけで要望が達成できるのであれば、それだけで十分なメリットとなる。

そしてそれに続く先があることを示した。


「確かにそちらにとってもメリットがあることはわかったが、運営に関してはこちらにまかすとのことだったが、それについての注意すべき点に触れられていなかったようなのだが……」


「ああ、さすがだね。あえて触れてはいないよ。運営についてはこっちや聖王国、帝国の中でやり方が異なるかと思って、その都度対応していこうと思っているわけさ」


「確かに違うのかもしれないな。たとえばどんなことが予想できるのかな」


「そうだね……たとえば恐らく今後上がってくる問題は、施設の保全の仕方なんかじゃないかな」


「なるほど、確かに城の清掃費用や修繕費などは馬鹿にならないからな。やり方次第では差が出るというわけか」


修繕や清掃など協会員が自分達で行えばもちろん出費は抑えられる。

だが広い競技場であればそういうわけにはいかないので、第3者に任せることになる。

その第3者をどうするのかは協会自体が判断するということだ。

冒険者ギルドに依頼するもよし、鍛冶師ギルドに依頼するもよし、さらに別組織を新たに結成し、そこに専属で任せることもできる。

サモンとしては新たな組織、清掃組合といったものを組織して仕事の提供場所にしていくことを提案した。

シュナイト第一王子としてもこの提案は受け入れやすく、前向きな方向で検討することを約束した。

これはやがて国に広がっていくこととなり、誰もが知るような組織へと発展していくことになる。


つぎにこの世界にはない仕組みについて、サモンは切り出す。


「あとは、まだ具体的に固まっているわけではない”勝敗札”なんかがそうじゃないかな。それなりに利権が絡むからどこで販売するとかもめるかもね。まあ、初めのうちは競技場だけで始めてもいいかもしれないけどね」


「むう、それは頭の痛い問題だな。それも聞きたかったことではあるが、金になるとわかれば当然商業ギルドの連中が騒ぎ出すだろうな。それと教会連中も絡んできそうだ」


「ああ、言われてみれば教会が興味を示しそうなことだなあ。以前うちにも教会を建てろだなんの言ってきたらしくケイバンがぶつくさ言ってったっけ。そのまま追い返したらしいけど」


これは国が認める公然な賭け事となる。

この世界の賭け事は全般的に罪になることはないため、個人的な賭け事は日常でも行われているが、国が絡むような賭け事が闘技場くらいであろう。

闘技場自体はこの国では聖王都にしかなく、賭け事も主に個人同士によるものだったため教会が口を出すことはなかった。

しかし賭け事を大々的に広めるのであれば、教会が首を突っ込んでくる可能性は高し、国も参加する組織が胴元となればなおさらである。

教会には神の威を借りて私腹を肥やす連中も多い。

なにせ勝負ごとに神様はついてくるのだから。

それでもシュナイト第一王子ら為政者たちはそのような者の力を必要とする場面も多い。


「教会を足蹴にできるとはうらやましいね。そんなことを聖王国でやろうものならきっと国が割れるな」


「まあ、うちは亜人種が多いようだから組織だったものがなくてね。神の恩恵なんて個人に与えられるもんじゃないんだけどね」


鋼の大森林は元々各国から迫害されていた人種の集まりであり、それぞれに信奉する神が異なる。


「さすが、鋼の大森林の主はいうことが違うなあ。まるで知っているような口ぶりじゃないか」


「いや、なんとなくそう思うだけだよ。ただ教会は手の届く範囲が広いからね」


「ああ、そうだな。ものは考えようか」


「そうだね。そこらへんはそれぞれの国で合うような形で展開してもらえればいいと思う。いずれにせよ、普及するまで時間はかかると思うからそれまでに検討していけばいいんじゃないかな」


「わかった、早めに協会に参加する者達も含めて検討していくとしよう」


教会は大きな街には必ずといっていいほどあり、中には規模は小さいが村でもある場合がある。

そのため組織力も高く、波及効果はとても高い。

これを取り込めれば商人として大成したも同然だとも言われている。

こちら側としてもぜひとも力を貸しほしい組織ではあるが、猛毒にもなりかねない。

こちらから働きかけることは危険なので、今は積極的に動くときではない。

そういったこともサモンは追加して言い含めた。

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