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17 シャニッサ砦の途上にて

「わかってはいたけど、森を出ると何もないもんだね」


サモンは帝国の件を終えた後、再び馬車の中で揺られていた。

ここはグラール聖王国のシャニッサ砦への途上だった。

目的はもちろんグラール聖王国行きである。

今回は前もってグラール聖王国側の冒険者に頼み、冒険者ギルドへの手紙を渡してあった。

グラール聖王国側の冒険者達も先の帝国側の件で湧いていたので、ずいぶん積極的に動いたようだ。

すでに日時や場所も決められていたが、国王が病床のため、第一王子が来るということであった。


「ねえ、モデナ、そんなに緊張しなくてもいいんじゃない?」

「いえ、ケイバン様からの依頼ですので、気を抜くわけにはまいりません」


今回はケイバンも仕事の都合上ギルドを開けることが叶わなかったらしく、冒険者パーティーの”シィスレイ”に護衛兼案内役を依頼した。


”シィスレイ”はモデナ、チェシャ、マリーゼ、メルモの女性四人組パーティーで、ケイバンとも長い付き合いでもある仲間そうだ。

その実力はランクA+、ギルドでもトップクラスだ。


「ねえ、ケイバンとはどこで知り合ったの?」

「シェンツィのアコース”の郊外にある“デニス・ワルト”で助けていただいたのがきっかけです」

「ああ、シェンツィって、”シェンツィ共和国”だっけ。ずっと東の国だったよね」


シェンツィ共和国は大陸中央東側に位置し、暑くて砂漠も多いが鉱石などの資源も多く、活気のある国だということが知られている。

またこちらの人種とは違い、シェンツィ共和国の人種は暑い国ならではのやや小麦色をした肌が特徴だった。

同じような肌の色をしているモデナ達は、恐らくシェンツィ共和国の出身者なのであろう。

また彼女たちの四人組パーティーは支援職がメルモのみで、3人が剣などの手持ち武器だ。

そのメルモも回復魔法を操る闘士だということから、火力重視のアンバランスな構成である。

他のメンバーも何なりと他の技術を得ており、それでカバーしているとのことだった。


「はい、シェンツィでも西のはずれのほうです」

「へ~、じゃあ、”シェンツィ共和国”の出身なんだ。それならケイバンも?」

「ケイバン様はシェンツィ共和国とその北にあるラフ・グラン新帝国の故郷近くのご出身とお聞きしています」

「ラフ・グラン新帝国かあ、一度”シェンツィ共和国”と併せて行ってみたいね」

「暑いところですよ、シェンツィ共和国は。それでも栄えている街も多いし、大森林のように活気があるところが多いですね。ただこちらよりは大型の魔獣が多い気がしますね。ラフ・グラン新帝国はわかりませんけれど……」


そんな話をしているとニケから遥か前方でなにやら反応があるとの連絡があった。

サモンの頭の中には、ニケとの連絡用デバイスが埋め込まれている。

これにはいろいろな機能があるのだが、アラームと同時に視覚の中にレーダーモジュール浮かび、トラブルを示す赤い点が表示された。

すぐにサモンがモデナ達に手を上げ、会話を中断して、馬車の荷台にいた黒い影に声を掛けた。


「状況は?面倒事は避けたいのだけどねえ?」

「状況にマッチするパターンから、強盗であると思われます」

「へえ~、ここら辺はおおむね静かだと聞いていたんだがねえ」

「いえ、先の戦の残存兵が盗賊になっているようです」

「面倒だねえ。仕方がない、スルーするのも目覚めが悪い。やっておしまいなさい」

「すべてを排除しますか?」

「いやいや、襲っている方じゃない、普通は?」

「どちらも武器を持っている場合は?」


確かにそうだ。

襲われれば当然防戦もする。

人相でといったところで、そういった柔軟な人間的感覚に乏しいニケに盗賊の見極めは難しいであろう。

だがそのやり取りの間にも命のやり取りは続いている。

長いやりとりが面倒になったのか、はたまたこうしている内にまた一人と倒されていく光景に業を煮やしたのかわからないが、重い腰を上げて指示する。


「わかったよ。よし行こう。近づきながら襲い掛かっているほうを減らしてくれ。

申し訳ないがシスレィも出てくれ」


シスレィの面々も二人のやり取りを聞いていて自体を察したのか、言葉は発しないが大きく頷く。

馬車が近づいたところで各自が駆け出す。

目標は改めて見ると2両の馬車に群がる20人ほどの盗賊だ。

先に動いたニケは、走るというよりも飛ぶような勢いで先行した。

翻るマントの隙間からは艶のある黒い甲冑のような質感の手や足が見える。

しかし勢いで外れたフードからは、目のない仮面をつけたような頭部がその姿を現す。

ニケは移動しながら襲撃者に向け、指先を少し前に出すしぐさを何度も繰り返す。

そしてそのたびに襲撃者が一人また一人と倒れていく。

いきなり倒れていく仲間の様子に、盗賊達も何が何だかわからない様子でパニックとなっている。

しかし、そんな盗賊達もニケにしてみれば恰好の的である。

ニケがその場に着く頃には、盗賊達はすべて地に伏していた。

あいにくと護衛であったはずの冒険者はすでに全滅していたようだ。

そのおかげで誤射はないように思われる。

襲われていた者の内生き残ったであろう者達も大なり小なりの傷を受け、その場にへたり込んでいた。

ニケが近づくとその者たちは助けを求めて声を出そうとするが、その姿にのどを詰まらせる。

そしてさらなる脅威に出会ったように顔を歪める。


「く・くろい……ま・じ・ん」

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