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16 その名は宝くじ?

俺は目を開くとどこまでも果てしない空の上に漂っていた。

いや、地上や雲も見当たらない。

上下の感覚もなく、重力さえも感じない。

いうなれば水の中にいるような浮遊感だ。

そして少し離れた目の前には逆光の中にその人はいた。

影になって顔は見えないが、きっと誰もが振り返るような美形なのであろう。

風はないが、ひらめくショールのようなものが光に透けており、神秘的でもある。

ふいに俺の頭の中に声がこだまする。


”すみません……すみません”


一瞬突然のことで動転したが、周りには誰もおらず”彼女”ただ一人だ。

やはり彼女なのだろう。


”驚かしてすみません。ここはあなたのいた領域とは別の領域です。驚かして本当にすみません。”


その言葉に呆けてみていた俺に向け、そんな彼女は続ける。


”すでにあなたのいた領域でのあなたは亡くなっています。もちろんあなた方う”死”という意味です”


まあ、なんとなく想像はしていたけれど、やはり動揺はする。


「いや、なんで……まあ、そうか」


俺は言葉を発しつつ、記憶を探りながら整理してみる。

確か……


その日は地方での仕事帰り、飛行機の中での出来事だった。

予定時間の半ばを過ぎたあたりに、キャビン内前方のほうでなにやら強烈な光が発生した。

爆発したような音はなかったがその後に猛烈な突風とトタン板が引き裂かれるような嫌な音などが混ざり合う異様な光景。

覚えているのはそんな光景だった。


「なるほど……死んだのか」

”はい、大変申し訳ありません。事故だったのです”

「そうか、まあ、しょうがないよね事故なんだから」


日本人気質のあきらめの良さが恨めしい。

だが状況を受け入れ、前を向ける気質を持つのも日本人だ。


「三途の川が見えないけど、どうすればいいのかな」

”いえ、左門さんが考えている事故とはちょっと違うんです”

「は?」


違う事故と言われたことにも驚いたが、心の中まで読まれたことにも驚いた。

やっぱり神さま?


”私、いえ私たちは万能の力を持つ神ではありません。それに近い存在ではありますが、及ぶ力は限定的で万能ではありません。私たちは無限に近い多くの領域を管理する者なのですが、あなた達他の乗客は勇者召喚の巻き添え事故の犠牲者なんです”


アニメのような設定って本当にあるんだ。

しかし巻き添え事故の犠牲者って……死んでいるのなら今更保証しろなんていったところでなあ。


”はい、別の者が飛行機内のほうを召喚したところ力の調整を誤ってしまったようで余力が飛行機に損害を追わせた結果、左門さん方々も飛行機と同様に空中分解されてしまいました。なので保障というわけではないのですが、別の世界へ行っていただくというのはどうかという提案なんですが”


おっと、嫌なものを想像してしまうな。

まあ、仕方がない。

痛みがなかっただけでも良しとするか。

うちの親は泣くのだろうか、最近連絡もしていなかったけど。

老後のプランとか考えていたんだけどなあ。

あ、死んだとなると家の事とか大丈夫だったかな。

見られて困るようなものはなかったと思うが。

あ~、口座とかパスワードが必要なものとかの処分、大丈夫なんだろうか。

うちの親は苦手だからなあ。

あっ、そういえば仕事はどうなるんだよ。

……

まあ、死んでしまった以上どうすることもできないし、何とかしてもらうしかないだろう。

そんなことが頭に駆け巡った。

しかしアニメや小説の話は本当にあったんだ。

でもみんな死んでしまうとこうなるのか?


”いろいろ後悔はあるかと思いますが、私のほうでバックアップはさせていただきますので安心してください。あと、予定調和の死であれば別の者が別の所へ案内しますよ。あなた達のいう天国と地獄のようなものではありませんが。……今回はこちらの不手際なので、私の領域へ左門さんが回されてきたということになります”


”私の領域へ回されてきた”ということは、他の人達も同じように別の管理者の元へ行っているということか。


「はい、左門さんと同じような状況になっています」


そうかそれは少し不安が解消されたが、俺の役回りは何なのだろう。

まさかさっき話に出ていた勇者をやれと?


”左門さんが望むのであればそれもまた一つの道かと思いますが、私のほうからはお願いしたいものがあります”


お願い?


”はい、願いというよりも助力をお願いしたい世界があります。私の担当する領域の中には様々な世界があります。その中には争いばかりが起こり、幾たびか滅びかけた世界もあるのです。そうした世界をできれば良き方向へと導いてもらいたいのです”


助けろと?世界を導くと?

いやいや、そんな大それたことを俺に頼むなんて無理だろ。

それともチートてんこ盛りで送ってもらって、帝国でも築けばいいんだろうか。


”すみません、左門さんに特殊な能力を授ける権限は私にはないのです”


なんと定番のチート能力なしなのか。

いったいどうやって帝国を築けと?


”いえ、帝国を築いてもらう必要はありません。ただ築きたいと望むのであれば構いませんが”


では、何も力もなしにどうしろと?


”力になってくれる者を引き合わせます。その者と協力して左門さんにとって良き世界へと導いてください”


なるほど力は与えられないけれど、力のある者を寄越すってことか、まあ、流されてみるか。

そう思った瞬間に彼女が遠ざかっていく。

いや、俺なのか?

しだいに視界が暗くなり始め、意識が遠のいてきた。

そういえば君の名前は・・・


”私の名前はロト。世界をお願いします”


宝くじ?……


”ちがいます”


意識が途切れる間際、かすかに頭の中に響いてきた。

助けられるのだろうか?

前の世界では誰かを助けられたのだろうか?

そんなことを思いながら意識が途切れた。

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