15 サモンの愚痴
交渉を終えたサモンは帰りの馬車の中で揺られていた。
「はあ、さすがに疲れたよ」
馬車が走り始めてすぐに早速サモンがこぼし始めた。
「そうだな。お前さんがあそこまで馬鹿丁寧に説明するとはな」
「面倒くさかったけど、しょうがないね」
「まあ、そう言うな。とりあえず踏み出したんだ。外に出た甲斐があったじゃないか」
たしかに5年もの間森に引きこもっていた割には、出だしは好調であった。
「ああ、確かにね。しかし、グラール聖王国にも同じように繰り返さなきゃならないのか。憂鬱になるなあ」
「ははっ、まあ、がんばってくれ。言い出したのお前さんだ。勝手に集まりだしたのは俺たちだが、情に負けたのはお前さんだ」
サモンが突如荒野”アンファング”へと介入した直後、たった一人で接触してきた者がいた。
それがケイバンだ。
そして一度去っていったが、森ができ始めた頃にエルフの一族を連れて再び現れ、周りに住みだしたのだ。
それが呼び水のようになって複数の部族が集まりだし、サモンが手を貸すようになって現在の”鋼の大森林”を構成している。
「そうだな、君たちを受け入れずにさっさとこの地を更地にしとくんだったよ。そうすればこんな苦労はしなかったのに」
「ああ、感謝しているよ」
「さて、一応言質は取ったが、候補地は……街の北西側だったよね、ニケ?」
「はい、指令。北西側でしたら街と山岳地帯との間となり、非常時には砦にもなるため合理的な位置となります」
「設計図を見せてくれ」
すぐにニケが小さな立体構造のホログラムを出す。
周りは堀と塀に囲まれた円形状の建物が映し出される。
屋根はないが、観客席もスペースがゆったり取られた競技場だ。
さすがに座席ではなく、一般席は芝のようだ。
ただし一部屋根がある席もあり、特別席のような壁で遮られている部屋もあるようだ。
真ん中にはサッカーグラウンドがあり、周りにはトラックも見受けられる。
見た目には少し高めの塀に囲まれた公立の総合グラウンド場のように見える。
さらに出入口はこの塀と街の城壁を橋で結んだ特殊な構造となっているため、出城の様相も醸し出している。
「この導線となる橋の幅はもう少し広げておいてよ。出店とか出るだろうし、幅が広いほうが何かと都合がいいし」
「了解です」
すぐにホログラムに修正が加えられた。
「あとは材料か……資材のほうはどうなっているんだい?」
「予定の98%は調達完了です。残り2%も本日19:00時をもって完了予定です」
「ではいつでも取り掛かれるね。予定では1週間か」
「はい。第1、第5部隊を待機として残し、残る部隊で当たります」
「そう、シスターズには手間をかけるね。それと君たちの建設技術には驚く人もいるかもしれないね。できるだけ見えないよう目隠しシートを張れないかな」
シスターズとは”ニケ”と同様のアンドロイド達である。
シスターズは100体以上存在しており、現在”鋼の大森林”に20体1組の部隊で5つの部隊が駐留している。
サモンはこれらを束ねる軍団の司令官の位置となる。
ニケはその補佐官兼護衛兼連隊長といった位置付けらしい。
なお、ニケとそれ以外の個体は情報リンクしており、ニケに命令すれば、即座に他の個体に共有され、実行される。
サッカー場の建設には、このシスターズの力を借りて建設することとなっている。
「可能です。アニソトロフィ・シールドを設置します」
「ア、アニト……何それ?」
「物理的性質を異なる方向に歪曲させ不均一にして無効化する防御壁です。我々各個体も装備していますが、指令にもお渡しした装飾品にも備えています」
「あ、そうなの。じゃあ、それでいいや」
「随分適当だな。司令官がいらないんじゃないか」
「いや実際、わからないことが多すぎるんだよ。しょうがないっしょ」
「まあ、確かに5年の付き合いだがニケ殿達には驚かされることばかりだからな」
「俺だって同じだよ。いまだにニケ達がどうして俺に付き従うかわからないし、目的もわからないのだから」
「いまだに信じられんよ。サモンは別の世界からやってきていて、さらにニケ殿は”おーばーてくのろじー”だったか?サモンの世界よりも高位の存在なんだろう?まあ、どちらにせよ俺にとってはどちらも計り知れない力を持つ者だ」
「まあ、俺のほうは何の力もないけどね。ニケが従ってくれてるだけだよ」
「確かにそうかもしれんが、ニケ殿にあり余る力の行使をさせること自体が最大の力なんじゃないのかね。皇帝を前にあれだけ堂々としていられるのもサモン殿の胆力あってこそだと思うぞ」
「いや、単純に”ドラゴンの威を借る”ってやつだよ」
「”ドラゴンの威を借る”?……なかなか面白い表現だな。ま、そうだとしてもそれを含めたサモン殿なのだ。謙遜することはない、堂々と”威”を借りればいいのだ。それで戦のない世界に近づけるのであれば、おおいに借りればいいではないか」
「なんだよ、人を借金王のように言って……まあ、そうだね、夢に出てきた”あの人”の願いだからね。できるだけやってみるさ」




