13 ウォルケン・ブルフ皇帝
3日後、サモン達は予定どおり皇帝との会談のためアレクサ辺境伯爵領主ポラール・リヒト伯爵の城に来ていた。
城といってもそこまで大きくなく、堀と塀に囲まれた砦のようなものである。
サモン達はギルドでシュネーと合流し、それらしくギルドの馬車でここまで来た。
城に近づくとどうやら野営地であろうか。
所々に兵士たちの野営が見られ、思ったよりも大勢で押し寄せたようだった。
近づくと斥候が現れ、確認のやり取りの後、合図と共に城までの道沿いに兵士たちが集まりだす。
集まった兵士は道沿いに並び、緊張した面持ちでサモン達を出迎えた。
城の中に入ると騎士達が道の両脇を飾っていた。
騎士達の表情は先ほどの兵士達とは異なり、憎悪の目を持って向かい入れていた。
サモン達が馬車から降りると、近衛騎士団長を名乗るドンナー・シュラークとその部下数名が案内役となり、皇帝の待つ部屋まで案内された。
ドンナー近衛騎士団長はサモン達を初めは訝しんだが、すぐに思い直したのか平常心を纏い、先頭を切って歩き出した。
しばらく長い廊下を歩かされた後、とりわけ大きな扉のある部屋の前に着いた。
扉の前で衛士にドンナー近衛騎士団長がサモン達の来訪を告げ、扉が開き中に案内される。
部屋の中には大きな長いテーブルがあり、奥に二人の人物が見えた。
奥の一人は妙に着飾った人物、ウォルケン・ブルフ皇帝陛下その人であろう。
またその脇の人物は、領主であるポラール・リヒト伯爵であろうことは予想がついた。
「ウォルケン・ブルフ皇帝陛下の御前である」
ドンナー近衛騎士団長が大きな声でサモン達に礼を促したが、サモンはどこ吹く風である。
さらに近くの椅子へと勝手に腰かける始末である。
それを見たドンナー近衛騎士団長は剣に手を掛けた。
今まで抑えていたものが抑えられなくなり、切りかかろうとした。
「貴様、陛下の御前であろうが!」
しかし次の瞬間にそこには黒い影“ニケ”がおり、ドンナー近衛騎士団長は大きな音と共に壁の方まで吹き飛ばされていた。
音を聞いた衛士が駆け込んでくる。
「うろたえるでない!客人の前だ。ドンナーは自分で転んだだけじゃ」
リヒト伯爵が大声で制止し、駆け込んできた衛士達にドンナー近衛騎士団長を連れて下がるよう手で合図する。
横ではウォルケン皇帝が苦笑していたりする。
「そのようだ。こちらからお招きしておいて騒がしくて申し訳ない。余が帝国皇帝ウォルケン・ブルフだ。この場は私人として知恵を借りに参った」
ウォルケン皇帝自らこの場を知人の交流の場と宣言した。
サモンもそれ相応に応じる。
もちろん最初から畏まるつもりもなかったであろうが。
「かまわないよ。僕が鋼の大森林の“サモン”だ。皆からは“指令”とも呼ばれている」
「すまぬが、指令とは?聞きなれないが」
「そちらの皇帝と似たようなものさ」
「なるほど理解した。では敬意を表してサモン殿と呼ばせていただこう。」
「ああ、かまわないよ。こちらもウォルケン殿と呼ばせてもらえれば、気兼ねせずに話せてありがたい」
「承知した。では早速……、改めてこれまでの経緯とそちらのプランというものを聞かせてほしいのだが」
「そうだね、早速持ってきた資料を見てもらった方が早いかな」
そう言ってサモンはニケを促すと、ニケは右手を斜め前方に突き出す。
一瞬、ウォルケン皇帝やリヒト伯爵に緊張が走るが、壁にサモンの知識でいえばホログラムが浮かび上がる。
その映像には文字や絵が次々と浮かび、映像が変わるたびにサモンがその説明をしていった。




