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12 魔鉱結晶

長文になってしまい見苦しくてごめんなさい。

しかし、サモンは予想外なことを口にする。


「ミスリルのことは知っているか?」

「ああ、もちろん知っている。そ、それがなんだ」


ミスリルは武器や防具にも使える貴金属だ。

唐突にサモンの口から放たれた言葉に、シュネーは虚を衝かれて思わずどもる。


「ミスリルは魔素との相性が良い」

「そんなことは冒険者の初心者でも知っている。もったいぶらずに早く言え」


そんなことは当たり前だとでもいうようにシュネーは答える。


「そんなミスリルでも君たちが知っているのはそんな程度だろう」

「だからなんだ!」

「ではミスリルに魔素を与え続けるとどうなるか知っているかい?もちろん他にも条件はあるがね」

「???」


出し惜しみするようなサモンの言葉に苛立つシュネーだったが、気になる点があった。

確かにミスリルは魔素との相性が良いため付加魔法を施すことが多い。

それは魔素を注入するようなものだ。

だから特に問題はないはずであった。

しかし、気になった点は”魔素を与え続ける”ということであった。

付加魔法は魔術師が施すのは当たり前だが、その強さや量は魔術師の力量次第だという。

なので、魔術師の力量以上に魔素の注入はできないことになる。

しかし、さらにそれ以上となると想像はできない。

未知の領域なのだ。


そう思い当たってシュネーが黙っていると、


「魔鉱結晶さ」


サモンが意外な答えを発した。


魔鉱結晶は剣や神具とかに使われる結晶体で、それ自体が凝縮された膨大な魔素の塊であり、これを媒体として魔術を行使できる。

さらに時間が経てば魔素量も回復するといった性質を持つ結晶であった。

そのため希少であり高価でもあった。

しかし、ミスリルが魔鉱結晶に変化するなど聞いたことがない。


思わず心の声が口から洩れてしまう。


「嘘だろ、そんな話は聞いたことがない」

「だろうね。時間を掛けて探り当てたことだからね」

「しかしそれが事実だとすれば、鍛冶師ギルドのやつらは大騒ぎだぞ」

「そんなことは些細なことさ。なにせ地下にはその魔鉱結晶が鉱脈として寝ているだからね」

「ま、まさか」

”ガタッ”


魔鉱結晶の鉱脈まであると聞いて思わず立ち上がってしまう。

どれほどの鉱脈かは分からないが、直径3cmほどであれば立派な家が買えるくらいであろう。

その倍ほどであれば豪邸が買える。

そんなものが鉱脈という塊であるのであれば、その価値は計り知れないものとなり、戦争の火種に間違いなくなる。

だが今の問題は、果たして何のつながりがあるのかということである。


「それが本当だとしても、何の証になるんだ」

「わからないかなあ、大量の魔素を浴びたミスリルが 魔鉱結晶になるんだ。その原因は何だい?」

「!!」


そうミスリルが魔素を浴びて魔鉱結晶になるとすれば、何かしらの条件が必要だとしても大きな要因は大量の魔素、つまり魔素の暴走につながる。

シュネーはやっと合点がいった。

思わせぶりなサモンの話にいい加減嫌気がさしていたが、ようやく理解できたのである。


「そういうことさ。たとえば君たちがタリウッド遺跡と呼んでいる地下神殿には秘密があるのさ」

「ふん、タリウッドなど多少経験が積んだ冒険者が行くような場所に秘密などあるはずがない。冒険者が足繁く通うような場所、すべて調べ尽くしている」


タリウッドはシュネ言うとおり、中級冒険者がレベル上げするような場所で廃棄された古い神殿である。


「ふうん……そう……だったらタリウッドで別のものが出てきたら、”うち”に管理させてもらってもいいかい」

「おい、ちょっと待て。一体何がある。あそこは帝国領だ。いくらなんでもおかしいだろ」


シュネーの言うとおり、統治権のない鋼の大森林が仕切るのはおかしい。

もちろんサモンとて本気ではないことは分かるが、魔鉱結晶の絡みであろうことから冗談でも引くことはできない。


「なぜだい?お宝は発見者のものなんじゃないのかい?」

「くっ、詭弁を……魔鉱結晶の鉱脈でもあるのか?」

「それ以上のものさ。地下神殿の下にもう一つの神殿があると言ったら?」

「!!……まさか、本当なのか。どこにも最下層から先の出入り口はないはずだ。すべて調査はしてあるはずだ」


カマをかけてみれば案の定とんでもない答えが返ってきた。

しかもそれが慣れ親しんだ狩場に未知の扉があるのであればなおさらだ。


「ふふん、そうなんだろうね。でもあるんだよ、2層目の神殿が。……いや、先代の神殿といったほうがいいかな」

「先代の神殿?」

「そうだね、今の神殿のさらに下。おそらく先代の神殿が埋まったために現在の神殿を建てたんだよ」

「な、なんと……」


まさに青天の霹靂である。

これまで幾千万人もの冒険者が訪れた場所である。

自分自身さえも若き頃は何度も通った場所である。

それでも気付けなかったのである。


サモンはシュネーの反応を楽しみながら続ける。


「そして、その神殿の中から魔鉱結晶の反応が多く出ている」

「そうか、可能性はあるな。祭祀にはミスリルを使った道具なども多いからな」

「話が早くて助かるよ。そういうことさ」

「つまり遠い昔に魔素の暴走が起きて神殿のミスリル製の道具が魔鉱結晶化し、文明が滅び、長い年月をかけて神殿が埋まる。その後同じ場所に次の神殿が建てられたというのだな」


サモンはにやりと笑みを浮かべる。


「そうだそれが魔素の暴走と文明の消滅の証拠さ。そしてそういった場所が複数みられるんだよ。まあ、そういったことを突き詰めると、過去に2回は文明が滅んでいたってことになるんだよね」


サモンの言葉にシュネーは頷く。

サモンが言った”複数の場所”には、2層に分かれている鉱脈があるのであろうことを推察する。

そのため”2回”なのであろうということを。


その様子を見たサモンは、これまでとは違う真剣な表情で言い放つ。


「確かに僕は横着なのかもしれない。だが想像してほしい。魔鉱結晶化するほどの魔素を浴びることがどれほどの影響を地上にもたらすのかを。君たちが欲望のまま戦をあの地で広げることの愚かさを。だから僕は大きな決断をしたんだ。たとえそれが暴君と呼ばれようともね。ただし忘れないでほしい。その結果を招いたのは、何も考えず、何も疑わずに魔素を利用し続けた君たちにも大きな責任があるということを」


同時に先ほどまで感じなかった圧を放ち、シュネーは思わず背中に冷たいものを感じた。

しかし次の瞬間にはそれも消え去り、静かな口調でサモンは願い出る。


「今話したことが僕の介入のすべてだよ。だから書面にでも書き起こして皇帝にでも渡しておいてくれ。自分たちの領土の取り合いをするくせに、自分たちの置かれた状況を知ろうともしない。こんな話をしていると原因を元から絶ってしまえって思えてくるよ。だから皇帝との面会時にはこの話はなしでお願いするよ。それに今後の話のほうがお互い建設的だしね」

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