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103 海の幸に出会う

結局港での件、サモンの起こした騒ぎは、グラード公の仲介で手打ちとなった。

公には裁かず、スティール商会とゾフ商会の間での和解だ。

内容的には一方的にゾフ商会の大損となったわけだが、ゾフ商会の積み荷だけはその後沖に停泊している本船ゼラーナ号に積み替えられた。


ちなみに港で沈められた船は中継用の船だ。

ラフ・グランの商船は大型船が多く、水深がある程度必要となる。

そのため元々大きな船を想定していないロレンティアの港では入港できず、少し沖のほうで停泊していることが多いのだ。

実際に今も2隻が沖合に停泊している。


いずれにしてもゾフ商会の“バヌー”12頭はスティール商会に取られ、商会の威信は落ちることとなった。


翌日、サモンはゾフ商会の“バヌー”をしっかりと引き取り、スターリアを介してベイヤード商会に大森林まで運んでもらうように頼んだ。

そのためにサモンは今、ベイヤード商会の一室にいた。


「結局、“バヌー”をたくさん手に入れられたんですね。連れ帰ったのは1頭でしたけど」


これは騒ぎを起こしたサモンへの皮肉である。


「あはは、まあ、せっかくだからね。貰えるんだったら貰っとこうかなと」


「では早速、向こうで始められるんですか? 乳しぼりを」


「まあ、最初は手探りだけどね」


サモンとしては畜産の専門家でもないので、はじめは周りと相談しながらになることにはなる。

マルティナにはすでに打診はしていたので、準備はしてくれているはずであった。

問題は“ケイジュ”のほうだ。

冒険者ギルドの話では、依頼はまだ完了されておらず、時間が欲しいとのことだった。

依頼を受けた冒険者はまだ低ランクのようなので、仕方のないことだ。

そのあたりの事情はあらかじめサモンも聞いていたので、それも届き次第ベイヤード商会経由で大森林まで運んでもらうように頼んだ。


「それとイザハル村の件はどうされるんですか?」


「ああ、またしばらくしたら行こうと思っているよ。どうせこっちの港の改修もあるからね」


そう、ゾフ商会の件とは別に港の改修は行うことになっていた。

すでにパニッシュとの話し合いの前に、決定していたのだ。

つまりはパニッシュの虚栄心を利用し、大人しく引き下がるように仕組まれていたのだ。

話をうまく収めることにグラード公やサバスにとって大きな利益があるものでもないが、これまで大きな顔をされていたラフ・グラン勢への牽制になるものだった。

そのため港の件からというもののラフ・グラン勢は、明らかに大人しくなっているようだった。


「本当におやりになるんですね。でもこれ以上に港をどのようにするんですか?」


先日の会議ではサモンはあまり具体的なことは話していなかったので、スターリアは素直に聞いてみた。


「ああ、掘って水深を深くするのもいいけど、沖に向かって港を延伸させようかなと……」


「え、港を延伸?」


確かに海なので沖に行けば行くほど深くはなるが、スターリアの記憶ではかなり先までいかなければそれなりの水深にならないはずであった。


「ああ、200mほど埋め立てるよ。そうすれば大型の船も泊まれるくらいの水深は確保できんじゃないかな」


“200m!!”


サモンから漏れ出た言葉にスターリアは、あらためて驚いた。

現状の港の波止場が100mほど。

なのでその2倍の延伸をしようというのである。

今の港も10年ほどかけて作られたと記憶にあった。

それを考えると単純に20年ほどの大工事である。


「埋め立てる? って、海の部分を港にできるんですか?」


「ああ、そのつもりだよ」


驚くほど事もなげな顔で答えるサモン。

それはスターリアにアレクサの競技場建設時の衝撃を思い起こさせるものだった。

僅かな期間で競技場を建設してみせ、広告等の新たな手法も広め街を大きく変えたサモンのことを。


「そうですね、アカシ様ですものね。きっとこの街を変えてくださるのですね」


そう言ってスターリアは期待を込めた目をサモンに向けた。


そんな会話をしているとサバスが遅れて部屋に入ってきて、今後の予定などを擦り合わせたのちにサモンは商会を出ていった。

予定としては、再度サモンが街に訪れて改修を行うなるが、それを含め、その際の注意事項などをグラード公への言付けもお願いした。


サモンは一度宿に帰り、身支度を済ませて宿を出る。

街中で“ヘストゴーレム”の馬車は憚れるので、”バヌー”は仕方なく街の外までドナドナしていくことに。


途中所々にある出店のようなところを覗きながら街の出口(関所)まで歩いていく。

来た時には”バヌー”のことしか頭になかったので、注意を払っていなかったのだが、ひと段落して周りを見渡すと、やはり港町らしい光景が見受けられた。

多くの建物は石造りが多く、街の中にも潮の匂いが漂っている。

そのこと自体が、内陸部である大森林はもちろんのこと、アレクサやシャニッサでもあり得ないことだ。

石造りに関しては資材の関係なのだろう。


食べ物に関してはやはり海が近いので、海産物が店頭に並べられている光景が多かった。

ただどれも手の込んだ調理法ではなく、蒸すか焼くだけであった。

生で売っているのは、甲殻類や貝類ぐらいである。


サモンが聞いたところによると、甲殻類や貝類はどちらも調理用とのことらしい。

やはり熱を通して食べるようであった。

さすがにサモンも初見の海産物を生で食べようとは思わないが、豊富な海産物の種類は自身の故郷を思い出させた。


「やあ、これは近くの海で取れるのかい?」


覗き込んだ屋台の主人に声を掛ける。


「ああ、“スピッド(槍貝)”ね。そうだよ」


サモンが指さした15㎝ほどのヘラのような貝を見て主人が答えた。


「へえ、“スピッド”っていうのか。やっぱり砂地かい?」


「ああ、リニーザ川かモアイ川の河口だな。“パーマ(二枚貝)”がいるから素人は行かないほうがいいぞ」


“スピッド”について主人の話からやはり河口の砂地にいるようだ。

なぜサモンにも推測できたかというと、“スピッド”の形がまんま“マテ貝”にそっくりだったからである。


聞けば案の定、その生態もそっくりで穴を見つけたら掘り返して取るらしい。

どうもこっちでは穴に塩を入れる方法は知られていないらしい。

それと“パーマ”がいるとのことだが、これは現代とは違ってすべてが毒を持つ貝で、砂浜を素足で歩くと刺してくるらしく、食べることもできないらしい。

なので、“スピッド”を取るためには特殊な下駄スキーのようなものを履いて取るようだ。

そのため専門に漁をする者がいるとのことだ。


「へぇ、そうなんだ。あ、これも河口なの?」


次にサモンが指差したのは円錐形の貝だった。

これも現代では“三角ミナ”などと呼ばれているものだった。


「ん、“ツァイ(三角貝)”か。“ツァイ”は地磯だね。隣の大きいのは海の中にいるから、まあ、命懸けだね」


“隣の大きいの“とは、現代でいう”サザエ“に似たものである。

これは“トーニツァイ”と呼ばれ、サザエ“とは少々違って殻も厚く、ウニのような棘が生えていた。

その生息域は海中なので、潜るか、船の上から取るしかないようだ。

しかし海にも魔獣はいるので、冒険者頼みとなるようだ。


「ふ~ん、やっぱり浅い海にも魔獣がいるのか」


「ああ、だから値段も張るんだが、食感もいいし抜群にうまいぞ」


貝というのはやはり“どの世界でも似たような形をしているものなんだなあ”と感心しつつ、会話に出たそれぞれの貝を少量ずつ購入した。

貝はすぐにニケに預け、転送して冷凍保存するようにお願いをする。

自身の好奇心からでもあったが、丁度良い土産ができたとサモンは喜び、ロレンティアの街を後にした。

次回ロレンティアを訪れた時の構想を思い描きながら……。


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