表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/197

第98話 幕間:神断の罪杯《カオス・グレイル》

 ――“葬黎殿(そうれいでん)”。


 それは神秘的でありながら、どこか禍々しさも内包している天空神殿。

 一歩でも立ち入れば、たちまち気でも狂ってしまいそうな程の威圧感を放っている。そもそも大前提からして、この天空神殿に常人が立ち入ることなど出来るはずもないのだが――。


 一方、青年――ゼイン・クリュメノスは、そんな神殿を堂々と闊歩(かっぽ)していた。目的地は、最深部に(そび)える“臥竜(がりょう)祀壇(さいだん)”。

 その場所では既に九名ほどの男女が(たたず)んでおり、最後の一人であるゼインを待ち構えていた。


「――激闘から数日、随分と機嫌が良さそうですね、“神灼(しんしゃく)征者(せいじゃ)”」

「ふん、貴様こそ手土産への小細工は済んだのか? “罪滅の魔女”」


 開口一番、“神灼の裁者”――とゼインを呼んだのは大柄な女性。

 “罪滅の魔女”――アンブローン・フェイ。

 かつてアースガルズ帝国の宰相(さいしょう)にまで上り詰め、アレクサンドリアン・ラ・アースガルズが率いた政権を陰で操っていた張本人。


「ええ、成果は上々。弱国ミズガルズを革新へと導いた未知なる技術。興味深いですわ」

「随分と骨のない勇者だったがな」


 ゼインは興味なさ気に鼻を鳴らす。知的好奇心に駆られて興奮気味なアンブローンとは、対照的な反応だった。そんな二人の視線の先にあるのは、“人間の脳”。アンブローンが持つ容器の中で培養液に浸かっている。

 それが誰の脳で、何故この場所に辿り着いたのかについては、最早考察の余地はないだろう。ゼインの存在と“小細工”という彼の言葉が全てを物語っている。


「へぇ、その勇者様を生け捕りにできなかったくせにデカい口を叩くじゃねぇか。組織を取り仕切る“三天柱(トリニティ)”さんよぉ!」

「“偽眼器(ぎがんき)”……紛い物の力しか持たぬ分際で、よく()えるものだ。“七地柱(ゼヴン・テラ)”の面汚しが……」

「あァ!? 元々、テメェらが上扱いなのは納得いかなかったんだ! その眼も狩ってやろうか!?」

「本当によく回る口だな。だが所詮は弱さの裏返し。憐れなものだ」


 我関せずのゼインに対し、“偽眼”と呼ばれた大柄な男性が激高する。


 一触即発。

 剣呑な空気が立ち込める中、今度は“愛溺(あいでき)(さかずき)”と呼ばれる女性が言葉を紡ぐ。


「でも実際、貴方が生け捕りにし損なうなんて異常なことよ。そんなに強かったの? コレ?」

「思わぬ横槍が入っただけだ。まあ大層な能力(チカラ)を持っていたのだとしても、肝心の使い手は木偶(でく)だったがな」

「だったら、どうして?」

「聖剣の皇女と元勇者、魔眼保有者が二人。いくら“解放者(リベレイター)”である貴方でも、纏めて相手取るのは容易ではないでしょう。ガイア大陸でも、相当の使い手たちですから……」

「なるほど、それは喜ぶべきなのかしら?」

「“資質”の有無は未知数ですが、“叛逆眼カルネージ・リベルタ”と“天召眼アイテール・マター”をあれほどの精度で扱えるともなれば、可能性はなくはない……といったところでしょうか?」


 “愛溺の盃”と呼ばれる女性に対し、アンブローンは肩を竦めながら答える。

 敵の強さを喜ぶという彼らの真意は闇の中。


「“叛逆眼カルネージ・リベルタ”……保持者の多くは、魔法が使えぬ忌子(いみご)として処理(・・)される。“天召眼アイテール・マター”……他の魔眼よりピーキーであり、保持者の大半は能力に呑まれて死滅する。故に担い手は希少。特に後者は……」

「流石、“永劫の座”……物知りといったところね」


 ゼインの隣に立ち、“永劫の座”と呼ばれたのは白い少女。

 感情の無い声音で淡々と言葉を紡ぐ。


「まあ何にせよ……現時点、彼らの重要性は、他の魔眼保持者よりも高い。そうでなくとも、それなりに厄介な相手であることには変わりありません。その内の二人には、私も手痛い目に合わされていますし……」

「表舞台から引きずり降ろされたんだっけなァ! 宰相殿よぉ!」


 道化としては一流だったアレクサンドリアンを思い出しながら、アンブローンは再び肩を竦める。


「そう、ニヴルヘイムの……。皇獣を含めて、あの国は色々と抱え過ぎかも……。それにアルフヘイム王の隠密行動に加えて、アースガルズを含めた軍事同盟……ちょっと目障りな感じね」

「ミズガルズもヨトゥンヘイムに吸収されている」

「皆ちょっとやりすぎよね。私たち“神断の罪杯(カオス・グレイル)”の名に傷が付いちゃうわ」


 同じ場所で佇む一団ながら、集まった男女には協調性など微塵も見受けられない。この光景を見て、仲間や同士――なんて言葉が出て来る者はいないだろう。


 そんな彼らがこうして集っている真相についても闇の中。

 ただ一つ断言出来るのは――程度の差こそあれ、この場にいる誰もが大陸有数の戦士であるということだけだった。

続きが気になる方、更新のモチベーションとなりますので、【評価】と【なろう内でのブックマーク】をどうかお願いします!

下部の星マークで評価できます。

☆☆☆☆☆→★★★★★

こうして頂くと号泣して喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ