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第97話 戦いの果てに得たモノ

「さて、一度ニヴルヘイムに戻りましょう。ニーズヘッグが夜泣きしていないか心配ですし……」

「私もアルフヘイムに戻らないとだわ。まあ帰りがてら、一度そっちにも寄らせてもらうけどね」


 二人の王は少しばかりドヤ顔を浮かべると、アースガルズからの帰路を先頭に立って突き進んでいく。

 何があったかについては単純明快であり――。


「よくもまあ、あれだけ吹っ掛けたもんだな」

「うん、アースガルズの皇帝さん、殆ど座ってるだけだったもんね」


 それはつい先ほど終わった三国会談において、この二人が常に会話の主導権を握っていたから。


「我が王ながら見事な手腕と言わざるを得ませんでしたが……」

「半分、おっさん狩りだったな。アレは……」


 しかもアイリスだけではなく、ここまで微妙な距離感だったアムラスとですら、以心伝心してしまう程度には衝撃的な会談だった。


「“プルトガング”の貸与(たいよ)、“デュランダル”の完全獲得を始めとした、補給やら資材やら何やら、その他諸々の条件……」

「いくら同盟のリーダーがアースガルズになったとはいえ、実質的には裸の王様……というか、面倒くさいところだけ押し付けた感じだもんね」


 基本的には対等な三国同盟。

 どこかが不利益を被るような内容じゃない。それでも、こちらが得をする内容にはなっているということ。

 現皇帝があのアレクサンドリアンの父親とのことで、どうなるかと思っていたが、最早過去の栄光。真の王たちの前で凡王に成り果てていた光景は、なんとも哀愁誘うものだった。


 (ちな)みに“プルトガング”は、あくまで貸与(たいよ)という形であるが、アイリスの腰に収まる運びとなっている。

 理由は新たな担い手が現れなかったから。結果、戦力を遊ばせている場合ではないということで、アウズン将軍からの提案だったそうだ。


 それとこれが一番の衝撃でもあるが、ミズガルズの聖剣――“デュランダル”は、今も俺の腰に収まっている。入手経緯は、セラたちが戦利品として持ち帰って来られるように説き伏せたから。


 アースガルズで起こった戦闘であり、狙いも()の国。

 聖剣所持者を倒したのは、ニヴルヘイムの騎士。

 更にミズガルズ軍にも生き残りがいる。


 誰かが大きく主張した場合、その所有権で揉めること(うけ)け合いなし。いや、むしろ、そうならない方がおかしい。でも今こうなっているのだから、そういうことだ。


「ミズガルズの人たちはどうなるのかな?」

「誰に(そそのか)されようと、アースガルズに被害を出したことには変わりない。自分たちが起こした行動に対して、責任を取るだけだろう」

「投獄……軍事取引とか?」

「情報を引き出す意味も込めるなら後者。まあ、取引をする国が残っていれば……だけどな」

「そうね。気になるのは、ヨトゥンヘイムの動向……」

「ええ、あそこの国は手が早いと聞いていますから……」

「戦争がしたくてたまらない。今回の一件は渡りに船だったんでしょうね」


 巨人族の国――ヨトゥンヘイム。

 この国の歴史は、闘いの歴史。


 巨人族は他の種族と比べて、飛び抜けて戦闘能力が高いとされており、単体で強い生物である故か数が少ない。それも影響してか、民族や武力に対して高い誇りを持ち、生傷の多い国家であるようだ。

 (もっと)も、知った風な様子のアルフヘイム側以外からすれば、書面と伝承での知識しかないわけだが――。


「こちらが同盟を結んだとはいえ、ヨトゥンヘイムの戦力はかなりの物です。幸い、あの超兵器は斎藤翔真という少年が個人保有していた為、彼らの手に渡ったということはないとのことですが……」

「単純に勢力が増えたと考えれば、脅威には変わりない。むしろ、こちらが同盟を結んだことを知れば、それを大義名分に他国への侵攻を加速させる恐れもある」

「進んでも破滅、立ち止まっていても破滅……。どこかで聞いた話ですね。でも……」

「それなら前に進むしかないだろう。いつだって、どんな時だって」


 世界は混沌の渦に飲み込まれつつある。

 その中で自分を貫くには戦うしかない。たとえ、痛みを伴ってでも――。


 だが今の俺は一人じゃない。

 こうして隣り合っている者、俺たちを送り出して帰りを待っている者が多くいる。

 もう立ち止まることはしない。

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