第90話 迷い穿つ剣閃
「ほごっ……ふっざけんな!? 何が……」
涙目になって咳き込む翔真は、腹を抑えながら起き上がった。すると、何やら虚空を指で弾いて一人でぶつぶつと何かを言い始める。
「ステータス無効化系か? いや、特に状態異常にもなってねぇし、パラメータも変わってねぇ。だったら、どうしてこの俺が!」
奴は自分の眼先にある何かを触っているように見えるが、肝心の物体は何も見えない。恐らく何らかの独自技術や能力を行使しているのだろうが、これまで戦ってきた敵と比べるまでもなく明らかに異質。不鮮明すぎる。
とはいえ、さっきまでの言動や武器の力もあり、カウンターの危険性を鑑みて追撃には向かわない。先ほどの魔力残滓を吸収して能力を強化するに留まる。
「くそっ!? ありえねぇ! こちとらステータスカンストして、そっからオートで二倍! しかも剣の勝負では負けるはずがないのに、どうなってんだ!?」
しかし、奴の狼狽っぷりは異常。
いや、ずっと感じていた違和感が表層に現れた瞬間だったのかもしれない。
「テメェ! こうなりゃ“能力無効化”の“カラドボルグ”と二刀流だ! もうその瞳力を使えなくさせてやるぜ!」
「神話クラスの武器をこうもポンポンと……でも……」
“オートクレール”と呼ばれていた剣を扱う右腕と“カラドボルグ”と呼ばれた剣を扱う左腕。片や剣の達人のように思えるが、もう片方は力任せに振り回しているだけ。二刀流と言いながら、左右の剣をまるで別々の人間を相手が操っているかような感覚を覚える。
確かに奴はこれまで会った誰よりもバリエーションに富んだ戦闘スタイルを取り、剣技に優れ、単純な力も凄まじい。
だが奴の攻撃が自分に当たるイメージは欠片も湧いてこない。
“叛逆眼”による身体強化が最高値に近いのを差し引いたとしても――それほどまでに奴の動きはチグハグだった。
「折角の武器が泣いているな」
「はっ!? ほがっっ!?」
片翼から魔力を放出して急旋回。
奴の背後に回り込んで魔剣を振り抜けば、まるで背中に目があるかのように“オートクレール”を持った手だけが防御に入って来る。
しかし剣戟と同時に片翼も打突兵器として付き出していくと、“レーヴァテイン”のみを防御して黒翼はスルー。奴は腰砕けになりながら吹き飛んで行った。
「また躱さなかったのか? 本当に気持ち悪い……感覚だな」
先ほどと同様、黒翼による打突は防御される前提で放った攻撃だった。
何故なら、背後から不意打ち気味に繰り出した一撃に対し、目視もせず的確に防御できるような相手に通用する攻撃じゃないと結論付けていたから。だからこそ、本命は次のアクションだった。
でも現実は違う。奴はまたも容易く吹き飛んで行った。
今にして思えば、魔法だってそうだ。
さっきまではあれほど多種多様な攻撃を使ってきたのに、今は剣による物理攻撃しかして来ない。こちらの能力警戒なのかもしれないが、あまりにも戦闘スタイルが不規則に変わり過ぎている。
「剣の達人かと思えば、動きは素人。魔法のバリエーションは凄まじいが、運用は単調。だがその膂力と魔力量は本物……。それに未知の道具の数々……お前は一体何者なんだ?」
「ふ、ふざけんな……噛ませ犬が俺を見下ろしてんじゃねーぞっっ!! “アンチマギカ”!」
「その鐘の音は……」
突如奴がベルのような物を取り出して鳴らしたと思えば、“レーヴァテイン”と黒翼に纏わせていた力が四散。まるで無効化でもされたように、外に放出している分の力だけが何かに吸い取られて行く。
こちらの疑問が解消されることはなく、むしろ謎は深まるばかりだった。
「これは……」
「あら?」
それはセラやエゼルミア陛下たちも同じであり、自分の力が四散していく光景を前に目を見開いている。
一方、ミズガルズの連中は何の影響もないようであり、これまで通りに攻撃を仕掛けてきた。
「俺が味方と認識した奴以外は、もう魔法が使えねぇ! 正確には、異能の力は全部無効化される!」
「そんな都合のいい能力が……」
「俺だけには許される! できれば、こんな反則はしたくなかったが、テメーはブチ殺す!」
百歩譲って効果対象範囲内の全員が力を失うアイテムなら、まだ分かる。だがピンポイントで敵だけを無力化して、自分たちは好き放題に力を振り回せる――なんて、能力は凶悪を通り越して異常。
世界の事象には全て意味があるはずだし、消費と報酬という形で相互関係にあるはず。言ってしまえば、等価交換。
俺は“叛逆眼”という強大な力を押し付けられた代わりに、普通の人間であることを許されなかった。
それは皇女であることを強要されたセラや、勇者に成らざるを得なかったアイリスも同じこと。皆何かを犠牲に何かを得ている。
だが、奴は違う。
「御託は良い。お前は俺が斬る」
全ての属性魔法を司る剣。
未知の兵器の数々。
能力無効化や持つだけで剣の達人になれる長剣。
俺たちを取り囲む強大な障壁に加え、今発動した力の結合を分解する能力。
奴の口ぶりからして、こんな道具は他にいくらでもあるのだろう。
何のリスクも無しに操っていいような力じゃない。
世界に存在してはいけない。
これは俺のエゴ。だとしても――。
「はっ! 中ボスの噛ませがデカい口を叩くんじゃねェェ!!!!」
「言い様は知らんが、初めて気が合ったな」
俺たちは再び相対し、剣戟を交錯させていく。
「お前みたいなのは、俺の舎弟か奴隷になるか、ダサく死んでヒロインに幻滅されるもんって相場が決まってんだよォ!」
どうにか直撃は逃れているが、単純なパワーやスピードは奴の方が上。
というより、さっき発動した奴の能力の所為で、力の大半が使えなくなっている。
具体的に言えば、刀身に纏わせたり、黒翼を生成したりといった風に力を放出することができない。その結果、攻撃力と機動力は激減している。
セラたちに関しても魔法――特に大技に関しては、全く使えないにも等しい状態にあった。
そんな中、唯一幸いだったのは、この無効化とやらの効果範囲は表層に放出される力が主だったこと。よって、自前の“身体強化魔法”や“叛逆眼”による吸収強化に関しては、普段よりも効率は落ちるが、一応行使できている。
加えて、力を表層に出して吸収されるまでには、一瞬のタイムラグも存在していた。
とはいえ、こちらの戦闘能力は良くて半減。悪ければ、三分の一程度まで落ち込んでいるのは事実。
対して連中はフルパワー。どちらが有利なのかは言うまでもないだろう。
「これでもう卑怯な技は使えねぇ! 尋常に勝負!」
「現在進行形で卑怯な技を使ってる奴に言われてもな」
「だーかーら! 主人公様は何をやってもいいんだよ! この世界は俺の為にあるんだからな!」
でも、貫くと決めた想いと護らなければならない者たちがいる。
もうこの瞳は、散々絶望と闇を映し続けてきた。残酷も逆境も最早日常に等しい。
故に状況が絶望的に不利だとしても、諦める――なんて選択肢はない。
勝負は一瞬。
奴に隙を作り、今持てる最大出力で一撃を叩き込む。
それだけのこと。出力の増減など気にしている場合じゃない
「消し飛べやぁっ!! “ファイナデリック・エキスパンション・アルティメットアタック”――ッッ!!」
虹色の光が輝く。
奴が二振りの剣を交差させる動作と共に、空がそのまま落ちて来るかのような感覚すら覚える。繰り出されたのは、神獣種すら上回りかねない一撃。
予想だにしない破壊力ではあるが、これを待っていた。この瞬間こそ勝敗を分かつ―― 蒼穹の十字を瞬かせ、虹色の波の薄い部分を狙って一点突破。
全身に吸収が追い付かなかった虹色の光を纏いながら肉薄すると、奴の右腕を掴み取る。
「何ィっ!?」
瞬間、現在行使可能な力を刀身のみに凝縮。
全ての力を開放して炸裂させる。
「“我、迷いを断ち穿つ牙”――!」
黒虹逆戟。
逆手に持った“レーヴァテイン”から漆黒の雷光を迸らせ、一気に振り抜く。
力の外部放出に合わせて、無効化されるよりも迅く、吸収されるよりも迅く――。
「ぼ……ぐっ!?」
そして翔真と呼ばれていた少年の首と胴は、真っ二つに分かたれた。
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