第88話 過去の闇、異世界の力
「ほらっ! いくぜぇ! テンプレ通りの噛ませネームド君よぉ!」
「テンプレ? ネームド? 本当にさっきから何の話を……」
翔真と呼ばれていた少年は、力任せに長剣を振り回して来る。
俺が隣に飛んだことで空を切ったものの、剣圧のみで地表が抉れて破片と化す。
その破壊力はセラやかつてのアイリスと比べても、遜色ないレベルであり、驚異と言わざるを得ない。
「“斬撃剣・氷”! “斬撃剣・雷”! “斬撃剣・光”ィ!!」
「器用な奴だな」
「ちょこまかしやがって! この“エレメントソード”の錆になりやがれ! “風魔球”&“炎乱舞”ゥ!!」
それも剣を振るごとに攻撃の種類が変わるばかりか、斬撃系とは全く毛色の違う中・遠距離の魔法までも同時行使。ほぼノーモーションで、これだけの魔法を使い分けているのだから、恐るべき――というか、とても一人の人間とは思えない。
何より連中の魔法や武器は、長らく伝えられてきたミズガルズの物と比べても、あまりに異様過ぎる。
「フハハハハハっっ!! これじゃ近づけないわね! 全身穴だらけにして上げるわ!」
「面妖な武具ですね……」
連撃、粉砕。
イザベラと呼ばれた大柄な女性は、大量の砲身が接合した基部を両腕で抱えており、息もつかせない速度で魔力弾を放ち続けている。秒間、数十発近い魔力弾をばら撒きながら、大した疲労も見せていないところからして、明らかに俺たちの理解を超えている。
それに砲身が肩や腰にまで広がっていることで射角も凄まじく、セラでも距離を詰められないでいるようだった。
「年上のくせに防戦一方……」
「激ダサね! おばさん!」
ミアと呼ばれていた少女は、砲身の短い武装を二丁。
ミラと呼ばれていた少女は、先端に砲身と穂先を備えた巨大な槍を持ち、連携を組んで攻撃を放ち続けている。鏡写しのような容姿と相まって、息の合った陣形は侮っていいものじゃない。
「へぇ……面白いこと言うのね。おチビちゃんたち」
エゼルミア陛下も魔力障壁で対処しているが、数的不利もあって釘付けにされている。連中の武器が異様ということもあり、不用意に前に出られないでいるようだった。
「ったく、あいつ等、手加減しろって言ったのに……こんな原始人一歩手前みたいな暮らしをしてる連中が、近代兵器に勝てるわけねぇだろうが! 新しいヒロイン候補か傷物になったらどうするつもりだよ!」
「何を言っているのかは知らんが、まるで他の世界からでも来たような口ぶりだな。いや、そんなメルヘンはないか……」
「うっせー! 野郎には興味ねぇんだよ! 俺にやられる為だけに生まれた噛ませ犬キャラは黙ってな!」
奴の剣戟が地表を砕いた。
さっきから全く話が通じないとあって辟易してしまうが、現況を引き起こした連中に話を聞かないわけにはいかない。赫黒の魔剣で火球を斬り飛ばしながら、更に言葉を紡ぐ。
「盛り上がっているところ悪いが、何の目的でこの国を攻める? ミズガルズは他国に侵攻できるような状況じゃないと記憶しているが?」
「はっ、だからこそだ! この俺が色々と知恵を授けてやって、今は世界最強国家になったんだからな!」
中央国家・ミズガルズ。
ガイア大陸にある、九つの大国において最弱。少なくとも武力においては、他の八国とは比べ物にならないほど、お粗末な国家であるはず。
完全鎖国している国に対して、ここまで断言できる理由は何故か。
それはミズガルズに住む種族にある。
「これはお前たちが滅ぼそうとした人間の復讐なんだよッ!」
奴の言い様は正解であって、正解ではない。
ミズガルズに住まうのは人間の一種――“アンスロポス人”。
“ニヴルヘイム人”、“ミズガルズ人”――というような、他国人というだけではなく、俺たちとは根本的に全く違う人種だった。
でも――。
「確かに気の遠くなる昔……民族撃滅と称した殺戮があったのは事実だ。でもそれは、ミズガルズが始めた世界統一の覇道を返り討ちにしただけ。どちらが正しいかを論じるつもりはないが、発端はそちらだ」
「だからって、“アース人”もやり過ぎだろうがっ!」
現状、彼ら“アンスロポス人”は絶滅寸前、ミズガルズに住まう者たちが最後の生き残りとされている。その理由は俺たちが話している通り。
では何故そうなってしまったのかと言えば、同じ人間でありながら俺たち“アース人”と呼ばれる人種と比べ、彼ら“アンスロポス人”はあまり能力が高くないから。
“一を知って十を知る”という言葉がある。
物事の一部を聞いただけで全部を理解できるのが、“アース人”。
物事を一つ一つ積み重ねていかないと理解できないのが、“アンスロポス人”――というのが、分かりやすい喩えだろう。
両者が戦ってどちらが勝利するのかなど言うまでもないし、現状こそが答え。
その上、全く異なる先祖・神話体系に連なる人種が牙を向いたとあって、各国のアース人が協力して民族撃滅の機運が高まったのも、当然の流れだろう。
言ってしまえば、エルフやダークエルフ、ドワーフ、巨人族を始めとして、神獣種やモンスターが生きる世界単位で考えれば、どちらも国籍は違えど“人間”であるし、必要な争いだったのかは分からない。
ただ事実として、アース人はアースガルズやニヴルヘイムを始めとしたいくつかの国で繁栄を極めている。
対してアンスロポス人は一ヵ所に逃げ込み、そこがミズガルズとなった。
全ては終焉血戦の後に起こった出来事だったと伝えられている。
「まあ俺が全部救うんだから、最弱国家の成り上がりっていう設定の方が盛り上がるかもしれねぇけどなぁ!」
「さっきから一人でぶつぶつと……」
「あー、お前を倒せば、あっちの女共が俺の強さに惚れてヒロインになる展開なんだから知らなくていいことなの! まあ、俺の攻撃を躱せたってことは中ボスぐらいの強さなんだろうけどな!」
できるか――は置いておいて、ミズガルズが蜂起、過去の因縁を晴らすべく、アース人の総本山――アースガルズに攻め込んで来るというのは理解できる。
だがこいつだけは、決定的に何かが違う。容姿がアンスロポス人と異なっていることを差し引いても、まるで全く別の視点から物事を見ているように感じられた。
まあその辺り、何を言っているのかについては、さっぱり理解できないわけだが――更にその理解不可能は加速する。
「奴隷商人とか、溺愛系とかその辺に会えなかったのは不服だが……まあ流行りも良いけど、古き良き王道ファンタジーも良いってことよ! よし、次はこいつだッ! “名刀・流星刀”っ!!」
奴は聖剣・魔剣級の代物を謎の異空間に引っ込めたかと思えば、見覚えのない形状をした片刃の長剣を瞬時に持ち出す。
更にその武器も、先ほどの長剣と遜色ない代物であるのが見て取れる。つまり奴は、俺たちの聖剣・魔剣に匹敵する武器を複数所持しているということ。
神獣種、皇獣、魔眼・聖剣保持者――そのどれとも異なる、異様な力をこの全身で感じていた。
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