第87話 現実VS幻想
黄金宮殿の前で巻き起こる破壊の嵐。
巨大なクレーターの中に立つのは八人の戦士。
俺とセラ、アイリスに加え、エゼルミア陛下とアムラスたち配下のエルフ。戦闘に備え、既に認識阻害魔法は解かれていた。
「な……セラフィーナ陛下にアールヴ嬢!? それに……」
慌てて出撃したであろうアウズン将軍の表情は驚愕に染まっている。
ニヴルヘイムの三人だけならともかく、アースガルズの街中にエルフ――それも見るからに高貴な生まれが滲み出ている者が複数いるのだから無理もないだろう。
「はぁい。今は黙って肩を並べてくれると嬉しいのだけど?」
「申し訳ないが、事情は後で説明します」
「は、はぁ……ですが、協力してくださるというのなら……今は!」
とはいえ、現状の緊急性と前回の大戦のこともあってか、すんなりと共闘体制が結ばれる。
その一方――。
「お、なんだ!? 秘密兵器登場ってか!? やっぱり王道だよなぁ、こういう展開!」
「翔真、遊んでいる場合じゃないでしょ!?」
「いや、真剣だって……ってか、あの二人デカ過ぎんだろ……」
侵攻勢力へ目を向ければ、“ショーマ”という聞きなれない響きで呼ばれた、俺と同年代ぐらいの少年が鼻の下を伸ばしながらセラとエゼルミア陛下に視線を向けている。
どうにも余裕全開というか、仮にも戦争を吹っかけて来たにしては緊張感が感じられないというのが正直なところだった。
「爆乳系の女騎士&魔導師エルフ、それから清楚な剣士系ヒロインが揃い踏みとはな。一人ずつじゃないってことは、ちょっと王道から外してきた感じか?」
「ちょっと翔真! デレデレしない!」
「あんな肉の塊。邪魔なだけ」
「全く、すぐ色目を使うのだから……」
どうにもふわふわしているのは、奴の仲間と思われる女性陣も同様。
だがそんな連中とは裏腹に、こちらの女性陣は不快感を露わにしていた。
「絡みつくような視線……不愉快ですね」
「奇遇ね。初めて気が合ったわ」
「うへぇ……やな感じ……」
あれだけイケメンなのに――と思いながらも、戦闘態勢は崩さないでいると、それが思わぬ形で功を奏した。ミズガルズ軍の中心に立つ少年の不意打ちに対応することができたのだから――。
「よし! とりま、あの三人だな! “ディメンジョン・フィールド”!」
「これは……って、ヴァン!?」
少年の手に四角形の物体が突如出現したかと思えば、俺たちの後方に立つアウズン将軍の手前辺りまでを謎の障壁が覆い尽くした。しかし障壁内に囚われたのは、俺とセラ、アルフヘイムの面々のみ。
さっきの一瞬、咄嗟に手で押し出したことでアイリスだけは障壁外に逃れ、アウズン将軍の隣で驚愕の表情を浮かべていた。
「主戦力はこっちで引き受ける。アイリスは外の連中を頼む」
「でも……!?」
「あの連中は不思議な術を使うようだ。一ヵ所に集まるのは危険だし、アースガルズの地理はアイリスが一番分かってるだろ?」
「だったらヴァンの魔眼で……」
「いや、下手に動き回られない分、お互い閉鎖空間にいる都合がいい。それにアイリスは出力に制限がかかっているはずだ。早く行け」
「……分かった」
納得がいったのかは別にして、アイリスはアウズン将軍と共に一度退がる。
見た限り、あの四人が特記戦力。必要なら“叛逆眼”で障壁を破壊――脱出できると仮定すれば、戦力を分けるのは間違っていないはずだ。
何せこちらには、現状最高戦力が揃っている。
「あら、あの子には随分と優しいのね」
「過保護とも取れますが……」
セラは聖剣――“グラム”を、エゼルミア陛下は聖杖――“テュールゲイルス”を手に臨戦状態。やる気満々とあって頼りにしているが、微妙に言葉が辛辣だった。
「へっ、一人逃がしちまったが、まあいいさ。とりあえず、爆乳サンドウィッチを堪能するとしますか!」
「翔真、デレデレしない!」
「今夜はお説教!」
「ベッドの上でね」
「三人セットはハードだなぁ。でも今夜は六人まとめて相手してやるよ!」
戦闘欲全開なのは向こうも同じようで、すぐさま武器を向けて突進して来る。
「……っても、このパターンはそういうことだよなぁ!? 嚙ませ犬君!」
「さっきから一人で何を言ってるんだ?」
赫黒と白銀の剣が鍔是り合う。
「どこの小娘か知らないけど、翔真に色目を使う女はプチっとつぶしてあげるわ!」
「会話が通じない人ですね。あんな有象無象が相手では、視線を向けられるだけで不快だというのに」
俺の左隣では、セラと長身の女性が――。
「デカいだけのエルフ女」
「どっちが格上か教えてあげるわ!」
「あら、それは楽しみね。でも、ちょっと礼儀がなってないかしら……」
左隣では、エゼルミア陛下と二人の少女が激突する。
「不承不承ではあるが、陛下の意思こそが我らの理念! 露払いは我らが引き受ける!」
「承知!」
その他大勢に関しては、アムラスたちが相対。たった四人ながら、陣形を取って対処に当たり始めた。
圧倒的に数的不利でありながら余裕をもって奮戦している様は、流石は王直属の近衛兵というところか。
結果、アースガルズ・ニヴルヘイム・アルフヘイムの共同戦線が組まれ、突如攻め込んできたミズガルズとの全面戦争と相成った。
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