第86話 幕間:異世界転移
※本話は【魔眼ノ叛逆者】の第86話で間違いありません。
安心してお読みしていただけると幸いです。
――アースガルズ帝国・首都トリスディア。
街の中央を突っ切るように多くの軍隊が押し入り、次々とアースガルズ軍を蹴散らして進軍している。このままでは国の最重要施設である黄金宮殿に辿り着くのも時間の問題。
そんな世界最大国家を我が物顔で駆け抜ける彼らは、大陸中央にある人間の国家――“ミズガルズ”の正規軍だった。
「行くぜ! “斬撃剣・闇”!」
その中でも突出しているのは、黒髪黒目・中肉中背の少年。
周りと比べて少しばかり肌が黄色である以外に特徴らしい特徴はないものの、何の変哲もない容姿とは裏腹に凄まじい攻撃でミズガルズ側の先陣を切っている。
「へっ、いくら魔法だなんだって言っても……原始人並みの思考じゃ時代遅れもいいところだぜ! 発想力が貧弱なんだよ! この世界の連中は!」
黒髪の少年――斎藤翔真は、剣を手に敵を屠り、味方の少女たちと笑い合う現状に笑みを抑えることができないでいた。
何故なら彼は、この世界に転移したことで不遇な人生から脱却した男であったからだ。
「翔真! 次はどこへ行けばいいの!?」
「それは勿論、あの趣味の悪い成金宮殿に決まってんだろ! さっさと国ごと落とすぜ!」
四九歳ブラック企業勤務の底辺サラリーマン。
趣味はネットサーフィンとアニメ・漫画・ゲーム。それと成功者のSNSにアンチコメントを書き込むこと。
これが翔真の全て。
元々は快活な性格だったが、中学校時代の軽いいじめで不登校になったのが致命傷となり、引きこもりへ。その後は三〇年近くのニート生活を続けていたものの、昨年両親の貯金が底をついてようやく就職へと舵を切った。
だが中卒の彼を正社員で受け入れてくれる企業などあるはずもなく、辿り着いたのはサービス残業当たり前、パワハラ・セクハラ・モラハラがオンパレードの超絶ブラック企業。
いじめは肯定されるべきものではないが、中学時代に耐えきれなかった彼が大人の悪意など受け止められるわけがない。これが地獄の始まりだった。
しかし他に就職先の当てもない以上、今の会社を辞めることもできない。理不尽に毎日叱咤されながらフラフラになるまで働いていた。
そんなある日の退勤日――過労でフラつく翔真が信号無視で横断歩道を渡ってしまった時、これまた運転手が居眠りしていたトラックが直進。翔真はヘッドライトの光に包まれながら、死んだはず――だった。
『はっ!? ここは?」
だが翔真が目を覚ましたのは、切り立った丘の上。
それも引きこもり時代の負の遺産で身体に肉がつく前の若い姿かつ、更に美形にアップデートされた容姿になって見知らぬ土地に放り出されていた。
『おいおい……どうなってんだよ、これ?』
空を飛ぶのは街を汚す“スズメ”や“カラス”ではなく、“ハーピィー”や“ガーゴイル”。見慣れたイチョウや桜の木も覚えのない植物に変わっている。
否、正確には、画面越しに見慣れていた形状に変わっていた。
『これってまさか、異世界転生ってやつか!? いや、転移か!? とりあえず中世風ってんならハイファンは確定。それも若返り系か……。でも神様には会ってねぇし……どうなってんだぁ!?』
翔真の理解は早かった。
何故なら、彼は歴三〇年を超えている生粋のオタクだったから。
よって、当然ながら、数年前より一世を風靡しているその手の小説・アニメにも目を通していたし、むしろ好みにすら思っている。とはいえ、困惑と興奮の比率でいえば、七対三で前者が勝っていた。見知らぬ土地に着の身着のままどころか、完全な無一文で放り出されたのだから無理もないだろう。
だがそれから二分と経たぬ内、その比率は完全な〇対一〇に変わることとなる。
『こういう時ってやっぱチート能力が宿るもんだよな? 魔法チートか武術チートか……。不遇な能力が実はチートってのは、転移じゃあんまりねぇだろうし……』
翔真は首を捻りながら考え込む。
内弁慶ではあったとはいえ、元は快活な性格。
とりあえずやってみなければと、好きなアニメやゲームの技、テンプレート的な魔法の名前を叫んで自分の能力を確かめ始めた。崖の上で奇声を上げる様は異様の一言だろうが、本人は至って真面目。ある意味、死活問題でもあるのだから当然だろう。
しかし、その努力が報われることはなかった。
『ハァハァ……ハァ……うんともすんとも言わねぇなぁ……。チート能力なしで異世界転移はキツ過ぎる……って、まさかアレか!? 最初からチートってのも、つまらねぇし……逆にカスタム性があって、一番熱い展開かも!?』
一方、能力らしい能力が発動しないにもかかわらず、翔真はそこまで気落ちしていない。理由は一番可能性がありそうで、彼自身も好みである物を最後まで取っておいたから。
興奮を爆発させながら叫びを上げる。
『“ステータスオープン”ッッ!!!!』
すると、翔真の言葉をトリガーに半透明なウインドウが出現。彼は目を輝かせながら、ソレを覗き込んだ。
名前:斎藤翔真
年齢:17
LV:1
HP:150 (体力)
MP:50 (魔力量)
STR:15 (筋力)
VIT:10(耐久力)
AGI:20(素早さ)
INT:20 (知力、理解力)
【スキル】
・世界を超えた勇者
・レアアイテムクリエイション
・無限アイテムボックス
・モンスターマスター
『来た来た来たァァっ! さて、このスキルは強いんか? てか、俺今一七歳か……まあ若いのは、いいことだけど……』
ホログラムウインドウに記されているのは、翔真のステータス。
これまた、よく見る形式の画面を前に、テンションは上がりっぱなし。新たな世界に旅立った翔真は、こうして真の一歩を踏み出すこととなった。
そうして始まった翔真の異世界ライフ。
画面越しに見てきた憧れの世界に等しく、知れば知るほどチートだった自らのスキルと相まって、彼にとっては夢にまで見た日々だった。
とはいえ、人との関わり――活動の拠点を作らねば長期生活のしようがない。だがこの世界は彼が生きた現代と違って法の抜け道が多く、戸籍だの住民票だのと言った細々とした物はいくらでも偽造できる。
その結果、翔真は目を覚ました付近にあった、ミズガルズへと辿り着く。
『これがこの世界の街……やっぱり、想像した通りってか、意外と繁盛してんのな』
当初は彼自身、色々戸惑っていたが、そこはやはり歴戦のオタク。順応は早い。
加えて、典型的な日本人ネームも初見では首を傾げられこそすれ、エルフやモンスターが生きるこの世界であれば、問題なく受け入れられていった。
これこそ、斎藤翔真がこの世界に根付いた理由の一端。
そして、現在――。
「くそっ! 宣戦布告もなしに侵攻して来るなど!」
「モブキャラの雑魚は引っ込んでな!」
「ぐ……ぉっ!?」
翔真はアースガルズ兵を次々と斬り殺していく。
正規兵を片手間に倒していく様は、かつて引きこもりになった男とは思えない戦いっぷりだろう。更に肉付きのいい女性と容姿が似通った二人の少女がアースガルズ兵を屠っていく。
「それにしても、翔真が創ってくれた、この武器は凄いわね!」
「うん、料理もおいしかったし!」
「ショーマは、私たちの知らないことをたくさん知っている」
「へっ、あんまり褒めんなよ。今は戦ってる最中だぞ。イザベラ、ミア、ミラ」
大人びた女性――イザベラ・クリム。
双子の姉妹――ミア・ハーザク、ミラ・ハーザク。
女性陣に称賛され、翔真は照れくさそうに笑う。
ある理由から、ミズガルズの国力は九つある大国でも群を抜いて低い。それも同じような姿勢を取るニヴルヘイムとは異なり、完全な鎖国状態にあった。
翔真がそんな閉鎖的な国に馴染めたのは、彼自身の能力が強大であることに加え、この世界からすれば遥か未来とも言える現代知識の恩恵を与えたから。
そんなこんなで、翔真がとんとん拍子で周りに認められていくのに比例し、ミズガルズの国力も増加。薄氷の平和の裏で他国が混乱を極める中、人知れず栄華を極めていった。
内が満たされれば、野心が膨れ上がるのも自明の理。
そして最後、“ミズガルズの勇者”となった翔真による、“スローライフ系は性に合わない”という思いを秘めての進軍提案をきっかけにして、何世紀かぶりの国外侵攻となった。
目指すは世界統一。
手始めに落とすのは、世界一の大国。
よって、現状――。
「俺はずっと待ってたんだ! あのクソヤロー共より強くなり、あのクソ世界から脱出して、好き放題やれる日をなァ!」
自分だけに見えるステータスウインドウ。
どこまでも強くなれて、何のリスクもない最強スキル。
神にも等しい未来世界の知識。
皆が翔真を崇め、王も美女も擦り寄って来る。
それは現実世界の不遇から脱却。
最強チート無双。
「さて、行きますかッ! とりゃっ!」
名前:斎藤翔真
年齢:17
LV:99
HP:9999 (体力)
MP:999 (魔力量)
STR:999 (筋力)
VIT:999(耐久力)
AGI:999(素早さ)
INT:999 (知力、理解力)
【スキル】
・世界を超えた勇者(全ステータス×2)
・レアアイテムクリエイション(全アイテム無限生成)
・無限アイテムボックス(無限格納領域のアイテムボックス)
・モンスターマスター(自分で好きなモンスターを生成、操ることができる)
そして、翔真はこの世の春が来たと言わんばかりに、最強国家アースガルズを相手に大立ち回りを演じていく――はずだった。
「よし次! って、なにっ!?」
翔真が先陣を切るミズガルズの進軍コースの直上より――漆黒・蒼銀・黄金・紅桔梗の極光が降り注ぐ。
※本作が実はゲーム世界でしたオチは100億%ないですのでご安心ください。
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