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第85話 魔眼狩り

 野次馬を振り切った俺たちは、街外れの休憩所で休息を取りがてら、情報交換を行っている。

 (ちな)みにアルフヘイムの面々には、俺がこの国の出身であり、冤罪(えんざい)騒動の一悶着の末、ニヴルヘイムに所属するようになったこと。アイリスもアースガルズと(たもと)を分かったことなど、面倒くさい事情についての説明は既に済ませていた。

 結果、さっきまでのやり取りで抱かせてしまった誤解については、解けたと考えていいのだろう。多分――。


「それで何か分かったのか?」

「ええ、成果は上々というところです。とはいえ、あくまで情報の一つと考えるのが良いかとは思いますが……」

「うん、アウズン将軍も色々協力してくれたんだけどね」


 宮殿から戻って来た二人が事の真相――その一端を語りだす。


「まず今回の我が国を含めた一件、アースガルズの“失われた魔法技術(ロストソーサリー)”が関わっている可能性について、現政権は一切認知していないとのことでした」

「その証言、信用できるのかしら?」

「地盤の揺らいだ新政権ですから、他に伝え様もないでしょう。そういう意味では我が国も手痛い思いをしましたし、貴国にも心当たりがあるのでは?」


 アウズン将軍の言い分は、宰相(さいしょう)の暴走と聖冥教団の蜂起(ほうき)を許したニヴルヘイムが非難できることじゃない。どうやらアルフヘイムにも心当たりがあるようで、エゼルミア陛下は肩を(すく)めるポーズで答える。


「でも、その割には成果があった風な口ぶりだったが?」

「信憑性の高い情報は提供していただきました。アールヴ卿にも確認済みです」

「えっと、そんなに見られると困っちゃうんだけど……。とにかく、もしアースガルズの“失われた魔法技術(ロストソーサリー)”が関わっているんだとしたら、それは前政権の宰相が原因かもってことらしいよ」

「アレクサンドリアン政権の宰相というと……確か旗色の悪さを感じ取って、敗戦直前に国外逃亡したんだったか?」

「うん。未だ逃走中だって。確かにあの人ならやりかねないというか……」


 断片的な真実が少しずつ繋がっていく。


「アンブローン・フェイ……経歴だけを見れば見事なものです。あの皇帝を隠れ(みの)に、事実上の執政を行っていただけのことはありますね」

「それがアースガルズの真実ってことか。しかもアイリスやニーズヘッグに“失われた魔法技術(ロストソーサリー)”を行使したのがアレクサンドリアンではなく、その宰相なのだとしたら全ての辻褄(つじつま)が合う」

「そうですね。先代皇帝があれ程の高等術式を扱えるようには思えませんから……」


 少なくともニーズヘッグを戦場に送り込むよう指示したのは、あの時本国に残っていた宰相――そのアンブローン。そこに関しては、戦場でアレクサンドリアンが自慢げに語っていた以上、間違いない。

 であれば、皇族の血液は起動用の媒介(ばいかい)でしかなく、術式の行使自体は別の人間でも可能と推定すれば、全ての現象に説明がつく。


 それに聖剣を操る因子を持つ者の対魔力は、常人を超えているはず。ニーズヘッグに加え、アイリスにも魔法を施せるだけの力量を持つ術者が、この一体大陸に何人いるのだろうか――と考えれば、それが全ての答えとなるはずだ。


「アルバート・ロエルは他国に通じていた。そこで本来の“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”保持者と接触して、劣化魔眼の力を付与されたということになるのでしょうね」

「それにあの合成獣(キメラ)形態。魔眼の力と一緒に色々仕込まれていたんだろう。“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”を保持しているのが、アンブローン・フェイ本人なのかは分からないが、何らかの形で関係はしているはずだ」


 全て鵜呑(うの)みにして動くのは危険だが、アースガルズ源流の“失われた魔法技術(ロストソーサリー)”を使える術者――という時点で、アンブローン・フェイが事態の元凶であるのは明白。ある種、結論に辿り着いたと言えるだろう。


「あら、自分たちだけ分かった風に話さないで貰えるかしら? 仲間外れは嫌いよ」

「ヴァンから離れなさい。全く、年を考えた振舞いをしてくれると嬉しいのですが……」


 その直後、相変わらず火花を散らす二人の王だったが、現状で推測出来得る範囲の情報を()い摘んで伝えると、あっさり沈黙してくれた。流石に今の状況を理解しているから、じゃれ合う程度に留めてくれたというところか。外面が良い分、(たち)が悪いとも言えるが。

 とはいえ、先の敗戦の影響で、アースガルズが逃亡者追跡に動く余裕はなかった。よって、奴の亡命先は不明。それも計算に入れた上で逃亡したのだろうし、ニヴルヘイム・アルフヘイム・アールガルズ以外の国家中枢に入り込まれていたら、奴を捕らえるのは困難を極める。


 だが“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”による連鎖を止めなければ、テロやクーデター紛いの混乱と闘いは一生終わらない。第二、第三のアルバートが生まれてしまう。

 全ては闇に潜む誰かの掌の上――。


「実際、アースガルズでもちょっとした騒ぎが起こって、内政官が逮捕されたらしいよ。ニヴルヘイムやアルフヘイムみたいな規模じゃなかったらしいけど……」

「それに、やはり大国ですね。外交貿易で色々と情報が入って来るようです」


 そんな会話の中、セラとアイリスの表情が陰りを見せる。視線の先にいるのは、俺とエゼルミア陛下。

 そして、二人は意を決したように言葉を紡ぐ。


「事件の背後に共通してるのは、紋様を持つ瞳……つまり魔眼。国家を揺るがす犯罪者が魔眼保持者である……って、全世界的に情報が拡散されつつあるみたいで……」

「“魔眼狩り”。世間ではそう称して、魔眼を持つ者を滅殺しようという機運が高まっています。魔眼を持つ者がいなくなれば、世界は平和になると……ね」


 “魔眼狩り”――確かに言い出しづらいわけだと思いながら、その言葉を胸に刻み込んだ。

 だが直後、堅牢な城壁が消し飛び、突如として街の一角が崩壊した。


「これは……? 一体、何があったのですか!?」

「貴女は、セラフィーナ陛下!? それが“ミズガルズ”が大部隊の奇襲をかけてきて……」


 同時に衝撃の方向から吹き飛んできた兵士に事情を尋ねれば、新たな争いの火種が燃え上がってしまったという事実を突きつけられる。

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