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第83話 壊れた過去との再会

 呆然としている民衆を置き去りに大通りを疾駆。

 “レーヴァティン”を半分ほど鞘から抜き、剝き出しになった刃で灰色(・・)の魔力弾を受け止めて四散させた。

 突如攻撃されたことで親子は呆然と震えているが、どうにかセーフというところか。


「な……お前っ!?」

「ん、誰だ?」


 思わず体が動いてしまったと感じる傍ら、何やら知った風に俺の方を見てくる正面の二人組。見覚えのないシルエットを前に、首を傾げざるを得なかった。

 だが随分と変わった風貌とは裏腹に、その()を聞けば相手の正体は一瞬で分かってしまう。


「お、お前ぇぇっっ! お前さえいなければぁ!!」

「こんなことになったのもアンタのせいよぉぉ!!!!」


 それは弟――ユリオン・ユグドラシルと母親――セルア・ユグドラシル。

 残された我が家族。

 ぼさぼさになった長髪や()せこけた頬を差し引いてですら、二人とも一〇から二〇歳ほど老けたように見える。特に母親の方と会うのは家から追い出された時以来ということもあり、一目で判別できなかったのも当然だったのかもしれない。


「いいわ! 勝手に家に住む、不届(ふとど)き者ごと八つ裂きにしてやるわ!」

「そうだァ! お前もついでに殺してやるぞ!」


 直後、二人の発言を聞いて背後を一瞥(いちべつ)すれば、一家四人揃って首を横に振った。まあ、明らかに正気を失った二人の様子からして、どちらが正しいのかは明白。万が一、連中が正しいのだとしても、今は落ち着かせる方が先だろう。


「……いつからこの国は無法地帯になったんだ?」

「黙れぇっ!!」

「そこまでだ! 街中での戦闘など捨て置けん……というか、また(・・)貴方たちですか!?」


 すると、気になる台詞(せりふ)を吐きながら現れたのは、アースガルズの警務部隊。なんにせよ、後は事情を知っていそうな彼らに任せるのが吉だろう。

 そうして暴れる二人が即座に取り押さえられたわけだが――。


「今回は未遂では済みませんよ!? 身柄を拘束、然るべき罰を受けて頂きます!」

「うぅるしゃいっ! だまれぇ!」

「そうよ! 放しなさい! この変態!」


 いや、それはない。

 多分、発狂しながら連行されているユリオンとですら気持ちが通じた唯一の瞬間だった。


「ご協力感謝……って、ぇ!?」

「うそ、まさか……」

「でも、銀の髪と紅い目……!」


 そうこうして二人の姿が消えた時、周囲の者たちはさっきまでと別ベクトルで驚愕の表情を浮かべている。その理由はどんな形であれ、俺のことを知っているから。


 何故、いつの間にか消えたはずの無能が敵国の騎士となっていたのか。

 何故、敵国の皇女と肩を並べるまでの力を得たのか。

 根本的なところからして、どうしてここにいるのか。


「お、おう! そ、その前からお前はやる奴だって」

「誰だっけ、お前」

「はいっ!?」


 それ以外にも、これまでの後ろめたさ。

 未だに見下す思いがありながら、その思いを口にできないもどかしさ。


 俺からすれば、どっちが――と声を大にして言いたいが、連中視点で見れば裏切り者への憎しみや自分たちを敗戦国にした恨み妬みという側面もあるのかもしれない。

 とにかく、予想外の帰還に驚いているのは俺だけではないということだ。そうして顔も覚えていない知り合いらしき人物を一蹴していると、警務部隊の中から猛烈な勢いで人影が駆けて来る。


「あ……ヴァンだ!? ヴァンでしょ!? よかった! 会いたかったわぁ!」

「なんだ、聞き違いか」

「へぶぅ!?」


 すると、その人影はこちらに向かって突撃。そのまま地面に向かって顔からダイブした。


「痛たっ!? なんなのぉ、もう!」

「それは残像。じゃあ、これで……」

「ちょっと、待ってよぉ! 私よ私!」

「いや、私さんなんて知り合いはいないんだが?」

「アメリアよ! アメリア・エブリー!」


 嘆息を漏らす俺の前で喚くのは、幼馴染だった人物。

 (もっと)も、どうして実働部隊から街の警務部隊に回されているのか――とか、さっきの二人ほどじゃないが雰囲気老けたな――とか、気になるところがないわけじゃないが、こいつに関しては心底どうでもいい。


「そうか、じゃあさっさと仕事に戻ってくれ」

「ち、ちょっと!? さっきから私の扱いが雑過ぎない!?」

他所様(よそさま)の国の兵士さんにそんなことはしませんよ。では……」

「ち、ち、ちょいっ!! 待てい! 私に何が言いたいことがあるんでしょ? ほら、聞いて上げるから!」

「は……? ないけど」

「えー、素直じゃないな。ホントは分かってるくせにぃ! 意地っ張りなのは相変わらずだね!」


 アメリアは突如身体をくねくねさせて何やらご機嫌な様子。

 ニーズヘッグ辺りがそうやって甘えて来るなら見ていて癒されるが、以前までと違って髪艶(かみつや)もなく、メイク越しにも肌が荒れているコイツがやっても気持ち悪いだけだった。いや、こいつに関しては存在レベルでちょっと――というところだが。


「更に戦功を立てたらしいじゃん。前より立派な面構えになってるし……。それにまたこうして戻ってくれたってことは、いよいよ時は来たって感じだね!」

「すまん、まるで意味が分からん。それに俺が何をしようがお前には関係ないはずだ」

「え、なんで?」

「もう友達ですらないんだから当然だろう?」

「あー、まだ拗ねてるの? 意外とお子様だなぁ。ここは素直になんなきゃ! 男の子でしょ!?」

「お前は一体、何語を喋ってるんだ?」

「え、ひどーい。私を迎えに来てくれたくせに、未来の奥さん優しくしなきゃ……ね。きゃっ!」


 奴の発言を受け、頭を鈍器で殴られながら、腹部にボディーブローをくらったような衝撃が全身を突き抜ける。


「まさか……いや、万が一……億が一にでも、俺と結婚……自分で言ってて吐きそうになって来たが……するつもりでいるのか?」

「うん!」


 意味不明、理解不能――そんな言葉がこれほど相応しい状況もないだろう。


「あっちの国で変なブスに言い寄られてたのも男を磨く為。そうやって成り上がって、ブスとの関係を清算! ようやく私を迎えに来てくれたんでしょ? 前はその準備が整ってなかっただけだし……今のヴァンなら合格だし、ご褒美に結婚してア・ゲ・ル!」

「なんか前よりもパワーアップしてないか?」

「えー、そんなに褒めないでよぉ」

「いや、馬鹿度合いがパワーアップしたと言ったんだが」

「ひどーい。全く、ツンデレさんだなぁ!」


 自分でもゴミを見るような眼差しをしているのが分かるが、当の張本人は何も気づかずに話し続けている。


「でも、私は知ってるよ。ヴァンは真実の愛を忘れていないって。だから、ヴァンもホントのことを言って! 私は受け入れるから!」

「うん、キモい」

「はい! 結婚します……って、はァ!?」


 どこかにトリップしていた馬鹿だったが、ようやく現実に戻って来てくれた様だった。

 それと俺に連れ出されることを頑なに求めて来るコイツの意図も何となく察しがついたし、そろそろ火の粉を振り払うとしよう。

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