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第80話 妖精女王《ティターニア》

 聖冥教団壊滅と同日、宮殿内会議室にて――。


 混乱の直後、突然姿を見せた集団とセラを始めとした一部高官が、正面から向かい合う形で対話の卓に付いている。それに加え、俺と何故かアイリスも、ニヴルヘイム側の後方で控えていた。


「お招きに預かり光栄です。セラフィーナ・ニヴルヘイム新皇帝」

「いえ、それよりも事の次第をご説明願いたいのですが? エゼルミア・アルフヘイム女王陛下」


 両者共に敵意もなく、一見和やかに見えなくもないが、実際の空気は硬質極まりない。

 何故ならこの一団は、“エルフ”と呼ばれる種族が住む“アルフヘイム王国”の国家元首(・・・・)を先頭とする一団だったから。言うなれば、セラやアレクサンドリアンが直接他国に乗り込んできたようなもの。

 第一、このフヴェルゲルミルは国の中心。この場所に来るまでにいくつもの検問や警備網があったはず。いくら内情が混乱していたとはいえ、セラや先皇、オーダー卿らが予期せぬ。来訪など出来るはずがないということ。

 つまり、この連中は密入国者。警戒するなと言う方が無理な話だった。


「先ほど伝えた通りよ。この国でも(・・・・・)色々と面倒な事件が起こっていたのでしょう?」

「では、貴国でも?」

「ええ、一番話の通じそうなところと情報を共有しようと思ってね。まあ、脅威を知らせる前に全部終わっちゃってたみたいだけど……」


 アルフヘイム王国・国家元首――エゼルミア・アルフヘイム。


 ブロンドのロングヘア―に俺たちよりも少しだけ尖った耳。

 長身と起伏に富んだ身体の線をこれでもかと強調する露出の激しいドレス。

 何より特徴的なのは、目元を覆う紫のバイザー。


 エルフの年齢が見た目から読み取れるのかは知らないが、少なくともソフィア殿下よりは年上だろう。落ち着いた雰囲気を纏っている女性だった。

 そして、アースガルズ時代の俺ですら名前を知っていたほどの超大物。大陸にある九つの国家でも、珍しい女性の国家元首。


 そんな事を考えていると、渦中の女王様は何やらにこやかに笑みを浮かべながら小さく手を振っていた。その先にいる俺の元に皆の視線が突き立てられるが、少し声を低くくしたセラが話の流れをぶった切る。


「――今は要らぬ腹の探り合いをしている場合ではありません。我が国への意図せぬ来訪については、とりあえず不問と致します」

「あら、流石“斬滅皇女バーサーク・タイラント”。懐が深い」

「貴方も大した太々(ふてぶて)しさですよ。“妖精女王(ティターニア)”」


 セラを前に一歩も引かないというべきか、セラが歴戦の王を前に一歩も引かないというべきか――。とにかく美人同士の睨み合いほど怖いものはないというのが、この場の全員の見解だろう。

 相手方の近衛兵ですら冷や汗をかいているのだから、それは間違いない。


「さて、そろそろ本題に入りましょう。まず我がアルフヘイムでちょっとした暴動が起こってね……それ自体は既に鎮圧したのだけど……」

「原因と内容が問題だったと?」

「その口ぶり……そちらもある程度の情報は掴んでいるようね」

「ええ、見ての通り、とんでもない祭りになってしまいましたから」


 両女王が言葉で強烈なボディーブローを打ち合っているのは変わらないが、話はとんとん拍子で進んでいく。一方、既に半分以上の連中が振り落とされているのは、我が道を│く王様たちに呆れるべきか、高官の程度の低さを嘆くべきなのか――。


「でも、内容の細部は違うけれど、こんな暴動が世界各国で同時多発的に発生しているわ」

「それは異常と言わざるを得ませんね。しかし、貴女がわざわざ出向いてきたということは……」

こんな(・・・)暴動……ではなく、ほぼ同じ(・・・・)暴動なのが問題というところね。全ての共通項は……」

「“魔眼”。つまり我が国の一件を引き起こした元凶が、世界規模の暴動を引き起こしているも同じ」

「そう、何らかの力を用いて、好き勝手やっているお馬鹿さんがいるってことね。そして、もう一つ」

「首謀者に付与されていた“失われた魔法技術(ロストソーサリー)”の存在」


 セラの言葉を聞き、こちらの高官はハッとした表情を浮かべる。

 脳裏にアルバートの最期が過ったのは言うまでもないだろう。


「既にこちらは“失われた魔法技術(ロストソーサリー)”の大本を解析し終えました。対価となる情報をいただければ、協力する用意があるのだけど?」

「なるほど……それが本音ですか。強かな女だ」

「その太々(ふてぶて)しさ、貴女も中々見どころがあるわよ。お嬢ちゃん」


 二人の美女は、薄ら笑いを浮かべながら腹の内を探り合う。やはり両者ともに生粋の王。


 そして、敵ではあるが味方でもない――そんな相手への対処法としてはこれ以上ないほど正しいわけだが、ニコニコと笑っているソフィア殿下以外の顔は引きつりまくっている。

 この肝の据わり方は、流石姉妹というところか。


「――!」


 (ちな)みにニーズヘッグは、俺の背中に張り付いて震えている。


「“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”……現場の証拠と合わせて調べた限り、事件に用いられた魔眼の種類は判明に近い(・・)状態ではあります。情報の差異があるため、確定ではありませんが……」

「へぇ、それは興味深いわね。こちらはそこに辿り着くまでに吹き飛んでしまったから……。では誠意に応えて、私も真相を話しましょう。あの“失われた魔法技術(ロストソーサリー)”の源流は、アースガルズ。ついこの間、貴方たちが戦った……それと、そこの元勇者さんの故郷のものよね?」


 エゼルミア陛下は、意味有り気にアイリスの方を見ると小さく笑みを浮かべる。

 アイリスとアルフヘイム――両者の因縁を思い出したのは、俺と彼女とセラ、それとエゼルミア陛下と護衛役の男エルフがこの会議を終えた後、改めて客間に集められた時だった。

これにて第3章完結となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前話の、最後で新しい敵かな?と思っていたけどなんか違うっぽくて予想外でした。これは新しいヒロインなのかな?とかやっぱり敵か?などいろいろ考えてしまうんですが、それよりも怯えてるニーズヘッグを…
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