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第76話 魔眼暴走

「加減はしました。さあ、立ち上がっては如何(いかが)ですか?」

「は……ぐぁ!? こんな……この私が……!」


 セラは蒼銀の髪を(なび)かせながら言い放つ。


 先の一撃、文官にしては中々の身のこなしだったが、所詮(しょせん)は騎士団下位レベル。

 対してこちらは、魔眼・聖剣保持者のコンビ。

 地力の差は歴然。アルバートにとって唯一の勝ち筋だった初撃を防いだ時点で、勝敗は決していた。


「――遊んでる場合か? 地上(うえ)をどうにかする為に、色々聞かないといけないんだからな」

「分かっています。でも高潔な正義を大義名分に色欲に走ったばかりか、多くの民を弄んだこの男の情けなさに呆れているだけです」


 俺たちは膝をついて呼吸を荒げるアルバートを見下ろす。いや、正確には奴の右目を注視した。


「な、なんだ、こっちを見るなっ!?」


 何故ならアルバートの右目には、かつて遭遇した翡翠の紋様が宿っていたのだから――。


「その力、何処(どこ)で手に入れた?」

「これは私の力だ!」

「違うな。それは“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”じゃない。今はっきりと分かった」

「な、何を根拠に言っている!」

「根拠ならある。それがもし本当に魔眼なら、あまりにも力が弱すぎるからな」

「どういうことですか?」


 警戒はそのままに、セラが小首を傾げる。


「正義の執行者には、(たお)すべき悪が必要だ。つまりこの男は、分かりやすい形で英雄……正義の味方になって、聖剣の皇女に匹敵する存在になろうとしていた。でも……」

「自らにとって都合の良い(たお)すべき悪を作る。要は自作自演の英雄。とはいえ、相対する教団が組織として完成されていない……ということですか?」

「ああ、自分の力・思想を他者に付与する魔眼の力がありながら、洗脳の主だった部分を地力……人心掌握と誘導(マインドコントロール)に頼るなんておかしな話だ。いくら日常に潜む狂気が厄介だとしても、回りくどすぎるからな」

「神話通りであれば、誰彼構わずとは言わないまでも、かなり強制力がある力。確かにそれだけ強大な能力なら、直接高官や騎士団を操ってしまえばいいだけの話。そこから導き出される結論は……」

「他の魔眼保持者から眼球を移植されたか……本当(・・)の“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”保持者から、力の一端を植え付けられたのか」

「そういえば、光を宿しているのも片目だけですね」


 アルバートの魔眼は不完全で何処(どこ)か異質。

 種類は違えど、同じく魔眼を宿しているからだろうか。実物の“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”を見たことがあるわけではないのに、何故かそう断言できる。


「さて、右目を(えぐ)る前に改めて聞いておこう。その力は誰から得た?」

「どうして貴様などに!」

「隠し立てしない方が良い。情報を全て吐くなら、右目だけで済ませてやる。まあ一生塀の向こうか、法に裁かれてご臨終かは知らないが……」

「う……っく、ぅ!?」


 俺の瞳で輝く“叛逆眼(カルネージ・リベルタ)”と掌に収まっている“赫黒の魔剣(レーヴァテイン)”。

 セラの腰に携えられた“蒼銀の聖剣(グラム)”。

 ニーズヘッグの存在。


 何かしようとした瞬間、奴を灰にする用意は十分過ぎる程に整っている。

 それに俺たちが、奴に説教して改心を促すようなタイプじゃないのは分かっているはず。つまり選択肢は一つしかないということ。


「この私が地に伏せる? 法の番人足る私が……尽くしてきたこの国の法に裁かれる? そんな、嘘だッ!!」

「嘘じゃない。これが現実の答えだ。お前は王の重責を背負える器じゃなかったのさ。まあ、こんな重たい女、持て余して当然だろうけどな」

「随分な言い様ですね。面倒くさいのはお互い様でしょうに……」


 確かにアルバートは巨悪であり、俺たちが探し求めた暗躍者(フィクサー)だった。この場で奴を捕らえれば、聖冥教団の一件は終息する。だが奴を(そそのか)して、力を与えた何者かがいることは確実。

 そいつこそが真の暗躍者(フィクサー)

 俺たちの視線は既にそちらに向いている。


「この私が! 正義の執行者であるアルバート・ロエルがここにいるんだぞ!? 貴様ら二人だけ、自分たちの世界に入るんじゃあない!!」

(わめ)くな。お前が真実を話せば、全て終わる」

「ふ、ふざけ……!?」


 アルバートは民衆に神の教えを説き、時には法に従ってこの国の治安を深いところで維持してきた。更には宰相(さいしょう)としても、諸外国との各種外交でその手腕を発揮していたのは事実。それこそ、この男がいなければ、セラの手が回らない範囲――領土を失わない完全な形で、ニヴルヘイムが存在しなかっただろうと断言できる。

 結論は一つ。アルバート・ロエルは優秀な人物だ。

 ニヴルヘイムに来て日が浅い俺ですら分かる。


 だからこそ、そんな自分が(ないがし)ろにされたことが許せないのだろう。


「口酸っぱく正義だ何だと言っておきながらこの様とは……。もう少し骨のある男だと思っていましたが……」


 確かにこの男は周りよりも優遇されて然るべきではあるし、それだけの結果を示して来た。そのことについて文句を言うつもりはないが、何事にも限度がある。

 優秀な人間を妬んで足を引っ張る(やから)もクズだが、能力があるからといって何をしても許されるわけじゃない。つい数刻前、俺に対して言ったことが、奴自身に特大ブーメランとして突き刺さっていた。


「その人生を()けた正義を投げ打って行動した私より、どこの馬の骨とも知れぬ男を選んだのは、お前じゃないか!? 私は悪くない! 他の何を()ててでも、お前だけは手に入れるぞ! セラフィーナァ!!」


 だがそんな時、アルバートの右目が輝き、その全身に見覚えのある紋様が広がっていく。まるで精神の崩壊(・・・・・)をトリガーに(・・・・・)、強烈な力が解き放たれたかの様――。


「な、なんっ……ああ■、がっ■■、あ、っあああ■■■■■■■――っ!!!!」


 アルバートだったモノは猛々(たけだ)しく咆哮(・・)し、その牙と爪(・・・)を俺たちへと差し向けた。

第3章も残り4話となりました。


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