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第71話 エーリヴァーガル祭

 晴天の空に魔法の光が炸裂した。

 それは祭りの始まりを告げる合図であり、比例する様に人々の熱気も増していく。


 ニヴルヘイム皇国における年一回の祭典――エーリヴァーガル祭。

 アースガルズとの大戦とは別の意味で国家存亡に関わる大イベント。

 普段は封鎖されている宮殿付近の道までも解放されている辺りからして、その規模の大きさと力の入れ用が(うかが)えるだろう。

 決して無礼講(ぶれいこう)というわけじゃない。でも今日ばかりは、騎士も民衆も富裕層も――それこそ皇族ですら、全ての人々が垣根(かきね)を越えて明るく楽しむ特別な日であるということだ。


「毎年だけれど、すっごい賑わいねぇ。私も何か買ってこようかしら?」

「ソフィア殿下、貴女たちは式典まで待機です」

「えー、ちょっとだけー」

「文官、武官含め、主だった高官も(ほとん)ど待機中です。自由に動き回られては、連中に示しがつきません」

「ぶーぶー」


 そんな祭りの中、皇族二人は厳戒態勢で宮殿に引っ込んでいる。無論、セラの専任騎士である俺も同様であり、膨れっ面で抗議してくるソフィア殿下を(たし)めている最中だった。


「ほっぺを膨らませても駄目です。大人しく座っていてください」

「ふぇー!」


 この美人がどう変装しても、一瞬でバレる未来しかない。軽く呆れていると、ソフィア殿下が腕に引っ付いてくる。


「何の鳴き声……というか、離れてください! せっかくセットした髪が乱れますよ!?」

「ヤダ!」

「子供か!」


 今のソフィア殿下は、身体のラインがモロに出る煌びやかなドレス姿。

 むにゅむにゅ、ぐにゅぐにゅと柔らかい感触を全身で感じてしまう。それも相手が相手だけあって無理やり振り払うわけにもいかず、色んな意味で頬を引くつかせてしまっていた。

 だがこの厳戒態勢の中、そんな愉快なやり取りが繰り広げられていることで憤慨(ふんがい)する者もおり――。


「あ・ね・う・え?」

「あらー」


 気づけばセラが逆側に立っている。それはもう満面の笑みを浮かべて。といっても、目は欠片も笑っておらず、全身からドス黒いオーラも放っていた。

 (ちな)みに、セラも起伏に富み過ぎた身体のラインが浮き出るドレス姿。目に毒な風貌をしているのは言うまでもない。


「ちょっと遊んでるだけよ。でも、可愛いし強いし……お姉ちゃんが貰っちゃおうかなぁ……なんてことを思ったり……」

戯言(たわごと)は大概にして下さい。ヴァンは私の騎士です」

「だったら彼に決めてもらいましょうか? ちょうど、私の専任騎士も席が空いてるし」


 今度はセラによって逆側から腕に組みつかれ、俺を挟んでニヴルヘイム姉妹が睨み合う。セラ相手に一歩も(おく)さない上にどこか底知れぬオーラを放っている辺り、いくら病弱でも流石は姉妹というところか。

 両者ともに美人だけあって、喧嘩をしているわけでもないのに凄まじい迫力。それこそ、俺の肩に乗って頭にへばりついているニーズヘッグが軽く引いてしまうレベルだった。


「――!」


 その後も白き竜皇が膨れっ面を浮かべて、二人を追い払おうするものの焼け石に水。皇族相手だとじゃれ合いも命懸けだった。


 ――しかし、ここまで何も起こらないとは。


 一方、紅銀と蒼銀の皇女に挟まれる傍ら、窓から賑やかな街並みを見下ろしながらそう感じていた。

 今までの聖冥教団であれば、無駄にデカいカードを掲げてデモ行進を始めても何らおかしくない。その為にシェーレやグレイブたち騎士団も街中に散っているわけだが、エーリヴァーガル祭はトラブルもなく順調すぎる程に進んでいた。

 まあ、間もなく始まる式典を狙ってという可能性も十分に考えられるし、油断はできないわけだが。


 そうこうしている内に時は経ち――。


「――オーダー卿からもうすぐ式典が始まる……って、皆何してるの?」


 俺と共に護衛として宮殿に残っているアイリスが待機室に戻って来た。だが扉の持ち手に手をかけた態勢のまま、凍り付いたように固まっている。

 まあ、アイリスがオーダー卿との話し合いの為に出て行った頃とは、待機室の状況がかけ離れているのだから、無理もないかもしれないが。


「セラフィーナさんもソフィア殿下も、シェーレさんも……ホントにヴァンは……」


 ただ理由がよく分からんが、妙に不機嫌なのは解せないところ。というか、アイリスがニヴルヘイムに来て以降、俺の好感度がダダ下がりしている様な気がする。

 まあ、左右からドレス姿の銀髪美女二人に絡み付かれている俺の姿は完全に悪役。頭の上には、神話の竜皇まで乗っているんだから尚更だ。きっとそういうことなんだろう。


「――お二方、皇帝就任の儀が始まりますので付いてきてくださいね!」


 すると、アイリスは妙に片言でドスの利いた声を響かせながら、少しばかり大股で部屋から去っていく。(ちな)みに彼女が握っていたドアノブは、既にお亡くなりになっていた。

 何はともあれ、ここからがメインイベント。そして、正念場。

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