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第63話 姉と妹

 扉が開かれた音で俺たちの存在に気が付いたのだろう。寝台(ベッド)に腰かけ、街並みを眺めていた女性と視線が交錯(こうさく)した。


 そうしてこちらを見ながら目を丸くしていた女性だったが、柔和な笑みを浮かべて声をかけて来る。


「セラが日中から私のところに来るなんて珍しいこともあるものね。そっちの男の子は……」

「紹介が遅れました。私の専任騎士を務めているヴァン・ユグドラシル卿です。先の大戦でも数多くの戦果を挙げてくれました」

「あらあら、まあまあ! 君の噂は色々と聞いています。随分とセラがお世話になっているようで……」

「ん、んっ!」

「ふふっ、こちらもご紹介が遅れました。私はニヴルヘイム皇国第一皇女、ソフィア・ニヴルヘイム。セラフィーナのお姉さんです。貴方とは初めましてね」

「セラフィーナ皇女殿下からご紹介いただきましたヴァン・ユグドラシルです。拝謁(はいえつ)に預かり光栄です。――ソフィア皇女殿下」


 初めてお目にかかるセラ以外の皇族。

 セラ一人に負担を背負わせた連中なのだから、良い印象などあるはずもない。そんな中で、どんなポンコツが出て来るのかと内心身構えてみれば、まさかの超天然系お姉さん。

 色んな意味で毒気(どくけ)を抜かれてしまったというのが正直なところだった。


「むぅ……そんなに(かしこ)まらず、気軽に呼んでくれて構わないわよ。ソフィアさんとか、お義姉(ねえ)さんとか……」

「姉上、その愉快な口を少し閉じてくれますか?」

「あらー」


 ソフィア・ニヴルヘイム――セラと並んでいる感想を端的に表すとすれば、似ているけど似ていない姉妹。


 似ている部分としては、やはり全体のパーツ。

 つまり多少タイプは違っても絶世の美女だということ。

 ()えてもう一つ共通点を挙げるとすれば、全体の輪郭というか身体つき。まあ、単純に言ってしまえば――妹と同様にデカい。きっと皇妃(こうひ)というか、母方の遺伝子が大きく影響しているんだろう――多分。


 一方で似ていない部分としては、目付きと雰囲気。

 まずソフィア殿下は、目尻の下がった柔和な目つきをしている。浮世うきよ離れした高貴なオーラはありつつも、どこか親しみやすさを感じたというのが第一印象だった。

 対するセラは、これぞ女騎士とばかりに切れ長の鋭い目つきであり、全身から超然としたオーラが全開だ。姉妹でかなり対照的だと言えるだろう。


 そして何より違うのは、姉が紅銀、妹が蒼銀で彩られた両者の髪色。

 ベースが白銀のストレートロングなのは変わらないものの、こちらの色合いも一目で違いがはっきり分かる。よっぽど変装でもしなければ、二人を見間違うことはないだろう。


 何より――。


「でも、セラがお友達を連れて来るなんて初めてのことだし……」

「姉上、私たちは仕事の話をするために来たのですよ」


 ――ソフィア(太陽)セラフィーナ(月華)ってとこか。


 ぽわぽわした姉としっかり者の妹。

 両者が纏う雰囲気通り、二人の性格も対照的なのだろう。

 だが一見呆れている様なセラの口調には、棘や突き放すようなものはない。むしろ、普段の彼女が見せることが稀な、年相応の表情を浮かべている。皇族ということで色々と問題が起こるかと危惧していたが、セラの表情を見る限り姉妹仲に問題は見られない。少しばかり胸を撫で下ろしたのはここだけの話だ。


「全く、姉上は……ヴァン?」


 そうして姉妹のやり取りを目にして呆気に取られていると、話が一区切りついたらしいセラが小首を傾げながら視線を向けて来る。


「あら、ヴァン君どうしたの? お姉さんに見惚れちゃったのかな?」

「あ・ね・う・え!」

「きゃっ! セラが私をいじめるの!」

「仮にも淑女(しゅくじょ)がヴァンにくっつかないでください! ヴァンも何を突っ立っているのですか!?」

「すまん、情報の処理が追い付かないんだが……」


 いきなりソフィア殿下に飛び付かれて軽く仰け反れば、今度はそれを阻止しようと微妙に不機嫌なセラが近づいてくる。結果、ニヴルヘイム姉妹に挟まれて揉みくちゃにされることとなった。両サイドから色々当たるというか押し潰されていたのは、最早言うまでもないだろう。

 というか、相手は仮にも皇族。下手をすれば、即打ち首でも文句を言えない。そんな物騒なじゃれ合いに巻き込まれるのは、勘弁願いたいというのが正直なところ。まあ、目の保養とか、役得と思わなくもない部分は否定しきれないわけだが――。


 その後もセラがニーズヘッグを紹介すれば、モフろうとした殿下が小さな竜皇に拒否られたり、何故か奴が俺を盾にしたせいでまたお姉さんに飛び付かれ、それに反応して半ギレのセラが乱入して来たり、中々に忙しないやり取りを続けることとなった。


 早急に対処すべき問題や二人の関係、皇族の在り方についてなど、聞きたいことや気になることは多くあるが――まあ何にせよ、これが良くも悪くも皇族らしくないニヴルヘイム姉との思わぬファーストコンタクトとなった。

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