第54話 聖女と白竜
突如暴れ出した民衆を死傷者ゼロで制圧。警務部隊に引き渡した俺たち四人と一匹は、宮殿へと戻って来ていた。
「――さっきと同じような連中が、ここ最近街に出没している?」
「ええ、彼らの身柄を引き渡した警務部隊の話によれば、ここ一週間ほどでトラブルを起こした者たちと発言や様子が合致しているとのことです」
先の一件、誰の目から見ても異常な出来事だったのは言うまでもない。何より、結果的にとはいえ、皇女が魔法で襲撃されたのだから途轍もない大事件だろう。
俺たちは椅子に腰かけ、先の一件について集まった情報を基に話し合う。因みにニーズヘッグは、机のひんやり加減を堪能するようにぐでーっと伸びていた。
「でも、あんな特徴的な人たちが暴れてたんなら、もっと有名になってもおかしくないと思うんだけど……」
「新進気鋭の集団や潜んでいた地下団体……。そんな存在が戦後処理の混乱の中で活動開始したとすれば、現状の説明になるのでは?」
「恐らくはユルグ卿の言う通りでしょう。何故かは分かりませんが、崇拝の対象が私とあの子だった以上、他国が発祥という線も薄いでしょうし」
「神の使徒、聖女と女神……竜皇。そして、災厄の使徒か……。一体何を思って、こんな思想を共有しているのやら……ってとこか」
とはいえ、話し合ってみても、さっきの今で分かることなんて高が知れている。真実は謎の中だ。
唯一確かなのは、連中がセラ――もしくは皇族とニーズヘッグを信奉し、俺を親の仇の様に排除しようとしていることだけだった。
「お、旦那じゃねぇですかい! それに殿下たちもご一緒で!」
「グレイブ……」
「ありゃ、元気ねぇっすね。どうしやした?」
「ちょっと事件に巻き込まれて……というか、さっきから宮殿中が大騒ぎだと思うんだが」
少し沈んだ空気の中、グレイブが姿を現す。
流石に今日は奴のテンションについていけないと思いながら返答していると、当人から驚愕の言葉が紡がれた。
「そんなことになってたんですかい? こっちはオーダー卿の所に、怪しい集団を取っちめたことを報告して来たばかりでして……」
「怪しい集団?」
「ええ、大したことねぇ小競り合いではあったんですが、なんでか会話の中で突然ブチ切れた奴がいやして……そしたら仲間が集まって来て乱闘騒ぎ。しょうがねぇから全員捕まえて来ての事情聴取ってことだったんですが……どうも話が通じやしねぇ。神がどうの正義がどうのって……」
「ヴァン、それって!」
「さっきまで話していた連中と同類だろうな」
「え、旦那? アイリスちゃんや皆もどうしたんですかい? そんな怖い顔しちまって……」
ここまでの会話で、大まかに分かったことは二つ。
あの連中は、何らか共通の思想を持った一団であること。
一般市民の中に潜んでいて、それなりに数がいるということ。
一人一人は脅威じゃないが、ある意味では前回のアースガルズよりも厄介だ。
先行きの見えない現状を前に、じゃれついて来るニーズヘッグ以外の雰囲気が微妙に重くなる中、新たな人影が近づいて来る。
「――お話の途中すみません」
「あら、ゲフィオン卿……どうしたのですか?」
現れたのは、第七小隊のシェーレ。その出で立ちを見たグレイブが鼻の下を伸ばしてしまい、女性陣が冷たい視線を注いだのは言うまでもない。
「その、私も皆さんが話されているのと近い事件に遭遇したというか……」
「そうですか……貴女までも……」
「はい。それで殿下たちも巻き込まれたと聞いたので、お話を通しておくべきかなと思って……」
「いくら戦争が終わったばかりで情勢が不安定と言っても、こうも多発するなんて異常ね」
セラやコーデリアの驚きは尤も――というか、俺も同じ気持ちだった。
だが、シェーレは更に衝撃的な言葉を口にする。
「なんでも、自分たちは白竜と聖女の加護を受けた正義の使徒だと口走っているようで……」
「ニヴルヘイムに伝わる白き竜……それと聖女……」
「こうも同時多発的に事件が起こるなど、ありえるのですか?」
「連中の目的は分からんが、どうやら本格的にキナ臭くなって来たみたいだな」
全員の視線が一点に集まる。
俺から相手にされず、むくれてセラに飛びついたニーズヘッグと当の皇女自身へと。
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