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第41話 慟哭の刃、裁きの光

 音を置き去りにして、漆黒と蒼銀の流星が戦場を駆ける。

 立ちはだかる敵の波を貫き、木々や岩山を()ぎ倒し、ただ前だけを見つめて――。


「な、何だコイツらは!?」

「相手はたった二人だぞ!?」


 (きら)びやかな鎧に身を包み、隊列を組むアースガルズ軍。

 凄まじい物量と日光に輝く鎧の反射が鬱陶(うっとう)しいが、所詮(しょせん)はそれだけだ。敵連中は、開幕直後から突っ込んで来た俺たちに(おのの)いている。戦線はドミノ倒しの様に総崩れ。俺とセラはその隙を()じ開けて、力任せに進んでいく。


「戦略が戦術で(くつが)されるなど、あってたまるものか!」

「だが砲弾のような勢いで……! と、止まらんッ!?」


 蒼穹の瞳光を用いて周囲の空間や敵から魔力を吸収・自らの糧として最大加速。

 セラもまた、一個人が持つには不相応な膨大な魔力を全身に纏って追従して来る。

 俺たちが走るだけで人波が割れ、敵兵が面白い様に薙ぎ倒されていく光景は、異常そのものだろう。


 背後を気にする必要はない。視認範囲外の敵は、セラを信じて任せればいい。俺は眼前に立ちはだかる敵だけを薙ぎ払いながら、真っすぐ走り続けるだけ。

 そうすれば、いずれ奴の元へと到達するのだから。


「こうしてヴァンと肩を並べると、最初に会った時のことを思い出しますね。まさか男子が空から降って来るとは……と驚いたものです」

「こっちだって国を追い出されてほっつき歩いてたら、神獣種(ケルベロス)と戦ってる女子がいたんだからお互い様だろ。まあ、実際はとんでもない女だったわけだが」

「それなら、尚更お互い様ですね。私の隣に付いて来る男など、ヴァン以外にいないのですから!」


 “レーヴァテイン”と“グラム”を図ったように同じタイミングで振り下ろせば、漆黒と蒼銀の斬撃が顕現。それぞれが地表を喰い破りながら、敵軍の中央を抉じ開ける。


「……その所為(せい)か国家存亡の危機であるはずなのに、不思議と心は落ち着いている。あの時交わしたヴァンの瞳に力を貰ったおかげですね」

「浮いた台詞を……」


 確かに物量差は圧倒的だが、何も敵全員を相手にする必要はない。狙いはあくまで本陣に構えている上役であり、周囲に散らばる連中は雑兵でしかないわけだ。つまり雑兵を無視して進めば、限定的ではあるが物量差を無視できる。

 それ故の電撃作戦であり、短期決戦。自分たちの斬撃で()じ開けた荒道を疾駆(しっく)する。


「く、くそっ! “魔導式榴散弾重牙砲まどうしきかくさんだんじゅうがほう”用意ッ!」


 しかし曲がりなりにも、敵は大陸最大国家。ニヴルヘイム獲得に重きを置いているだけあって、次なる一手を打って来る。


「アレは……?」

「大型魔導砲塔……」


 遥か視線の先、人混みから垣間見えるのは、巨大な円柱状の物体とそれに接合されている車輪付きの多脚。その中でも一際目を引くのは、大きく突き出た砲身。その物体は疑うまでもなく最新鋭の魔導兵器。強力そうな一点物に見えるが、数は一つや二つではない。この生産性、流石にアースガルズといったところか。


「し、しかし! あの速度で動き回っている敵に撃てば、味方を巻き込んでしまいます!」

「構わん、撃てッ! これは命令だぞ!」

「で、ですが!」

「災厄の瞳と黒剣……白剣を携える銀の髪持つ男女……聞きしに勝る無双の力! あの化け物共を止めるにはそれしかないのだ!! 総員魔力装填(そうてん)ッ!」

「ぐ……っ! 装填!」


 新造兵器に四人の兵士が寄り添うと、装甲表面に(はし)った(ライン)が発光し始める。恐らく周囲の四人が、掌を通して兵器の動力となる魔力を供給しているのだろう。砲塔に球形状の魔力が出現し、激しくスパークする。


「撃てェっ!!」


 発光現象を確認した瞬間、指揮官らしき男が腕を振り下ろして魔力弾が射出される。


「セラ……」

「了解」


 着弾、轟音、炸裂。

 まずは一撃。魔力球が地表を喰い破りながら弾け飛び、周囲の風景をアースガルズ軍ごと破砕し尽くす。更に二発目、三発目と飛来する魔力球が惨劇(さんげき)を拡大させていく。


「ぐっ、あぁぁ――ッ!?」

「わ、我らごと!?」

「やったか!?」


 舞い上がる黒煙と血飛沫。

 だが人口密集地で大規模魔力炸裂が起こったのにもかかわらず、被害が少なすぎることに気付く者は誰もいなかった。


「――大した威力だ。遠距離(ロングレンジ)で撃たれ続けるのは、少々鬱陶(うっとう)しい……」

「な……何ィ、ッ!?」

「ここで幾らか潰しておくか」


 惨劇(さんげき)の中心に立つのは、無傷の俺一人(・・・)

 つまり周囲に広がったのは魔力球の余波だけであり、“叛逆眼(カルネージ・リベルタ)”で攻撃の大部分を吸収したということ。

 俺は唖然(あぜん)とする連中を前に黒翼を生成、空中へと飛び上がる。


「く、空中に飛び上がるなど……総員照準を!」

「その反撃、間違いだな。上だけ見ていたら、足元を(すく)われるぞ」

「何を……ッ!? も、もう一人だとォ……!?」

「仕留めたと思った瞬間、思いっきり気を抜いていたようだな」


 指揮官の顔が恐怖に染まる。

 何故なら、炸裂のどさくさに紛れて逃れていたセラが敵部隊の懐深くに切り込んでいたからだ。


「く、っ!? この距離で砲門は役に立たん! 砲撃部隊は上方、他であの皇女を取り押さえ……」

「反応が遅すぎるな」

「笑止、隙だらけですね」


 必死に体勢を立て直そうとするも、もう全てが遅い。

 俺は黒翼を最大展開し、セラは聖剣を振り上げる。狙いは共に厄介な大型砲塔。理由は後方から迫ってきているニヴルヘイム軍の損耗(そんもう)を抑える為だ。

 戦争は個で決するものではない。俺とセラは後から続く者たちへ道を作る――という側面も秘めて行動しているのだから――。


「“慟哭の刃雫マリシャス・ティアーズ”」


 放射線状に波動を振り撒く黒翼から、漆黒の刃を無数に撃ち出す。


「“断罪の聖光エクスキューション・レイ”――ッ!」


 同タイミングで十字を刻む二重斬撃が飛翔する。


「――ッ!?」


 交錯、爆裂。

 大型砲塔の衝撃など比ではない勢いで戦場が激震した。

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