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第37話 第七小隊推参

 ニヴルヘイム皇国には緊迫した雰囲気が流れている。

 理由は偵察(ていさつ)から戻って来た斥候(せっこう)によって、アースガルズ本国の大軍勢が動き出したという情報が伝えられたから。

 つまり来るべき戦争が明確にすぐそこまで迫っているということだった。


「かぁー! トンデモねぇ量だな! おい!」

「ハーナル卿。国家存亡の一大事ですから、今はそんなことを言っている場合ではありませんよ」

「そ、そうです! でも、まさかこんなことになるなんて……というか、コーデリアは随分と落ち着いているんだな」

「焦ったってどうにもならないでしょう? 今は自分に出来ることを全力でやるしかないわ」


 セラを(ともな)って騎士団本部にやってきた俺の前で、グレイブ、コーデリア、リアンの三人が何やら話し込んでいた。彼らも普段とは雰囲気が異なり、落ち着きがないのがはっきりと分かる。

 まあ数日もしない内に大国が攻めて来るのが分かっているのだから、無理もない。


「――他国に(さき)んじて総攻撃を仕掛けて来る……か。さて、どうする? 軍部総司令官殿」

揶揄(からか)わないでください。司令官は別にいますよ」

「でも、基本的にはセラが指示を出すんだろう? 皇女で聖剣保持者の威光に対抗できる兵士なんているわけもないから、仕方ないわけだが……」

「いえ、たとえ形骸化(けいがいか)していても、皆に頑張ってもらわなくてはなりません。状況次第では私も前線に出ますし、可及的速(かきゅうてきすみ)やかに問題に対処すべく、わざわざ本部まで作戦を()りに来たのですよ」

「分かってる。俺はその辺をブラついてるから、会議が終わったら教えてくれ」

「ええ、ちゃんと待っていてくださいね」


 俺が“レーヴァテイン”を手にして早一ヵ月――この国にも馴染(なじ)んだものだと思いながら、長い銀髪を(なび)かせて去っていくセラの背中を見送る。俺にできるのは前線で戦うことだけ、歯痒(はがゆ)さがないわけではないが政争は適任者に任せるしかない。

 その辺りを自然と配慮できるようになった辺り、護衛役も板に付いてきたと前向きに(とら)えるのが精々だ。

 そんなことを思いながら、セラが戻ってくるまでの暇な時間をどうすべきかと体の向きを変えた時、突如として人の波に襲われる。


「ユグドラシル卿、ちょっとよろしいでしょうか?」

「はい?」


 俺を取り囲むのは、三人の少女。何事かと思えば、次々と言葉が飛んで来る。


「アンタ暇やな? 暇やろ? 暇やんな?」

「会談の時間を考えれば、かなりまとまった時間が取れるはずですが?」

「す、凄い圧だな。というか、どうして俺の名前を?」

「何と言っとるんや有名人! こんな時じゃないと絡めへんし、あっちの木陰で語り明かそうや!」

「さあ、ぬるりとしっぽり……」


 一人目は、栗色の髪を首元で一束にして、豊満な肢体を惜しげもなく晒す水着のような甲冑を纏う長身の少女。最初の一言以来口を開いていない。

 二人目は、程々に長い金髪を切り揃え、騎士団の鎧をパリッと着こなす独特な口調の少女。

 三人目は、翠の髪をボブカットにした小柄な少女。


 いきなりの遭遇に疑問符を浮かべていると、三人娘に引っ張られてしまう。


 セラは超然と達観しているし、コーデリアも年齢より大人染みている。

 アイリスもちょっと天然が混じっているというか、変に抜けている面があると言わざるを得ない。

 よくよく考えれば、こういう普通の女子と会話をするのは始めてなのかもしれないと変な感慨深さを抱いてしまうのは男の性か。

 一応もう一人、幼馴染だった(・・・)女子もいた気がするが、アレは周囲と比べる次元にないし、そもそも比べるのは他の面々にも失礼極まりないので割愛する。


 弁解するとすれば、現代女子のパワーに圧倒されて現実逃避をしているわけじゃない。多分――。


「それで、俺に何か用か? というか、戦時前に遊んでる時間はないと思うんだが……」

「ウチら若者は戦いが始まるまでやることないし、第一アンタに用がない奴なんておらへんて! なぁ、ルイザ?」

「ええ、模擬戦とはいえ、腕利きと知られているハーナル卿を下した若者。加えて度重なるモンスターとの戦闘でも多大な戦果を挙げ続けているのですから、貴方は他に類を見ない注目株です。それに何より、彗星(すいせい)の如く現れ……」

「あの物騒で潔癖(けっぺき)な姫とイチャコラしたり、肩を並べて戦ったり……そんな男今までおらへんかったからなァ!」

「いや、答えになってないんだが……」

「ウチの二人がすみません」


 決して(まく)し立てているわけではないのだろうが、テンポの良すぎる会話。

 この短いやり取りの中でも、彼女たちの人となりがある程度分かってしまう強烈さだった。

 一方、未だ置き去り気味な俺を尻目に、少女たちは自ら名乗り始める。


「――あ、ご紹介が遅れました、私はシェーレ・ゲフィオン。月華騎士団(ヴァーガルナイツ)第七小隊の隊長を務めています」

「ウチは鬼の第七小隊副隊長のアイラ・ソグン。よろしゅうな!」

「同じくルイザ・スリマ。よろしく」


 長身で露出の激しい少女がシェーレ。

 口調と裏腹にしっかりとした身なりの少女がアイラ。

 小柄な少女がルイザ。


 最初の二人はキャラと容姿が真逆な気がしないでもないが、色んな意味で濃い三人娘だ。それこそ俺とそう変わらない年齢でありながら、役職持ちという一番大事なところがキャラの濃さだけで押し流されかけてしまう程なのだから、強烈過ぎる。

 加えてもう一つ重要なことがあり――。


「あの、さっきから近いんだけど」

「え、ひゃわっ!?」


 それは最初に声をかけて来たシェーレとの距離感が異様に近いということ。ただでさえ目に毒な格好とスタイルなのに、何食わぬ顔で接近戦を演じられると対応に困る。

 張本人は顔を真っ赤にして飛び退いている辺り、恐らくは素でやっているのだろう。そんな俺たちをニヤニヤと見守っている他二人にイラっと来たのは言うまでもない。


 強いて言うなら周りの目が気になったおかげで、大きく揺れた豊満な双丘に視線が吸い寄せられなかったというのは、嬉しい誤算だったのかもしれない。多分――。

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