第35話 滅獄と叛逆
炎獄の大剣が繰り出され、赫黒の魔剣と激突する。
「――ッ!」
「ぬうっ!」
威力は相殺。互いに弾かれ合ったかに見えたが、魔神の手甲は僅かに損傷している。
更に二合、三合と剣閃を交わしていくものの、互いに一歩も退かない――いや、単純な重量では劣っているはずなのにこちらが押している。
これまでなら刀身を最大まで強化したとしても、数発の灼熱球で限界。ましてや大剣と打ち合うなんて不可能だったはずなのに――。
「この出力、耐久性……ようやく全力で戦えそうだ」
本来、クリスクォーツ製の武器も現代技術で量産できる中では、最高に近い代物であるはずだが、この“レーヴァテイン”は次元が違う。つまりは、武器が砕かれないように気にしながら戦う必要もないということ。
もう、力を抑える必要はない。
ここまでの戦いで吸収した力を脚力に還元し、地面を蹴り飛ばして急加速。炎獄魔神の背中側に回り込む形で強襲する。
「む、消えた? だが……」
灼熱炎弾。
これまで苦しめられた灼熱が迫り来るが、魔剣の一振りで両断。
更に加速しながら直進する。
「この距離で我が炎群を斬り裂くとは……」
左手に大剣、右手に炎。
理に適った戦闘スタイルであり、それぞれが必殺の破壊力を秘めているだけあって厄介極まりない。純粋に戦士として相対する奴は、固定砲台だったさっきよりも大幅に戦闘能力が増している。
だが、それは魔剣を得た俺も同じ。炎剣と灼熱球をギリギリまで引き付けて回避し、一気に肉薄。魔神の懐へ飛び込んで赫黒の魔剣を振り抜いた。
「迅さはこちらが上だ……!」
赫戟黒閃。
魔神の隣を切り抜ける瞬間、その右腹部を装甲ごと破断。
各所を繋いでいた炎が鮮血のように舞い散る。しかし痛覚などないといわんばかりに、炎獄の魔神が動き出す。
「爆轟、炎群」
奴の右手がより鋭利な鉤爪のように変化し、叩きつけるように振り下ろされた。同時に三つの灼熱球が生成され、身を溶かさんばかりの熱気と共に迫る。
「ゼロ距離で撃つつもりか……でもッ!」
被弾覚悟の超至近距離攻撃。
こちらも黒翼生成からの急上昇で逃れようとするが――俺の頭上に炎を宿した大剣が姿を現した。
つまり初撃は囮。本命は剣の一撃。さっき灼熱球を誘爆させて、目くらましをしたのと同じことをやり返されたわけだ。
「炎刃破砕」
「いい加減、しつこいッ!」
対する俺は、魔剣を右手一本に持ち替え、身体強化を極限まで引き上げて迎撃。
黒翼で空中に浮遊しながら、振り下ろされた大剣と自らの魔剣を鍔是り合わせる。
その瞬間、躱したはずの爆轟の鉤爪が再度幻出。身動きの取れない俺へと振り抜かれた。
しかし、この身が斬り裂かれることはない。
「その瞳の十字、やはり……」
俺の瞳で蒼穹が輝き、爆轟の鉤爪が力を失う様に急速に勢いを弱めたからだ。その上、こちらの黒翼は一回り大きさを増し、携えた魔剣からは苛烈な出力で漆黒が吹き出している。
それ即ち、力の吸収。
そして自己への還元。
奴にとっての近距離が確実に物理攻撃を当てる絶好の機会である様に、俺にとっての近距離も突破口を見出す最大の好機となるということ。
更に吸収した魔力は、奴との鍔迫り合いの中で常時大量消費している為、俺が処理限界を迎えることは絶対にない。
つまりこのまま力を吸収し続ければ、吸収と還元の円環の中で炎獄魔神は自然消滅するはず。
「――は、っ!」
「ちっ、馬鹿力が……!」
そうして詰めに取りかかろうとした瞬間、突如として苛烈な炎獄が炸裂し、強大な魔力同士が激突した反発作用で再び弾かれ合う。
「災厄を宿した瞳。禁忌の魔剣。何の因果か、それとも運命の悪戯か……。本来相反するはずなのだがな」
「何を知っている? お前は、誰だ?」
「我は神話の大戦において、統てを灼き尽くした炎獄の使徒。そして炎の番人。その剣を受け継ぐに値する者を見定める為に此処に在る。今はそれでいい。貴様もそれ以上を知る必要はない」
「神話の大戦……“終焉血戦”……か」
「ふっ、答えは自ら探すといい。我を討つことができれば……だがな」
魔神が炎獄を纏う。
装甲の隙間から吹き出す炎も出力を増し、携えた大剣にも紅蓮が灯る。
全身に炎獄を纏った様は、まるで太陽の様――。
これまでとは桁違いの重圧。
だとしても、臆する理由はない。
譲れない理由があるのだから――。
「これで終わりにしよう」
俺もまた、過剰すぎるほど取り込んだ魔力を全身に巡らせる。更に黒翼に魔力を滾らせながら、暴走気味だった魔剣への供給精度も引き上げていく。
それに伴い、嵐の様に荒れ狂っていた漆黒の刃は静けさを取り戻した。それは鋭利で強靭な刃。その切っ先を炎獄の魔神へと差し向ける。
一瞬の静寂、そして疾駆。
「“炎獄の華、滅絶の赫”――ッ!」
両手に持ち替えられた大剣が振るわれ、万物を灼き尽くす滅撃が放たれる。
「“天柩穿つ叛逆の剣”――ッ!!」
赫黒一閃。
俺にとって、最も使い慣れた剣閃。これまでとは別次元の破壊力を発揮しながら炎獄の滅撃と交錯した。
堅牢な神殿全体を衝撃が揺るがす。
暴力的な波動が周囲の空間へと拡散する。
「――見事、我が一撃を斬り伏せるとは……。最早疑うまでもない。お前をその剣の正統な所有者と認めよう」
半ばで断ち切れた大剣を携え、胸部から腰までの装甲を欠損した魔神がこちらに向き直りながらそう言った。己の存在が消えかかっていながらも堂々として。
「お前の力、使い道を誤れば世界を滅ぼしかねないものとなった。忘れるな。我に示した覚悟と信ずる道を――」
「ああ、分かっている」
大きな力には、相応の責任が伴う。
その業を背負ってでも、俺は自分の信じた道を進む覚悟を決めた。だから、もう迷うことはない。
「良き瞳だ。勇士よ、期待している」
そんな想いの丈を伝えると、炎獄の魔神が紅光となって消えていく。そして、彼の姿が見えなくなると共に神殿自体が消失し、気づけば最初の扉の前へと戻っていた。
「ヴァン!?」
「……セラ?」
凛麗な声を受けて目を向ければ、そこにはセラが佇んでいる。突然の再会を受けて互いに驚いたものの、一歩先に我に返ったセラに飛び付かれてしまった。
柔らかで暖かな感触。他人の温度を感じて、自然と自分が生きていることを実感する。
その一方、左手には確かな重みが残されている。
横目を向ければ、同色の鞘と共に俺の掌中に収まっている魔剣――“レーヴァテイン”。
まるで幻想の様に失われた神殿だが、この魔剣によって全てが真実だったと思い知らされる。
「よく戻って来てくれました」
「まあ、誰かに泣かれると困るからな」
「もう、馬鹿……!」
炎獄の魔神に想いを託されたのか、己の力で掴み取ったのかは分からないが、俺はまだ生きている。虚無でしかなかった俺にもこうして生きる理由が、帰るべき場所がある。
護るべき存在と、この手で斃して来た者たちの想いに報いる為にも――俺は戦う。
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