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第34話 赫黒ノ魔剣

 一つの巨柱に灯った灼熱。

 それは攻撃の余波によるものではあったが、俺を焼き尽くす炎じゃない。ただ巨柱とその先端にある翡翠の槍を模したオブジェに光を灯すのみだった。


雄々(おお)しき者、八つの智慧(ちえ)を示せ」

「攻撃の勢いが激しくなった……でも!」


 吸収、破断、回避。

 持てる能力を駆使して嵐の様な乱撃を()い潜りながら、周囲へと目を向ける。

 一つだけ光が灯った巨柱。ここまでの奴の言葉。これらすべてを総括(そうかつ)すれば、状況を打開できるはず。暗闇に差し込んだ僅かな光ではあるが、ようやく見出した突破口。逃さぬべく全力で思考を巡らせる。


「無尽蔵に等しい魔力、俺を試すかのような不自然な立ち回り、実体を感じられない敵……今のままでは(たお)せない……か。なら、その供給源を断つしかない」


 “叛逆眼(カルネージ・リベルタ)”という鬼札(ジョーカー)を用いても、正面からの打倒は困難。それは炎獄の魔神が生物というより自然現象に近いのではないか、という憶測(おくそく)(もと)づいての判断だった。

 確固たる根拠はないが、これまで数多くのモンスターと戦い続け、神獣種とも相対し、その上で聖剣と魔眼を知る俺だからこそ――そのどれとも一致しない炎獄の魔神を(たお)すべき敵ではなく、乗り越えるべき障害だと判断できる。


 その鍵となったのが――。


「残り八つということは……」


 黒翼の機動力により、左上方へと飛翔。

 俺を狙わせた(・・・・)灼熱球をギリギリで回避すると、背後の巨柱に攻撃が着弾。後方を一瞥(いちべつ)すれば、上部に備え付けられた黄金のオブジェの発光が視認できる。

 更に高度を維持したまま、時計回りに移動。今度は別の巨柱の前に立ち止まり、またも俺自身を灼熱球に狙わせる(・・・・)


「これで残り七つ」


 一見すれば、ただの自殺行為。でも、これでいい。

 俺が再び灼熱球を回避して次の巨柱に灼熱球を着弾させると、今度は妖精のオブジェに炎が灯る。これもまた、今までとは明らかに異なる現象。

 ほんの思い付きではあるが、何もしないよりは遥かにマシだろう。今は自分の判断を信じて、全ての巨柱に炎を灯すだけ。


 そうして激しさを増す攻撃の嵐の中を全速で駆け、巨柱に向けて灼熱球を誘導。次々と着弾させていく。


「来い……俺は此処(ここ)にいる!」


 戦場全てを見回しながら、翡翠の槍・黄金・妖精に続き、小人・黒い鎖・人型・巨人と炎が灯った巨柱をカウントしながら疾駆する。

 こうして巨柱に炎を灯していく度に、神殿全体が呼応するのを感じる。残す巨柱は氷竜、炎剣の二つのみ。


「灼熱、万火」


 だが俺の行動を阻まんとばかりに特大の灼熱球が飛来する。


 巨柱を前に攻撃を吸収しては意味がない。

 威力と範囲の広さから、回避は不可能。

 ならば、迎撃以外に道はないということ。


「直撃コース……斬り裂く!」


 長剣に漆黒を灯して一閃。

 蒼水晶(クリスクォーツ)の刃を砕きながらも、特大の灼熱球を両断する――が、その背後から更に通常弾が飛来した。つまり初撃は(おとり)。本当の狙いは巨球の影で死角を作り出し、二発目を確実に当てること。

 対する俺は、刀身が砕けた長剣を即座に破棄。もう一振りを抜刀し、灼熱球の側面を滑らせる形で剣閃を(はし)らせた。

 すると、どうなるか――僅かに軌道が逸れた灼熱球は、氷竜の巨柱へと着弾する。


「我が炎群を弾くか」

「残り一つ!」


 氷竜が炎を灯したのを一瞥(いちべつ)し、剣を鞘に納める動作と共に空へと舞い上がる。

 灼熱の嵐はこれまで以上に激しさを増すが、両手で左右三本ずつの投擲小剣(ダガーダーツ)をホルスターから引き抜き、漆黒を纏わせて一斉投擲。炎獄の魔神を強襲する。


「効かぬ」


 投擲小剣(ダガーダーツ)と灼熱球が接触、次々と爆散を繰り返していくが、俺の攻撃が届くことはない。


「狙いはお前じゃないさ」


 でも、これでいい。

 灼熱球の威力が増して弾数が増えたのだから、それだけ個々の間隔が狭まっているということ。つまり弾幕の各所で灼熱球が炸裂しようものなら、周囲の全てを巻き込みながら誘爆を繰り返してしまう。


 確かに一撃が必殺の破壊力を持つ弾幕は反則級の脅威だろう。だが攻撃が苛烈になったからこそ、その強さが最大の弱点となり得る。

 さっきのセラじゃないが、絶対無敵の力など存在しないというのは俺も同じ。一見完璧に思える力であっても、どこかに(ほころ)びは生じてしまう。だからそこを突けば、危機的状況であっても打開することは可能なはず。


 そうして猛々(たけだ)しい爆轟が戦場を包み、俺と奴とを遮断する壁となって弾幕の破壊力を激減させる。

 その間、“叛逆眼(カルネージ・リベルタ)”による吸収を用いながら、被弾覚悟で戦場を翔けた。


小賢(こざか)しい真似を……」


 特大の灼熱球が爆轟の壁を突き破って来る。呆れた力技だが、黒翼の推進力を使って宙返り、攻撃を回避する。そして、さっきまで俺がいた場所を通過した灼熱球は、その背後に(そび)える最後の巨柱に直撃。炎剣のオブジェに炎が灯る。


「だが、これで……!」


 翡翠の槍、黄金、妖精、小人、黒い鎖、人型、巨人、氷竜、炎剣――九つ全ての巨柱に炎が灯った。

 次の瞬間、その全ての炎が虹色の光へと変質し、神殿中央へと注がれ始める。それに合わせてか、試練の番人と名乗った炎獄の魔神も沈黙した。


「黒い(はこ)……? それに、この禍々しい波動……」


 光の中心に出現したのは、黒い長方形のような物体。巨柱からの光が増すと表面の(ライン)胎動(たいどう)し、一つずつ(かせ)が外れていく。その度に赤黒い波動が拡散する。

 そして、内側から一振りの剣が顕現(けんげん)した。


 刀身・柄・(つば)――全てが漆黒に染まり、(あか)で彩られた各所の(ライン)と金の装飾が成された両刃の長剣。

 その色合い以外に見た目の突飛さはないが、刀身は通常よりも少しばかり長い。


 あれこそ、(すべ)てを()き尽くす炎の魔剣――“レーヴァテイン”。神話の時代より伝わり、今代に顕現(けんげん)した聖遺物。

 あの剣から(ほとば)る途方もない禍々(まがまが)しさが、全てが真実であると証明していた。


「――九の智慧(ちえ)を示し勇士よ。禁忌の魔剣を拝謁(はいえつ)するにまで(いた)ったのは、貴様が初めてだ。ならば、その力を示してみせよ」


 炎獄の魔神が再び動き出す。奴の指示か宙に浮かんでいた魔剣が飛来し、俺の足元に突き立てられる。

 つまり魔剣(コレ)を使って、奴を(たお)せということなのだろう。

 そして、あの炎獄の魔神は魔剣封印の守護者。無尽蔵の力の源も含め、核となっているのも、この“レーヴァティン”。俺を(たお)して魔剣を取り戻さなければ、存在消滅するはず。

 その証明か、初撃以来、動きを見せなかった大剣に手がかけられている。恐らくここから先が本気の戦闘。俺が神話の武器を持つに相応しいかどうかの最終試練。


 亀裂の入った残り一本の剣を鞘ごと投げ捨て、眼前に突き刺さった魔剣の柄に手をかけると一気に引き抜いた。


「調子のいい奴だ。番人の(かがみ)だな、全く……」


 掌に感じる確かな重みを噛み締めていると、息を呑むような禍々しさが俺に襲い掛かる。それは狂気にも似た悪意の波動。


「――ッ!? ぐ……ぁ、っ!!」


 脳裏で狂気が(うごめ)く。


 許すな。許すな。許すな――。

 己を(しいた)げた者を許すな。

 己を嘲笑(あざわら)った世界を許してはいけない。


 叛逆(はんぎゃく)しろ。


 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!! 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!

 コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ!!!!!!


 ミンナ……ミンナミンナコロシテシマエバイイ。


 憎しみ、恨み、虚無(きょむ)慟哭(どうこく)――。


 これは多分、俺自身が無意識化で抑え込んで来た負の感情。ユリオンたちには冷めたように淡々と答えていたが、実際は色々と気負っていたのだろう。

 過去に起こったことを乗り越えられても、無かったことには出来ない。

 誰からも期待されず、誰からも(うと)まれ、家族からも国からも追放された最低最悪の俺の半生を――。


 この魔剣はそんな負の感情を増幅し、俺を悪意の渦へと引きずり込もうとしている。恐らくは、これも試練の一つ。所有者すら()き尽くす禁忌の魔剣とは、言い得て妙だろう。(たち)の悪い武器だ。

 もしアースガルズにいた頃の俺なら、間違いなく悪意に呑まれて暴走していた。だが、今は違う。


「――とんだじゃじゃ馬を掴まされたもんだ」

「ほう、我を失わずにその剣を手にするとは……」

魔剣(コイツ)を持って、生きて帰ると誓った。俺の過去がどうであっても、世界がどれほど腐っていようとも、それだけは(たが)えることはできない」


 蒼銀の皇女と交わした盟約によって、俺は幽鬼(バケモノ)から人間へ戻ることができた。人智を超えた力を持つ者同士の共感――と言ってしまうと大げさだが、実際はこんな俺を必要としてくれる存在が現れたからなのかもしれない。


 セラは孤独だ。

 どれだけ(きら)びやかな衣装に身を包もうと、どれほど優れた者たちが周りに集まろうとも、苦しみを共に分かち合い、対等な目線に立てる者はいない。

 ましてや一六歳の少女に戦争の重圧と国の存亡、更には為政者(いせいしゃ)としての立場を背負わせるなんて非道どころの話じゃない。

 俺はそんな彼女の苦しみ、慟哭(どうこく)を隣で見続けて来た。実際、さっきのアルバートへの対応も、そんな感情の表れだったのかもしれない。


「生きて帰る……か。笑止、自らの力で示してみよ」

「言われなくても、自分で何とかするさ。生憎(あいにく)、絶望的な状況には慣れっこだからな」


 過去への怒りなどどうでもいい。

 セラが皇女であっても関係ない。

 この世界は腐っている。セラを一人取り残すわけにはいかない。


 だから俺が護る。


 そんな想いが俺を狂気から解き放った。今もまた、ヴァン・ユグドラシルとして闘える。


「その瞳の十字……いや、何も言うまい。我が炎剣の(さび)になりたくなくば、決死の覚悟で挑んで来るがいい! その剣に相応しい主と証明してみせよ!」

「当然だな」


 俺は“レーヴァテイン”を携え、大剣を振り上げる炎獄の魔神へと肉薄。赫黒の魔剣を一閃した。

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