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第22話 早過ぎる再会

 移動すること、一〇分と少し。俺たちはニヴルヘイムにある捕虜収監所の一つへ到着した。


 予想外の呼び出しに驚いたことには違いないが、それはそれとして普段見慣れない光景は俺の興味を誘うものだった。


「収監所って聞いてたけど、イメージとかなり違うな」

「どんな廃墟を想像していたの? 気持ちは分からなくもないけれど……」


 内も外も見るからに堅牢(けんろう)そうな建物。

 鋼鉄の壁と格子(こうし)からなる牢屋。

 簡素で質素ではあるし、この一週間で見て来た場所に比べれば相当ランクは落ちるものの、囚人同士が殴り合いもしているわけでもなれば、目を背けるほど不衛生というわけでもない。

 想像以上に手入れが行き届いた設備と言えるだろう。


「確かに旦那が想像しているみてぇに、不当な扱いをする連中は腐るほどいるとは思いやすが、この国でそんなことは起こらねぇ。一緒にしてもらっちゃ困りますね」

「そうかもな。人口が少ないとはいえ、治安とモラルはアースガルズの比じゃない」

「だから独自姿勢を貫けるってことです。おっと、話はここまでですね」


 周りを見回しながら歩いている内に、目的の部屋に到着する。意を決して扉を開けば、収監所には似つかわしくない闇の聖女が佇んでいた。

 グレイブとコーデリアは首を垂れて敬意を示し、セラはそんな二人に対して楽にするように伝えて俺の方へと向き直る。


「ヴァン、参られましたか」

「ああ……でも、俺に何の用だ? 闘うのならともかく、尋問に手を貸せるような知識や技術は持ち合わせていないんだが」

「いえ、貴方の力が必要なのです。少々、厄介な方々がいて……」

「一応事情は聞いたけど、弟も顔見知りも他と同じの対応で構わない。俺に気を使う必要はないぞ」

「そう言っていただけて何よりですが……。他にも大きな問題がありまして、貴方に相談、もしくは力を借りる必要が必要と判断したので、ご足労いただいたというわけです」


 セラにしては歯切れの悪い口ぶり。

 あの連中が血縁や顔見知りを盾に命乞いでもしたのだろうと思っていたが、どうやら違うようだった。


「それが……」


 しかし、セラが真相を語ろうとした瞬間――それを掻き消すように隣の部屋から大声が響き渡って来る。


「だーかーら! アタシはヴァンの婚約者なの! 早く解放してって言ってるでしょ!?」


 その声を聞き、事情を知っているセラ以外の全員が、盛大に疑問符を浮かべた。無論、俺を含めて。

 だがコーデリアは何事かと目を丸くしてこっちを向いて来るし、グレイブに至っては何故か頬を赤らめて悶えている。俺はそんな二人に対して、首を横に振ることしか出来なかった。


「おい、セラ。さっきの騒音は一体……」


 ()にも(かく)にも、この居心地の悪過ぎる空間をどうにかしなければ、話が進まない。今も聞こえて来る馴染(なじ)みのある声を意識の外にやりながら、セラを問いただそうとするが、今度は別の声音によって遮られた。


「ふざけるなッ! 貴様ら田舎猿がこの僕を尋問するなど、許されると思っているのか!? 剣と鎧を早く返せ!」


 今度は逆側から年若い男の声が響き渡る。

 (ちな)みに外から内への声は届かない為、それぞれの尋問部屋同士でやり取りが共有されることはないそうだ。


「それで、本当にこの騒ぎは何なんだ?」

「聞いての通りです。(かたく)なに口を割らない屈強な戦士……などであれば、まだやりようがあったのですが……」

「頭に血が上り過ぎて、会話にすらならないってことか」

「言ってしまえば、そういうことです」


 セラの返答を聞いた上で、グレイブの伝言と示し合わせれば、女の発言以外は大体の見当がついてしまう。


「愚弟と愚幼馴染……とは言わないか。とにかく知り合いが騒ぎを起こしているみたいだ。悪いな」

「いえ、(かつ)(たもと)を分かった同郷の人間というのなら、ヴァンが悪いわけではないのでしょう?」

「サンキュ。流石にあの連中と一緒にされるのはゴメンだからな」


 この頭の悪い事態を引き起こしているのは、ユリオン・ユグドラシルとアメリア・エブリー。我が弟と幼馴染だ。姿を見なくとも断言できる。

 しかし、平時の今、アドレナリンが出ていた戦闘の時と同じような発狂状態に陥るというのは、(いささ)か異常と言わざるを得ない。


「ここから先は手荒なことになるだろうから、その前に俺に声がかかった。いや、処断する前に声をかけてくれたってことか」

「そんなところですね。我が領民に嬉々として刃を向けた相手に温情をかけるつもりはありませんが、状況が状況だけにヴァンの判断も仰ぐべきと思いましたので」

「でも、あんな連中放っておいて指揮官に話を聞けば……って、そういうわけにもいかないか」

「ヴァンを前にこんな言い方をしたくありませんが、敵将軍の血縁者を他の捕虜と同列には扱うわけにはいかない。最低限、お話(・・)は聞いておかねば……」

「まあ、他の捕虜よりも使い道(・・・)は多いだろうからな」


 内々かつ早急に処理した方が良かっただろうに、きちんと手順を踏んでいる。ユリオンの血縁が大きな理由であることは間違いないだろうが、恐らく俺と知り合いという要因も大きいはずだ。それも俺をここに呼んだのも、“命令”ではなく、“お願い”。

 セラの二重の気遣いに報いない理由がない。


「分かった。連中にとっては劇薬になるかもしれないが、俺ができることは手を貸そう」

「貴方の心遣いに感謝を……。実際、どう転ぶかは分かりませんが、これで確実に状況は変わる。こちらとしても手荒な真似は極力したくないですから」


 そうして俺とセラが視線を交わし合った時、不意にグレイブとコーデリアの呟きが聞こえて来る。


「あのガキが旦那の弟ってことにはビックリしやしたが、もう一人の女も重要人物だったりするんですかい?」

「でも、隔離されているのですからそういう側面もあるのでは? まさかヴァンのお友達? 顔見知り? だからとか、うるさくてどうにもならないから……なんて理由が、あるはず……ない……んですから……」


 俺達の視線に気付いたのか、二人の声のボリュームが尻すぼみに小さくなっていく。


「残念ながら、そのまさかです。それに私としても真偽を確かめたい(・・・・・・・)発言をされていますから。そういう側面もありますね」


 対するセラは、何故か全身からドス黒いオーラを発しながらイイ笑顔を浮かべて優雅に佇んでいる。無論、炎上覚悟で本心を深堀する者はいなかった。

 こうして、俺は再び過去との対峙に挑むこととなる。

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