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第20話 模擬戦終結

「なん、だと……ォ!?」


 巨体が後ろへ崩れ落ち、グレイブは尻もちをつく。その表情は呆然という言葉がこれ以上ないくらい相応(ふさわ)しいものだった。

 それと同時、あれだけ騒がしかった会場が静寂に包まれる。


「――決着はつきました。宣言を」

「は、はっ! し、勝者! ヴァン・ユグドラシル!」


 そんな静寂を断ち切ったのは、蒼銀の皇女の凛麗な声音。審判は声を裏返しながらも、戦いの終結を宣言した。


 周囲からの下馬評(げばひょう)でいけば、魔法を使えない俺の勝利は凄まじい大番狂わせ(ジャイアントキリング)。しかし試合を終えた闘技場には、歓喜の声も失望の溜息もない。

 俺の去った後も、闘技場には途方もない困惑と少しばかりの興奮が渦巻くのみだった。


「初指令(オーダー)は果たした。戦果は?」

「上々です。お疲れ様でした」


 たった一人、満足そうに笑みを浮かべているセラを除けば――。


「ただ、この様子では試用期間も何もあったものではありませんね」

「始めからこうなるって分かってて、仕掛けたんだろう? 性格の捻じ曲がった女だ」

「そういう貴方も、性格の悪さが目つきに出ているそうですよ。それに強行突破でもしなければ、彼らの偏見(へんけん)を打ち壊すのには、時間がかかり過ぎますから……。ハーナル卿へのフォローはこちらで行いますので、ヴァンが気に病むことはありません」

「分かった。それとこの剣は?」

「そちらも抜かりなく……グンスラー卿、今日は暇を与えます。“スノトラの武具店”で剣を鍛えてもらって来てください。無論、経費で構いませんよ」

「て、天下に名高い、スノトラの……あ、ありがき幸せ、です!」


 リアンは微笑みかけるセラから剣を受け取ると、デカい声を出しながら回れ右。そのまま右手と右足、左手と左足を出して、壊れた人形のように歩いていく。

 それはもう盛大に空回りしているリアンに(あわれ)みの視線を送っていると、同じような表情をしていたコーデリアと視線が重なる。本日三回目のリアンの反応に同じような感情を抱いているのだろう。気苦労が絶えなそうなコーデリアに対して、少しばかり共感(シンパシー)を抱いてしまった。


「俺はこれからどうすればいい? 正直、あの空気の中に戻るのは勘弁願いたいんだが?」

「それもそうですね。今日は私の護衛ということでお付き合い願いましょう。元より予定は空けておきましたので問題ありません」

「準備の良いことで」

「私の騎士の初陣ですから、しかと見届けるべきでしょう? ヴァンは期待以上の戦果を挙げてくれました。これで貴方を廃する大義名分は消え去りましたからね」

「まあ面倒事に巻き込まれなければ、何でもいいけどな」

「ふふっ、そうですか。では、私たちも参りましょう。ユルグ卿も同行願えますか?」

「りょ、了解しました!」


 何はともあれ、こうして俺はニヴルヘイム皇国軍へ正式に編入することとなった。生まれ故郷と緊張状態真っ只中ということもあり、この選択に思うところがないわけじゃない。それこそ今まで通り、ひっそりと旅を続ける方が気楽に一生を終えられたのかもしれない。

 だとしても、俺は自ら意志でこの道を選択した。


 ――他国を侵略しない、他国の侵略を許さない、他国の争いに介入しない。


 俺を突き動かしたのは、この国が抱く理念への共感。差別と暴力に溢れ、野心を抱く者たちが作り出したこの世界において、唯一自らの利を()ててでも闘わない道を進むと断言したこの国を暴虐の前に散らしたくないと思ったから。

 そして、闇の聖女と交わした災厄と血の盟約。


 失いたくない存在、護りたい存在。

 家族・友・国――全てを失って虚無と絶望の世界を生きていた俺にも、こうして譲れぬ想いができた。世界に色が戻り、幼い頃より止まっていた時間が動き始めた。

 今はただ、前に進むのみ――。

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