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第196話 薄氷の平和

 死闘から二ヵ月――。

 目まぐるしく変わる情勢の中、未だ世界は揺り動き続けていた。


「全く……流石の私でも、今回ばかりは目が回りそうです」

「――!」


 無論、戦後処理に追われているのは、俺たちも例外ではない。政務に(はげ)む傍ら、ニヴルヘイムと各国を行き交う忙しい日々を送っていた。


「仕方ないさ。まだまだ問題が山積みだからな」


 まず闘いを終えた俺たちを襲った困難は、天空神殿の崩壊と“悪轟眼(イビル・アマルガム)”の喪失。つまりは神々の世界から戻ってくる方法を失い、それを知っている者も消え去ってしまったことを意味していた。


 いくら未来を切り拓くという最大の目的を達したとはいえ、それとこれは別問題。疲労困憊の状態で帰還手段を探したのは記憶に新しい。

 ただ“葬黎殿”のサブ動力がギリギリ生き残っていたのは、不幸中の幸いだった。


 どうにかこうにか大陸を浮上させ、虹の橋(ビフレスト)を渡って帰還。

 最後は全員が力を振り絞って攻撃を放ち、光り輝く虹の橋(ビフレスト)を破壊した。


 そして現状――。


 一連の闘いで、こちらの世界と神界は完全に分かたれたと言っていいはず。

 少なくとも、神々と神獣種の脅威から解放されたことは事実だろう。とはいえ、逃れた連中がいるかどうかについては、未だ分からない部分ではあるが――。


「戦力の損耗は甚大。我が国を含め、未だ復興の目途が立っているとは言い難い。それに平和なのは、今だけでしょうしね」

「ああ、人類の弱さと醜さ……何も解決したわけじゃないからな」


 神界についてこれ以上の考察は不可能。

 今度はこちらの世界情勢について話をしよう。


「しかしエルフの国々が合併するとは、少々驚きですね」

「そうだな。元々近い種族とはいえ、気が遠くなるほど隣国同士で争ってきたんだ。それが今になって……」


 アルフヘイムとズヴァルトアルフヘイム――名前が似ている通り、元々は一つの国だったとのこと。

 言ってしまえば、仲違いしたお隣さん。

 互いに戦力を失い、国力低下を補うという名目で合併したのだそうだ。まあエゼルミア陛下とセシルの思惑が下地にある政策なのは、言うまでもないが。


「両種族の溝は深い。それでも平和への第一歩をこれ以上ない形で歩んでくれました」

「俺たちも後に続かないとな」

「――!」


 合併と言えば聞こえはいいが、これまでの様な同盟よりも遥かにデメリットが大きい。


 その多くはセラの言う通り、種族間での差別と偏見。

 何より、これまで秘匿してきた重要な情報を相手に開示しなければならないし、国の中枢に元敵国を迎え入れる機会もあるだろう。


 情報とは最大の武器だ。

 だからこそ、これまでは他国に斥候を送り合ったりもしていたし、情報を奪われない様に国を守る軍や衛兵がいた。その内側に他国の人間を迎え入れるというのだから、並大抵の覚悟じゃない。


 そんなエルフたちの覚悟を無駄にするわけにはいかないということだ。

 だが変わっていく国がある一方、表向きにはそれほど変化がない国もあった。


「ヴァナヘイム、アースガルズは変化なし。ムスペルヘイムは、捕らえられていた王族が復帰しての政権再スタート。“恤与眼(ギフレイン・ドグマ)”での記憶改竄で、民衆は真実を知る由もなしか……」

「ある意味、幸せなのかもしれませんが、ままならないものです」


 とはいえ、先の大戦で協力した経験が消えることはない。各国が安定を取り戻した上で、第二、第三のアレクサンドリアンが出てこない限りは、今までの様な戦争は起こり得ないだろう。

 その間に平和へと漕ぎ着けたいところだが――。


「何より、あのヨトゥンヘイムがミズガルズの自治権を手放すとはな」

「今回の戦闘……種族の平均値を取れば、彼らの貢献度が最も高かったとも言えます。つまり、相応の被害が出ていたのでしょう」

「……それに強い奴と骨肉を抉り合う激しい闘いがしたい。ある意味、連中は自分たちの目的を達したってとこか」

「ええ、神々が相手ともなれば、これ以上はない。燃え尽き症候群とも言えるのかもしれませんね」


 平和の真逆を地で行く、ヨトゥンヘイム。

 大戦を終えても強硬姿勢を貫くと思われていたが、意外にも大人しく引っ込んで戦後処理に従事していた。


 ただ最後の局面で俺たちを庇ったオージーンは、左腕を失う程の大怪我を負っていた。腕一本無くなったぐらいでどうにかなるような男ではないと思うが、恐らくセラの言う通り闘争本能が満たされたが故の静寂なのだろう。


「カールナイツは故郷へと戻れたようですね。大変なのはこれからでしょうが」

「元が弱いのも相まって、国力低下は他の比じゃないからな。まあ、後は連中の前を向く力に期待ってとこか」


 ヨトゥンヘイムの自治権放棄によって、最早懐かしくも感じるカールナイツとミズガルズについては、一応元の状態に戻ったとも言える。

 それはイザベラたち捕虜の返還、異界の者である斎藤翔真と未知の技術を失ったことも意味していた。

 しかし、これまでの闘いで戦闘員を多く失っている為、手放しに故郷へと戻れたというわけじゃない。復興という意味合いにおいては、最も困難な状況にあるのだろう。


「残る問題は、彼らでしょうか……」

「さあな。少なくとも連中にとって、もう世界の混沌は必要ない物になったはずだが……」


 そして“神断の罪杯(カオス・グレイル)”についてだが、連中も大きく戦力を損耗していた。生き残ったのは、ゼインとフェリス、フレイヤの三人だけ。

 役目を終えて崩壊した浮遊大陸を放棄し、連中は最後の最後に大騒動を起こしてどこかへ旅立っていった。


「そうでしょうね。あれだけ好き放題暴れたのですから、静かにしていて貰わないと困ります」

「……正直、すまんかったと思っている」


 だがセラがジト目を向けて来る通り、その大騒動に関しては俺も当事者だった。


 具体的に言ってしまえば、ゼインとは模擬戦という名の死闘を繰り広げたということ。

 ただ夢中になって戦っている内、山をいくつか消し飛ばしたところでセラとフレイヤが乱入。

 二人揃って大目玉を食らったのは、記憶に新しい。

 奴が旅立つ際、決着は次だと言い放っていたのも含めて――。


 最後にニヴルヘイムについてだが――。

次回、最終話。

乞うご期待。


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