第194話 黄金の雪光
「いい加減しつこいねぇ! 全く!」
「貴方たちが手を退けば、戦わずに済むのですが……!」
蒼銀の大刀が虚無の弾丸を斬り裂く。
「その勢いや良し。だが! それでも! 我には届かん!」
「ぬかせっ!」
紅蓮の渦が雷槌と激突する。
「老体には、ちとキツいのぉ」
「そうは見えないがな!」
漆黒の斬撃で神槍を押し留める。
いよいよ最終局面を迎えた、再びの“終焉血戦”。
闘いのマッチアップは、これまでの通り。
だが、これまで以上に激しさを増していく。
「彼方より来たれ、智慧の渦よッ!」
「破砕する!」
“慟哭の刃雫”――オーディンが生み出した小型の竜巻を黒翼からの刃撃で壊していく。
枚数、大きさ、基礎出力――これまでとは別次元。
神の災害を押し返し始める傍ら、両サイドの闘いを一瞥する。
「戦況は互角……いや、ここで押し切れば……!」
神々はこれまでの蓄積で疲弊し始めている。
皆の力を束ねたこちら側に流れが来ているのは明白だろう。
だが逆を言えば、ここまで無茶をやっても倒しきれていないということでもあった。
それも他の連中に強烈な負担を強いる強化形態がいつまで持つか分からないし、結局のところ長期戦なら不利という有様だ。
故に戦況をひっくり返せる術があるのなら、基礎出力が最も高い俺が最高神を打倒する以外に道はない。
「“我、創造の神に在りて”――!」
「まだこれだけの力を……!?」
眼前で白光が瞬いた。
振り上げられた“グングニル”に膨大なまでの力が凝縮されていく。
「それでも……!」
対して、俺は三対六枚の翼を融合させ、巨大な一対の黒翼として顕現。
同時に両手の剣から漆黒を放ち、翼を思わせる二振りの巨剣を生成する。
“叛逆眼”、“天召眼”、“恤与眼”の力を束ねた最大最強の一撃。
撃ち勝てば、人類は未来を紡げる。
撃ち負ければ、神々に隷属する。
ここが全ての分かれ目――。
「な……!? これは……?」
そんな最中、オーディンの全身に紋様が浮かび上がる。
しかし、それは刺青でもなければ、神碑文字でもない。
無論、魔法の効能というわけでもなかった。
何故そんなことが分かるのかと言えば、俺の魔眼がその光に呼応しているから。
その上、灰黒の円環という紋様には、心当たりがあり過ぎた。
『ふふっ、中々に興味深いことになっていますねぇ!』
聞こえて来るのは、女の声。
ある意味、宿敵であり、さっきまで仲間だった女の声だ。
「貴様は……儂が消し去ったはずじゃがのぉ!」
『この身が滅んでも、私の意志は消えません! 消滅させられる寸前、貴方を解析して私の一部を敢えて取り込ませたのだから! 故にこうして、私は神と同化した!』
「創造神である、この儂に何たる狼藉!? 万死に値するぞ!」
オーディンに寄生し、その身を蝕んでいるのは“悪轟眼”。
担い手は、アンブローン・フェイ。
『さあ、こんな戦いなどどうでもいい! 私に貴方の智慧を……叡智の全てを明け渡しなさい!』
「人間風情が!?」
白き光が渦となって天を衝く。
それは精神と魔眼のせめぎ合い。
普通であれば、人間であるアンブローンが神に勝てるわけがない。
しかし奴は、オーディンの一部となって完全に同化しているというのだから、話は別だろう。
どれほど強大な力を持っていようが、自分自身には無力。
加えて、魔眼の力が神々相手でも作用するのは、これまでの闘いが証明している。
つまりアンブローンの真の目的は、オーディンの精神を創り変えて自らが創造神――世界の全てを知り得る者に成り代わることだったわけだ。
正しく、研究欲と狂気の暴走。
同時に“神断の罪杯”や国々の争乱、この戦いですら前座でしかなかったということでもある。
一方、実質敵と化したアンブローンの行動は、こちらにも思わぬ作用を生み出していた。
「え……これって?」
特攻の際、アンブローンから投げ渡された“無銘眼”――主を失った魔眼は、アイリスの腕の中に納まった容器の中で光を取り戻している。
いや、それだけじゃない。
「魔眼が蘇った?」
「ちっ、皮肉なものだ。今になって……」
フェリスとゼインが言葉を零す中、残された眼球に雪の結晶を思わせる紋様が浮かび上がったばかりか、無色の光が鮮やかな黄金へと変わっていく。
更には、白銀を纏って二色の光へと変化した。
六つの魔眼の共鳴。
“禁忌魔眼・解放”という、神々の消えた時代で起こった人類の進化。
敵に味方に分かれてこそいるが、その全てが本当の意味で集った瞬間だった。
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